金への投資 - 今回は違うと考えるべきなのか
今日の金への投資は、賭けのようなものなのでしょうか。
2009年は、金価格は一息つける年であるべきでした。
過去十年間で、最も良いリターンを得ることができた資産として、金は米国における証券市場におけるもっとも長期間(1982年から1989年)の利益増の記録と並び、平均16%の年間の利益率を2001年以来作り出しています。
この昔ながらの資産が2009年に引き続きその値を上げ続けたばかりか、2009年には日本円を除き、全ての通貨において歴史的に最も高い金価格を記録しました。
この金の長期的な、「バブル」とも呼ばれている状況は、2010年についに終了するのでしょうか。
エコノミストは、その過去の収益率から、金は収入を得られる資産ではないと考慮せざるを得ないと考えています。それがゆえに、現代の基準においては、金は希少価値の無い物、もしくは、投資価値の無い物とさえ考えられることがありました。Nouriel Roubiniは、急激なインフレーションがなければ、金には本質的な価値は無いがために、これは「バブル」に違いないとさえ言い切っています。
工業用として、少ない量(過去5年間において平均年間需要の14%)が消費されている中、金の経済的価値は、他の全ての投資商品が利益を出さない中で、資産を保全することができるという社会的価値となります。貴金属と商品市場における投資商品以外では、2000年からの過去10年間は、その名前(Noughties - 2000年からの10年間という意味と0の意味でもあるため)のように利益率が0であるどころか、マイナスリターンの10年間でした。
証券市場にとっては、1930年代以来(もしくは1820年代という投資家もいることでしょう。)の最悪の10年間でした。また、この10年間は、先進国の国々が始めて同時に不動産不況に陥った10年間でもありました。債券購入者にとっては、過去30年間は非常に優れた投資環境でした。しかしながら、この10年間の強気の市場が継続するためには、ゼロ金利に加え、日本、米国、ヨーロッパの中央銀行による量的金融緩和政策を必要とし、これは、貯蓄者及び年金受給者にとっては好ましい環境ではありません。
預金は、インフレーションを考慮すると、ほぼ0に近い利息のみが支払われます。英国において税務上優遇されているISA (Individual Saving Account) 口座では、2007年以来ほぼ正確に収益平均の収益率となっています。米国における6ヶ月CDs(譲渡性預金証書)は、過去10年間では、年間平均0.8%の収益率となっています。これは、1970年代の2倍ですが、90年代の2.4%、80年代の4.4%と比べるとかなり低いものです。
一般投資家は、収益率よりも、その資産を守ることを望んでいます。このような希少価値のある、破壊することのできない、シンプルな破綻リスクのない、過去に通貨としても使用された金を保有している機会費用は、昨今のゼロ金利の状況下では取消されます。また、低金利は、過去10年間の4つの波で訪れた金価格上昇時と70年代のインフレーション時における、共通の要素です。このようなことから、金価格が再び上昇することが予測されるのです。
短期間に金価格がわずかな上昇しか示さなかったり、上昇をしないということもあるかもしれません。しかし、ベン・バーナンキ氏が、「低金利ではなく金融機関における規制を非難」するスピーチを今年度初期に行ったことからも、銀行貯蓄へ人々が戻ることはしばらくの間はないと考えるべきでしょう。連邦準備制度理事会の動向を見ている専門家は、翌日物金利が上がるのは2011年か2012年かという点で意見が分かれています。しかし、消費者は、このような下落する景気の中では、債務を支払うこともしくは貯蓄を増やすことを考え、いつ金利が上昇するかということに関して強い興味を示します。
多少の変則的な状況を別として、失業と購買力の喪失を考慮すると、2009年春の連邦準備制度理事会の内部資料によると、理想的な金利はマイナス5%であるとのことです。2008年初めから現時点までで6百万人の失業者を抱える米国では、Paul Krugman氏とBrad Delong氏に率いられるエコノミストは、連邦準備制度理事会へ明確なターゲットとすべきインフレーション率を提示することを要求しています。日本にとって純粋な「アーニングサプライズ」がない中、欧州及び北アメリカの有価証券および株式は、(おそらく過大消費、過剰税率下での、雇用状況が安定した消費者により)株価収益率においては、すでに歴史的な収益平均を記録しています。ベアマーケット(弱気市場)の底にはまだ至っていません。
先進西欧諸国以外で、経済大国となりつつある国々では、一般投資家も公的機関も金を貯蓄しています。インド中央銀行は、昨年11月にIMFが備蓄していた200トンの金を購入し話題となり、金価格は17%上昇しました。中国人民銀行は過去十年間金の備蓄を続け、ロシアは、昨年12月にオランダを抜き、世界第6番目の金備蓄量となっています。しかしながら、2010年に注目されているのは、中国の一般投資家の需要です。過去5年間に中国においては一般投資家が中国人民銀行の約4倍の1,775トンの金を購入しています。これは、収入の多くを貯蓄することで有名な中国における個人貯蓄の2%以上のものです。
2009年には、すでに発掘された世界の金の総量の価値は、世界の国内総生産の11%に至ると言われていました。最も価値を高めた1980年には、18%に至りました。しかし、その際は金利が高く、西欧諸国の経済及び労働市場は規制緩和され、投資目的よりも貯蓄目的というように、東アジアの金への需要は抑制されていました。
近年のブルマーケット(強気市場)で10年目に至り、テクニカルアナリシストは、強気市場から弱気市場へと移行すると予測するかもしれません。しかし、一般家庭では、厳しい家計事情から保有の宝石貴金属を売却せざるを得ない中、Paul Tudor Jones氏とJohn Paulson氏の率いるヘッジファンドは、最近金の保有を始めました。収益率において金と競い合う債券市場のブルマーケット(強気市場)は、28年間続いています。その間、債券は1982年の初めには10年物の利回りは15%を越えていました。もし、現在あるトレンドで継続が不可能なものは、低金利で支える公共投資であるはずです。
2009年3月の量的金融緩和政策により、債券価格はすでに利回りが下がると共に下げています。全ての政府は、現在歴史的な景気回復経済政策を行っています。これは、英国においては、2015年初期に満期となる国債の支払いのみで2.15億ポンド(3.4億ドル)となっています。これは、歳出や景気対策を行う以前に国内総生産の3%を超えています。これらの国債の利回りを保証し続けるためには、新規の量的金融緩和を行わざるを得ないはずです。このような金融政策は、金融危機を先に延ばすだけであり、国債の格下げ、さらには破綻(ソブリン・リスク)が近い将来新聞の一面をにぎわす事となるでしょう。
今後どれだけ国債や通貨を使った金融政策を続けていくことが可能なのでしょうか。おそらく、近い将来にはその答えはでるであろうと推測します。金価格が12%下落する中で、金を保有し続けること、もしくは金を購入することは、金への投資は賭けではないということは難しいかもしれません。しかしながら、10年前に、インターネットバブルがはじけた時に、金融政策担当者が、インフレのリスクを取っても量的緩和を行うか、それともそのリスクを避け景気回復を遅らせるかの選択をしなければならなかったように、遅かれ早かれ同様の選択をしなければならないという面では、一つの賭けと言わざるを得ないかもしれません。