英国の「Brexit(脱EU)危機」:2011年のイギリス暴動以来の金価格急騰
金価格を見ていると、6月に行われる「Brexit(脱EU)」を問う国民投票は、英国人にとっては既に実質的な危機であるようです。ブリオンボールトのリサーチ主任エィドリアン・アッシュが、ここで解説しています。
世論調査の結果では、EU離脱派と残留派は拮抗し、金価格は年末から20%上昇しています。これは、金融危機最中の2011年夏以来の7週間の上昇ペースです。
当時は、米国債が格下げされ、ユーロ圏の危機が高まり、英国の多くの都市で近代最悪の無法状態の暴動が発生していました。
これらの危機と比較して、官僚主義がはびこっている欧州連合を離脱することが危機となるというのは、少し不思議に思うかもしれません。しかし、英国の貯蓄者は、それぞれの資産を危機から守るために、既に行動を起こしているのです。
それでは、それを表すブリオンボールトの顧客データを見てみましょう
1. 一日平均新規顧客数は、今月22日の段階で、英国は2015年の平均の122%増。それに対しユーロ圏と米国はそれぞれ84%増。
2. 英国の新規顧客の口座開設から資金入金までの日数は2月に1.5日と、昨年の2日よりも短縮。
3. 英国の顧客の資金の規模は、8600ポンド(約134万円)と、過去12ヶ月平均の73%増。
4. 顧客の年齢層が低年齢化。60歳以上が2月に7%と、通常の30%から減少し、30歳未満が17%と通常の4%から急増。
4.の点の背景は、世論調査を行うYouGovで明らかとなっているように、年齢層によってEU離脱に関する意見に大きな違いがあることが考えられます。それによると、30歳未満のEU残留派と離脱の割合は2対1であるのに対し、60歳以上は44%が残留を支持し、56%が離脱を支持しているとのことです。
賢い投資家は、年末の段階で英国が欧州連合に留まる事に懐疑的で、ポンド下落に賭けていました。それでは、なぜ今金と銀投資へと向かっているのでしょうか。
先週日曜日に伝えられた、人気の高いロンドン市長ボリス・ジョンソンの離脱支持は、離脱派に勢いを与えました。しかし、現状からの変化となるEU離脱への憂慮が、月曜日以降の為替市場取引で、2009年3月のリーマンショック後下げ続けた時以来の早いペースのポンド安を招いたのでした。
また、残留派のキャンペーンも必ずしもこの状況を改善するものではありませんでした。それは、デービット・キャメロン首相が、先週ブリュッセルで行われた欧州連合首脳で、英国の欧州連合残留のするための、福祉サービスをEU加盟国の移民に制限する等の改革を勝ち取ったと宣言をしていましたが、独立系シンクタンクのNIESRのJonathan Portes氏は、これまでは、「英国の豊かな社会保障制度はあまり知られていなかった」と述べ、ポーランドのメディアは「キャメロン首相が望んだ協議は、この社会保障制度を宣伝するものとなってしまった。」と伝えています。
このように、英国政治家が道化者のようにメディアに伝えられる中、トレーダーや個人投資家が、離脱派が訴える「英国議会に政策決定の権限を取り返す」ということへ強い興味を示さないのは致し方ないのかもしれません。
エコノミストの中では、EU離脱が、その直後に英国とユーロ圏に悪影響を与えるということで意見が一致しています。これは、EU離脱派として有名な、著名シンクタンクのCapital EconomicsのRoger Bootle氏も、英国がEUを離脱した際に「中期的な利益を考えると許容範囲だ」としながらも、「短期的には混乱を起こす」と認めています。
英国の国民総生産が2017年と2018年に2%から5%へと消費の低迷からスローダウンするとし、「英国資産とユーロ圏の資産のリスクオフが進む可能性がある。」とし、ポンドの為替レートに市場の反応が現れるだろうとScotiaBankの英国と欧州のエコノミストであるAlan Clarkeは述べています。
もし、EU離脱となった場合も、欧州連合(EU)と新たな貿易関連の協議が行われる必要があり、不確実性が残ることは確かでしょう。「EU離脱とは、明確に定義されていない、長期に渡る状態」と、バーミンガム大学のTony Yates教授は述べ、「(EU離脱後には)多くの可能性があり、それは、(残留と)ほぼ変化がないものから、より状況が悪化するというものがある。」と続けています。
政治的不確実性を取り除いたとしても、長期に渡る投資の多様性のために金を購入する理由は多くあります。しかし、人々は、通貨危機や株暴落や金融市場の混乱時に、差し迫った必要性から金を購入します。
多くの英国の貯蓄者が金と銀の投資へと資金を動かしていることからも、英国で6月に行われるEU離脱を問う国民選挙は、英国人にとっては既に実質的な危機と感じられるものなのでしょう。