金市場ニュース

米債務残高上限問題と金価格

ドットコモディティ株式会社コモディティ・アナリストの吉田哲氏が、昨今史上最高値を更新している金価格の背景を、米国債務残高上限問題と共に、コモディティ専門情報サイト「Commodity Board」で解説をしています。

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2011年7月27日(水)15時(日本時間)ごろNY金(中心限月8月限)は1625.8ドルをつけ史上最高値を再び更新、同時間ドル円は約4ヶ月ぶりに77円70銭台に突入した。

歴史的な円高との声も聞かれる中、円高というよりはドル安との言い方が当てはまるのではないか。ドルは対円で4ヶ月ぶりの安値、対ユーロで1ヶ月ぶりの安値、対スイスフランでは史上最安値となるなど、ドルは対主要国通貨で独歩安の様相を呈している。

【ドル円とNY金の値動き】

(左軸:NY金価格 単位 ドル  右軸:ドル円  単位 円)

(Reuter Eikonより筆者作成)

上記グラフが示すとおり、ドル円とNY金はおおむね逆相関の関係にあると言ってもよいだろう。その仕組みは以下の通りである。

ドル安に振れた場合 → ドル資産を保有する妙味が薄くなる → 消去法的に安全資産としての見方から金市場へ資金流入

ドル高に振れた場合 → ドル資産を保有する妙味が高くなる → リスクを取る動きが強まり安全資産としての金から資金流出

また、NY金はドル建てで取引されていることから、ドル安に振れた場合は他国通貨建ての金に比べ割安に映ることから買われる傾向もある。円高局面で東京市場の銘柄が弱含むのはこのためである。

【なぜ、ドル安なのか?】

米債務残高上限問題により、米国債がデフォルト(債務不履行)する、デフォルトに至らない場合でもトリプルAという最上級の格付けを失う懸念が生じているためである。米国債は日本・中国をはじめ世界各国の外貨準備における最大の運用先である故、デフォルト・格下げのインパクトは計り知れない。

・米債務残高とNY金価格の推移

(左軸:NY金価格 単位 ドル  右軸:米債務残高  単位 億ドル)

(Reuter Eikonより筆者作成)

上記のグラフより、米債務残高(=米国の借金の金額)とNY金価格はほぼ相関関係にあると言ってもよいのではないだろうか。2008年のリーマンショック以降、米債務残高の伸びが加速、同時に金価格の上昇のスピードも増しているようである。その仕組みは以下の通りである。

米債務残高の増加 → 世界の基軸通貨を発行する米国への不安の台頭 → 安全資産としての金への資金流入

・米債務残高上限問題

(7月18日掲載 筆者執筆「NY金、10日続伸。一時1600ドル超」より一部抜粋)

米国における債務残高が既に法的上限に達しており、国債発行による新たな資金調達ができない状態になっている問題。

今年5月に明らかとなったこの問題について、米政府は上限引き上げのため議会へ要請するも、赤字削減を実現すべく共和党は反対している模様。

8月2日が目先の暫定措置の期限とされている。

→金市場へ影響は?

米国債を発行することができなくなり新たな資金調達ができなくなれば、米国そのものの破綻につながるリスクが格段に高まる。

逆に上限引き上げに与野党が合意した場合には、更なる米国債の発行が認められることとなり、米国の赤字問題がより深刻化することになる。

つまり、

・新たに資金調達ができなくなった場合

「米国の破綻リスクの高まり」→「安全資産としての金に注目が集まる」

・新たに資金調達ができるようになった場合

「更なる米国の借金増加」→「中長期的なドル安傾向」→「代替通貨としての金に注目が集まる」

と、どちらのパターンでも金のマーケットにとっては強材料となる可能性が考えられる。8月2日が暫定措置の期限とされる同問題について、今後も注視していきたい。

【参考レポート】

・Goldしっかり、pd 上昇 - Aug Goldの動向に注目

https://commodity-board.com/2011/07/goldpd---aug-gold.html

・ドル安進行を受けて堅調な推移

https://commodity-board.com/2011/07/post-8695.html

デフォルト不安の中、独り買われる"金"

https://commodity-board.com/2011/07/post-8673.html

・米国債がデフォルトとなった場合のシナリオについて

https://commodity-board.com/2011/07/post-7021.html

以上

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吉田哲氏は、ドットコモディティ株式会社コモディティ・アナリストとして、テレビ・ラジオ・マネー誌などのメディアへの出演・コメントの提供を通じて幅広くコモディティ情報の発信を行う。同時にコモディティ専門情報サイト「Commodity Board」へのレポート寄稿、オンライン・会場セミナーにてコモディティ関連の情報を精力的に発信。開催回数が200回を超え、のべ3,000人以上が視聴しているオンラインセミナーは、コモディティ専門のオンラインセミナーとして毎週2回配信中。

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