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「供給不足」の3年後に銀価格が50ドルへ急騰した背景(パート1)

2011年4月に、銀価格はその6ヶ月前の価格から倍増しました。それはなぜなのか、そして銀価格の今後の見通しについて考察してみましょう。

銀価格は、3年前のこの週に50ドルを付けました。ブリオンボールト米国市場開発責任者のミゲル・ペレスーサンタイアがここで解説しています。

ニューヨークの現物市場で銀が49.80ドルで取引されたのは、2011年4月25日でした。ということは、銀はどこかで50ドルで取引がされたはずです。また、当時は大量な取引が行われていました。しかし、価格はこの週49ドルを保ったものの、その後急激に下落することになりました。

多くの金と銀のトレーダーが取引時に参考とするデータは、金と銀のレシオ(割合)です。ある人々は銀は金と比較して価格が抑えられているとし、歴史的なレシオ(割合)である、金1オンスあたり銀16オンスへと戻ると考えています。

そのために、過去28年間、銀が金と比較して高い価格ではなく、ドル建て価格で当時6ヶ月間で価格が倍増したにも関わらず、1980年に達した50ドルを超える価格で銀は取引されるまでは、その上昇傾向は終わらないと信じられていたのでした。

しかし、2011年に50ドルへ至った銀市場は、1980年の市場とは大きく異なっていたのでした。当時の価格上昇の背景は、消費者物価の継続的な上げであり、それに加えてNelson Bunker Hunt氏とそのパートナーが銀市場を動かそうと試みていたのでした。しかし、この試みは、米連邦準備制度理事会(FRB)と商品取引所の主要メンバーによって阻止されたのでした。

30年後に世界経済は再び大きな危機に瀕していました。米国経済はサブプライムローン危機とリーマンショックの影響を引きずっていました。また、ユーロ圏はギリシャ、アイルランド、ポルトガル、イタリア、スペインの財政難により、解体の危機に瀕していたのです。

米国の経済回復への自信は、過去に見られないほど揺らいでいました。そのため、ユーロ圏の問題によって、更なる金融危機が発生する懸念を高めていたのでした。そして、米連邦準備制度は、2010年11月初めに新たな量的緩和を行うことを発表しました。米国造幣局による銀貨の月間販売量は記録的な水準となり、この記録は2011年初頭の個人投資家の需要の急増時にのみ更新されました。これは、新たな量的緩和は更なる米ドル紙幣の増刷(もしくはバーナンキ前FRB議長曰く電子的な増刷)を意味することからでした。そのため、多くの投資家は、ドルの価値が下がることを懸念し、安全資産であり、長期のインフレ時に価値を保持もしくは高める資産への投資が重要と考えたのでした。

銀市場においては、銀の工業用需要における長期の強気傾向をサポートするレポートが出されていました。例えば、光電池業界は前年よりもはるかに大量の銀を消費し始めていました。太陽光発電の製造時には、銀のペーストを利用し、このためには専門市場で取引されている品質よりも高い純度を必要とします。この業界が、高い純度の銀(0.9999)を大量に消費したことは、注目されました。それは、より純度の低い銀(0.999)は、供給不足となっていなかったものの、高い純度の銀は供給不足となったためです。そして、需要の増加は、銀価格の急騰と時期を同じくしたために、このことは語り継がれたのです。

当時ニューヨークのHeraeus Preciious Metals Managementのセールス部門のバイス・プレジデントは、2011年1月に投資を開始する人々のために、光電池業界の需要により価格が急騰したという説を正すことを依頼されました。重要な点は、太陽光発電の需要は、それまで何十年も銀の最大の消費元であったフィルム業界の大幅な需要減少を埋めるに等しい量でしかなかったのです。

しかし、標準の純度の銀地金と高純度(0.9999)の銀地金の現物供給上の異変は、供給不足という印象を残したのでした。更に、この説が雪だるま式に大きくなるに連れ、個人投資家の銀貨や小規模な銀地金への需要は高まり、世界的な経済危機への懸念は、即日受渡の現物価格が将来受渡の商品の価格と比べても高くなり、プレミアムを生むこととなったのでした。この現象は、先物市場で2011年2月まで続くこととなりました。

それはなぜなのでしょうか。現物需要が予想を上回った場合、地金精錬会社にとっていち早く供給を増加するのは簡単なことではありません。それにより供給不足が起こります。そして、その商品が全般的に供給不足となっている印象を与えます。それは例え、供給不足となっているのは限られた商品であったとしてもです。3年前に銀価格がトロイオンスあたり50ドルへ向かっている際に、ある特殊な銀貨や銀地金の供給不足ではなく、銀(全体)の供給がなくなりつつあるという話は、多くの小売業者がセールストークとしてよく使っていたのでした。

逆鞘(Backwardation)とは、将来受渡の銀価格が、即月受渡の銀価格よりも安いことです。銀の先物は、通常順鞘(先物価格がスポット価格より高い)で取引されます。これは、地金売却者は、将来受け渡しをするまでの在庫保管費用を支払う必要があるために、この費用が価格に含まれているためです。そのため、2011年初頭の逆鞘(Backwardation)は、即日受渡の銀現物の供給不足を示唆し、銀の強気市場をサポートしたのでした。

それでは、実際の銀現物需要と供給を分析してみましょう。光電池業界は、2008年から2011年に大きな成長を遂げました。トムソン・ロイターGFMSによると、この間にこの業界の銀の需要は338%増となりました。これは、もちろん太陽光発電業界にとっては天文学的数字です。しかし、この銀需要は、銀市場全体を動かすファンダメンタルズ(基本要因)としては意識されなかったのでした。

チャートの2003年から2012年の銀の供給と需要を見ると、供給と需要が同等であったことがわかります。そして、供給不足は起こっていません。実際には、銀市場はこの10年間に十分な供給があったのです。

銀市場の主要データー提供会社であるトムソン・ロイターGFMSは、供給と需要データの「差」を、「Implied inestment(需要と供給の差:チャートの赤線)」と呼んでいます。これは、需要と供給を釣り合わせ、供給不足もしくは供給超過の際のバランスを保つ数値であるのです。

GFMSは、この数値を最新レポート「Gold Survey  2014」の中で、「a spade a spade」と呼び始めています。来月ワシントンを拠点とするSilver Instituteによってまとめられる新たなレポート「Silver Survey」においても同様な呼び方をされることとでしょう。そして、過去のこの数値を見ると、2010年から2012年まで約15%であるのです。

銀の投資需要は確かに光電池業界の需要とともに増加してきています。しかし、これらの需要をまとめても、市場における価格が上昇することで増加した供給量には及ばないのです。鉱山会社やリサイクル業者は、このような価格上昇時には、収益を高めるために供給を増加させるのです。

これは、帝政初期ローマに生きたマケドニア出身の作家のパエドルスの言葉である「Things are not always what they seem(物事は必ずしも見た目どおりではない)」と同様です。しかし、「買い時が過ぎ去る前に今買うべき」というセールストークに釣られて多くの庶民は投資をし、この間需要が急増したのでした。

もう一度先のチャートを見ると、2012年の製造の需要は減少したことも分かることでしょう。これは、2011年のボラティリティーと高い価格を考慮すると理解できるものでしょう。そして、この業界の「(現材料の)節約」が起こったのでした。

「(原材料の)節約」は、製造業において、その原材料価格がある一定の水準を超えた際、もしくはその価格のボラティリティーが高いために、原料コストを管理するのが困難になった際に起こるものです。そして、この価格が上昇した、ボラティリティーの高い原材料の代替品を見つけることに投資し、損失を防ぐことを試みます。この際の原材料は銀であったのです。こうして、見せかけの供給不足が要因で2011年初頭に銀価格が急騰したことで、「(原材料の)節約」が行われ、工業用需要を減少させることとなったのでした。

この続きはパート2をご覧ください。

Miguel Perez-Santallaは、世界最大のオンライン金現物投資サービスを提供するブリオンボールトの米国市場開発責任者である。個人投資家の代弁者であり、メディアのコメンティターやセミナーのスピーカーとしても活躍。現職に至る前に、米国の主要コインディーラーや国際的規模の精錬会社、Heraeusで勤め、貴金属業界に30年以上従事した経験を持つ。

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