金市場ニュース

世界経済の不安を映す金高騰(前編)

スタンダードバンク東京支店長の池水雄一氏が、「池水雄一のゴールドディーリングのすべて2」で、金市場の歴史と金価格上昇の背景を解説しています。

「金相場の歩んで来た道」

ゴールドが上昇して久しい。過去10年の間にその価格は4倍以上に大きく上昇した。しかし1980年から2000年までのゴールドは基本的に右肩下がりでまったくぱっとしないマーケットが20年間続いたのだ。過去のゴールドの歴史の流れを振り返りながら現在のゴールド高騰の理由をみてみよう。

(ゴールドの価格-過去40年間)


 
1.金相場の始まり~ニクソンショックで自由相場へ 1970年代

金相場の始まりは案外と近い過去にある。今からちょうど40年前1971年と言っていいであろう。当時の米ニクソン大統領がそれまでの固定比率による米ドルとゴールドの兌換の停止を発表した。金本位制の終焉は世に言うニクソンショックである。他の外国為替同様、これをきっかけにゴールドも固定相場制 (ゴールド1オンス35ドル、そして後に42ドル)から、変動相場へと移行し、マーケットはまさに刻一刻と変化していく生き物になったのであった。その後 ゴールド相場はじょじょに上がり始めた。これまではアメリカ政府により人為的に低く抑えられていたゴールド価格(42ドル!)であったが、市場の需給を反映し、基本的には一本調子で上昇した。レンジ42ドル~500ドル。



 
2.歴史的高値850ドルとその後の市場低迷 ~1980-90年代

1980年年末にゴールドは850ドルという歴史的高値を記録する。ソ連のアフガニスタン侵攻、イランの米大使館占拠事件、第二次オイルショック、ハン ト兄弟のシルバー買占め事件と数多くの要因で一気にゴールドが買い上げられたのがこの時。しかしこの上昇は週末を挟んだ正味2日間で終わり、その後は長い 低迷の時期に入り、80年代、90年代を通じてゴールドは低迷する。ほぼ250ドルから400ドル近辺の動きでこの「失われた20年間」は右肩下がりの相 場となった。

この時期、常にゴールドを売っていたのはまず中央銀行。その背景としてはソ連を中心とした共産圏の崩壊により、第三次世界大戦といった大きな地政学的緊張がなくなり、ゴールドの必要性がなくなったこと、純粋に運用対象としての魅力がなかったこと(価格は下げる一方、金利も通貨の1/10程度であった)などが上げられる。フランス、スイス、イギリスといったヨーロッパの先進国はこの20年間ほぼ一貫して大量のゴールドを売却した。

そして中央銀行に次いでゴールドを売っていたのが世界の鉱山会社の先物の売りである。鉱山会社はゴールドが下がるという環境下においては、常に先物を 売ってその生産をヘッジする必要があり、その売りがまた相場の下げを誘うというまさに悪循環が一貫して続いていたのである。こうなるとなかなかゴールドの上昇場面は見られず、結局ほぼ300-400ドル近辺でこの期間はずっと過ごすことになった。世界経済的にも株価が常に上昇、好景気に沸き、投資家の興味は株を始めとする金融商品へと向いており、ゴールドは投資家の興味の対象からは完全に外れていた。



 
3.最安値からの急反発と未曾有の高値圏へ ~2000年以降

そんなマーケットの流れが変わったのが2000年代に入ってからだ。最初のきっかけは、CBGA(Central Bank Gold Agreement)と呼ばれる合意が欧州の中央銀行間でなされたことだ。これは、これまで各中央銀行がゴールドを自分勝手に売却していたのを、加盟国の間で、上限の全体売却枠を決めて(初年度は400トン、その後500トンに増加)、ゴールドの売却の上限を設定した。また彼らが運用として行っていたゴールドの貸し出しも数量を限ることに決定し、この発表直前からゴールドは買われ始めたのだった。初めはそれでも疑心暗鬼的なゆるやかな上昇であったが、2001年には米国で同時多発テロが起き、第三次世界大戦はなくてもテロリズムの脅威が世界を覆い、地政学的要因としてもゴールドの買いを支える材料となった。

この結果ゴールドの上昇の勢いが強くなり、その上昇相場が新たな買い手を作ることになる。80年代、90年代に先物売りを行っていた鉱山会社が、一斉にその売りポジションを買い戻し始めたのだ。将来の価格下落に対する売りヘッジであるが、それは同時に相場上昇による利益を放棄するものであり、それが 金鉱山会社の株主の大きな反対にあい、大部分の金鉱山会社はその巨大な先売りポジションを買い戻すことを余儀なくされたのである。これまで売り手として相 場の頭を抑えていた鉱山会社が逆に買い手に回ったことで、相場の上昇に大きな弾みがついた。

そしてもう一つこの上昇相場の大きな要因が存在する。2004年に始まったゴールドETFというお化け商品だ。これは形としては「投資信託」であるが、 実際にゴールドの現物に裏付けれたものだ。投資された金額分、マーケットで現物を買いそれを倉庫に保管するというもので、ほぼゴールド現物の需要と考えていい。ゴールド現物を「投信」という形にしてことによって、これまでゴールドに投資したくてもできなかった年金などの機関投資家を中心に爆発的に売れ、その残高はすべてのゴールドETFを合計するとゆうに2000トンを越える。この2000トン以上もの買いがまた一段と相場を引き上げたのである。2001 年の300ドルから、2011年8月の1900ドルまでほぼ一本調子でゴールドは上昇するのである。

以上

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池水雄一氏は、貴金属ディーリングの世界でも第一人者。上智大学を卒業後、住友商事、クレディ・スイス、三井物産、スタンダードバンクと貴金属ディーリングに一貫して従事し、現在はスタンダードバンク東京支店長。Oval Next Corp.サイトで市場分析ブルース(池水氏のディーラー名)レポートも掲載。

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