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金専門市場が来年の金価格を1532ドルと予想

驚くべき価格予想が、金専門市場の中心で働く人々によって予想されました。

金を含む貴金属専門市場の参加企業が一堂に会するロンドン貴金属市場協会(LBMA)とロンドンプラチナ・パラジウム市場(LPPM)の年次会議が米国ボストンで10月28日から30日まで行われていました。

この年次会議では、会議最終日に会議に参加している専門市場の会員企業のエグゼクティブやトレーダーやアナリストが、金・銀・プラチナ・パラジウム価格が翌年の年次会議の際にいくらを付けているかを予想し、翌年の会議で結果を確認しあいます。そこで、2019年に中国の深圳で行われる年次会議における予想価格の平均が今週発表されたのでお伝えしましょう。

今年のボストンで行われた年次会議の翌年の年次会議時の平均価格予想は、金がトロイオンスあたり1532ドルと同日のLBMA価格から25%増と、2001年以来の強気のものとなりました。

先の表の緑色のダイアモンドのマークは、毎年LBMA/PPM会議が行われる10月時点での実際の金価格を表示しており、赤の正方形は、年次会議参加者による翌年の年次会議までの12ヶ月の平均価格の予想を示しています。そして、オレンジ色の丸は翌年に実際にどのような価格であったかを表しています。

ちなみに、過去5年間のうち2015年を除く4回は、会議参加者は会議が行われていた時の価格よりも翌年は高くなると予想していました。しかし、この表でもわかるように、会議時点の価格と予想価格がここまで大きな幅を見せたのは表で示している11年間はもちろんですが、19年の歴史の中でも今回が初めてでした。

昨年のバルセロナの会議では、今年の会議の際には金価格はトロイオンスあたり1399ドルと予想していました。これは、同日の価格から一年後には11.6%上昇するという予想でしたが、今年の平均価格は1230ドルであったことから、これは実際よりも169ドルほど高い予想となりました。なお、2016年のシンガポールの年次会議での予想でも2017年は6.8%アップの1347ドルになると予想をし、実際の価格よりも86ドル高く予想されていました。

昨年バルセロナでの会議においては、当時株価が堅調であったこと、金利が上昇していたこと等からも、参加者の金の先行きに関する見方が強気とは言えないものであったのに対し、今年の市場環境は先月10月に変化を見せてきていると弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュは考えています。

それは、ブリオンボールトにおいて、2018年の個人投資家が価格の下落時に購入を進めるというバーゲンハンター的パターンが変化していることが一つの要因としています。年次会議が始まる前の10月の3週間において、ブリオンボールトにおける金の需要が価格が上昇時にも過去12か月の平均よりも126%増となっており、224キロの金が購入されて、顧客が保有し保管する金地金が史上最高値の39トンを超えていました。

このように、上昇する価格で需要が伸びたのは、英国のEUからの離脱が決定したブレグジットショックが起こった2016年の国民投票以来であり、強気市場の現象でもあります。

それでは、なぜこのような変化が起きているのでしょうか。それは、新興国から欧米の株式市場へ広がった価格の急落と言えるとエィドリアンは述べています。これによる、安全資産への逃避が金価格と金の需要に影響を与え始め、個人投資家は先月見られた株式市場の調整が暴落になる可能性を懸念し、金購入を進めているとしています。

この現象は、金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高においても見ることができます。

この残高は今年4月に871トンとピークを付けて以来10月9日まで減少を続けていました。しかし、世界同時株安をきっかけに増加をはじめ、10月は月間で11.8トン増加し8月末以来の水準まで上昇しています。

これは、今週金業界のマーケティング団体であるワールドゴールドカウンシルが発表した最新のレポート「Gold Demand Trends Q3 2018」で、今年第3四半期の金のETFからの資金の流出が金投資や宝飾品や中央銀行の強い需要をほぼ相殺していたことを考慮すると、ここで見られる金投資家の金へのセンチメントの変化が、金市場全体の需給バランス、そしてその価格へ与える影響も推測することができます。

また、このレポートでは、金投資への需要が今年第3四半期に前年比28%増となっており、これは価格の下げがきっかけとなっているものの、インド等の多くの新興国における株価のボラティリティーや通貨安による需要、そしてイタリアを巡る懸念等から欧州の需要の半分を占めるドイツでの需要が10%増となっていること、米国の経済制裁を受けているイランの需要が5年半ぶりの高さとなり、中東の需要が前年比144%増と急増していることを背景としています。

英国の貴金属専門のコンサルタント会社であるMetals Focusは、先月初めにローンチした最新の2018-2019年の貴金属需給レポートにおいて、LBMA年次会議の参加者ほど強気ではないものの、やはり2019年の金価格の上昇を予想しており、年平均でトロイオンスあたり1310ドル、前年比2%上昇するとしています。

その理由としては、金の派生商品市場におけるショートカバーが短・中期的には起こり、今年見られていたドル高、長期金利の上昇、インフレの停滞に変化が見られることで、金にとってはポジティブな要因が生まれるだろうとしています。そして、米国以外の中央銀行の金融政策が緩和から引き締めへと変化することによって、ドル高が是正され、米国政府の債務増加や、中国などの他国の債務規模も懸念の要因となり、地政学リスクの高まりも含めて、金にとってはプラスとなると解説しています。そのような中で、やはり鍵となる動きは、一般の投資家が株式市場から資金を金へと移し始めることだろうとしています。

ちなみに、今年の年次会議で予想された他の貴金属価格は、銀価格が15ドルと今年から2.3%増、プラチナ価格は現在の水準から20.8%高い1010ドル、パラジウムは先週の史上最高値を超えて4.7%高い1195ドルと予想されています。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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