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価格の大きな変動でブリオンボールトにおける取引量が過去最高へ

ブリオンボールトにおいて24時間で約5000万ドル(53億円相当)が取引されました。
 
金地金現物価格は、2013年4月の歴史的な暴落以来の急落に見舞われました。
 
火曜日の朝から6.6%下落した金地金は、一晩を超えてトロイオンスあたり1865ドルと底値を付けていました。これは、木曜日に付けた2週間で6度目の史上最高値から210ドル安の水準です。
 
過去20年間の金地金のドル建て価格チャート。出典元:ブリオンボールト
銀価格は、昨日既に一日で7.8%下げ、その後一晩で20%近くの下げを見せています。これは、より工業用途需要が全体の半分以上を占めることから、今年3月のCovid-19感染拡大を防ぐためにロックダウンをして経済活動を休止せざるを得なかった際の暴落以来の下げ幅となります。この際に原油価格は一時的にマイナスに転じていました。
 
今回の大きな価格変動は、個人投資家のためのオンライン貴金属市場を提供するブリオンボールトにおいて、記録的な金・銀・プラチナ地金の取引量を大きく増加させることとなりました。8月11日火曜日に、この市場での取引総額は、2016年6月24日の英国のEU離脱を問う国民投票で衝撃的なBrexitの結果が出た日を21.9%上回る3810万ポンド(約53億円)が取引されることとなりました。
 
過去3ヶ月間の米ドル建て銀価格チャート。出典元:ブリオンボールト
 
この取引額を過去1年間の平均と比較すると、火曜日の売却量は金が重量で508.5%増と約5倍に跳ね上がり、銀は861.0%増の8倍以上、プラチナは317.7%増と約3倍に上昇していました。
 
しかし、それぞれの地金の需要も急増し、金は448.3%増、銀は663.0%増、プラチナは185.1%増となっていました。しかし、顧客全体では評価額としてはこれらの地金は全て、売却分を差し引いた際に購入が上回っており、金は340万ポンド増(4億7300万円相当)、銀は120万ポンド(1億6700万円相当)、プラチナは7万ポンド増(975円相当)分保有地金を増加させています。
 
今後の先行きはどのようなものなのでしょうか。
 
長期的な強気相場は投機的買いから急上昇を招きやすく、再び金が2000ドルを超えたり、割ったりしたとしても、現在の2年間の上昇トレンドの背景であるマクロ要因に変わりはありません。
 
今回を過去の動きと比較してみましょう。2006年3月から5月の8週間で金は33%急騰しましたが、翌月にはその上げ幅をすべて失いました。このピークのトロイオンスあたり730ドルに至るのにその後16ヶ月必要としました。これが世界金融危機でした。英国においては信用収縮が起こり、住宅ローン貸し手のノーザンロックが破綻し政府によって救済されたのでした。
 
しかし、2006年春の急騰のピークを買った人たちは、眠れない夜を何度か過ごし、損益分岐点に戻るまで待たなければなりませんでしたが、基本的な上昇トレンドはその間も続いていました。そして、それから5年後の2011年9月に再び160%以上上昇し、史上最高値を付けていたのでした。
 
 それでは、なぜこの2020年夏の金・銀価格の急騰と急落が起きたのでしょうか?現代史上最悪の経済不況の中で、何が人々を現物の貴金属に投資させ、金と銀を取引することを促しているのでしょうか?
 
ブリオンボールトは、2020年6月22日から7月7日までの間に「ウィークリー・レポート」メールの読者を対象に、貴金属投資に関するアンケートを実施し、1,328件の回答を得ました。
 
ブリオンボールトの顧客は、通常自己運用資産の5~20%を貴金属に投資しています。その第1位の動機は通貨安とインフレへの懸念であり、第2位が投資を分散させてリスクを分散させることを目的となっています。そして、3人に1人以上が金融政策が金の方向性に最も大きな影響を与えると考えており、5人に1人が政府の財政赤字の大きさを要因として挙げており、年2回の調査の5年間の歴史の中で最新のアンケートでは初めて金融政策が地政学を上回っています。
 
2014年から2020年の金価格へ影響を与える要因第1位。出典元:ブリオンボールトの顧客へのアンケート
 
 
人々が金に投資する理由は、株式や債権、そして通貨価値の先行きを懸念しているからです。中央銀行が記録的な政府の赤字支出を公然と支持しており、その独立性が失われていることを意味しています。貴金属の投資家は、これが金を今年更に押し上げる理由と見ているのです。
 
しかし、金は通常インフレヘッジとして考えられていますが、それは今日の貴金属を保有しているほとんどの投資家にとって長期的な魅力ですが、短期的には、今日世界経済がCovid-19のロックダウン後に再開しようとする中、多くの企業の破綻と債務不履行のリスクは、世界の金融安定にとって最も直接的な脅威となっています。
 
少なくとも、個人投資家向け世界最大の金と銀の市場を提供するブリオンボールトの顧客はこの市場を動かすものは何かという問いに対してそのように答えています。そして、この顧客ベースは日々急増しているのです。
 
新規顧客数は2020年3月~5月にコロナ禍が欧米を襲ったことで、過去最高のペースを記録し、これまでのピークであった2011年半ばの記録をも更新しました。
 
ブリオンボールトの顧客が保有する金・銀・プラチナ地金の評価額は、36億ドル(3845億円相当)となっています。
 
しかし、これまでのところ、今月はわずか11日間でありながら、新規顧客数が過去120ヶ月間のうち95ヶ月分をすでに上回っています。しかし、2020年8月の新規顧客の投資需要は、前回の金価格最高値を付けた2011年よりもはるかに小さいものとなっています。
 
それはあまり意味がないのかもしれませんが、金先物やオプションを通じて金地金価格に賭けている投機的資金が今回の金価格の激しい動きを生み出しているのかもしれません。
 
あるいは、メディアの報道の欠如、それに加えGoogle検索が安定して増加していることから、「金を買う」というアクションに至っていないのかもしれません。それに加えて、政府や中央銀行が、コロナ危機と戦うという名目で築き上げらている未曾有の借金を減らす唯一の方法として、通貨の価値を下げる手段を取り続けていることからも、貴金属の上昇傾向がピークに達するまでの長い道のりを進みだしたことに過ぎないのかもしれません。

 

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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