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日本経済:その見通しと問題点-低成長下、東日本大震災を超えて(その2)

専修大学経済学部教授で、金融政策の専門家である田中隆之経済学博士が、日本経済の見通しと問題点について、東日本大震災の影響と、経済低成長の背景を説明し、解説しています。このレポートは、前回(その1)に続きお届けいたします。

日本経済:その見通しと問題点-低成長下、東日本大震災を超えて

2 構造的低成長の原因

(1)これまでの日本経済を振り返る

①成長率の低下

図表9 日本の経済成長率(実質GDP増減率)推移

②インフレからデフレへ

図表10 消費者物価上昇率(除く生鮮食品)

③失業率の上昇

図表11 失業率推移

④一人当たりGDP(豊かさ)の低下

図表12 一人当たりGDPの国際比較(2000年と2009年)

⑤国際競争力の低下

図表13 日本のIMD国際競争ランキング

(2)構造的低成長の主因―人口減少とキャッチアップの終了

★成長会計の考え方からみた構造的低成長の要因

①労働力人口の減少による、労働投入の減少

②技術進歩率の低迷による、生産性の低下

★1 経済成長とは何か~長期経済予測の考え方

図表14 「成長会計」による成長要因の分析

成長会計からみた潜在成長率の低下

①生産年齢人口減少

  • 労働投入の減少

②TFPの低下

  • キャッチアップの終了
  • 産業技術進歩への不適応説(グローバル化とIT化への乗り遅れ/すり合わせ型技術vs組合わせ型技術)。
  • 高齢化によるTFPの低下

(注)壮年期以降、加齢により労働生産低下を仮定

※処方箋は、①にはグローバル化・IT化に適応するための規制緩和、②には少子化対策、女性・高齢者雇用対策などがあるが、抜本策は必ずしも明らかでない

B)長期的・構造的な需要不足説

①財政・社会保障不安による消費委縮説

  • 巨額の財政赤字→将来増税の可能性→消費者が「財布のヒモ」を締める(リカードの「中立命題」)
  • 年金問題(「消えた年金」、未納)→将来年金減額の可能性→消費者が「財布のヒモ」を締める

②人口減少による需要縮小説

  • 支出が多い生産年齢層の減少→消費の減少
  • それを見越して設備投資も減少

※処方箋は、①には財政再建(ただし短期的には需要減が心配)、②には少子化対策?

(C)日銀の金融政策失敗説

  • 日銀の金融緩和(金利引き下げ)が足りない

→需要不足 とする説

※処方箋として、①政策金利(コールレート)がゼロ%に達し、引き下げできない状況で、「量的緩和」が主張され、行われてきた。②インフレを人為的に引き起こす主張も現れたが、実行されず

  • 結論的には、「量的緩和」は金融システムの安定に効果があるが、需要喚起には限界。インフレ喚起も困難
  • 金融緩和は景気回復の十分条件ならず

(D)その他の構造要因説

①日本型システムの非効率説

  • 長期雇用・年功賃金→雇用の非流動性
  • 間接金融優位の企業金融→リスクマネーの供給不足
  • 株主不在の企業統治→経営のモラルハザード
  • 長期的取引慣行→コストダウンの障害

②産業空洞化説

  • 生産設備の海外移転→雇用、設備投資の減少、技術基盤の喪失

※処方箋として、①で、雇用流動化、金融システム改革、株式会社制度の改革などがあり、行われてきた。②では、円安誘導が主張された

この続きは、「日本経済:その見通しと問題点-低成長下、東日本大震災を超えて(その3)」をご覧ください。

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1957年長野県生まれ。1981年東京大学経済学部卒業、日本長期信用銀行入行。産業調査部、調査部ニューヨーク駐在、市場企画部調査役、長銀総合研究所経済調査部主任研究員、長銀証券投資戦略室長チーフエコノミストなどを経て、現在専修大学経済学部教授、博士(経済学)。専門は財政金融政策、日本経済論。著書に、『「失われた十五年」と金融政策』(日本経済新聞出版社、2008年)、『金融危機にどう立ち向かうか』(ちくま新書、2009年)などがある。

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