ロンドン金値決め価格(ロンドン・フィキシング)について
米国の規制当局である、米商品先物取引委員会(CFTC)が、ロンドン市場の金の値決め価格を操作する余地がないかどうかについて検証を進めていることが先週伝えられました。
それでは、ロンドン金値決め価格(ロンドン・フィキシング)とは、どのようなものなのでしょうか。また、この価格は不正操作する余地があるものなのでしょうか。
ここでは、ブリオンボールト日本市場責任者のホワイトハウス佐藤敦子が、この価格についてまとめると共に、不正操作が問題となったLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)とも比較して分析しています。
ロンドン金値決め価格(ロンドン・フィキシング)は、土日と祝日を除いて、毎日午前10時半と午後3時(銀は正午)に付けられる価格です。これは、世界でも最も古く、大規模な地金協会である、ロンドン貴金属市場協会の正会員である、主要ブリオンバンクである次の5社によって、その顧客の注文をまとめ、購入者と売却者のバランスで、せりを行い妥当な価格を決定したものです。
- Scotia-Mocatta
- Barclays Capital
- Deutsche Bank
- HSBC
- Societe Generale
そして、この価格は、実際の注文を基に、せりにかけられ公正に決定された、公開された価格です。そのために、ブリオンバンクや地金商を通じて、実際にこの価格で取引をすることができるものです。(実際に、ブリオンボールトでは、個人投資家が日々この価格で注文をすることができるサービスを提供しています。この日本語におけるサービスは来月開始予定です。)
そして、この価格は1919年から利用されており、世界の現物地金市場においては、基準価格としての位置付けを100年以上も保持しています。
この価格が基準価格であることを示す例としては、香港受け渡しの専門市場で売買されている金地金を購入する場合、ロンドン値決め価格にプラス(マイナス)の価格が提示されること。また、中央銀行に保有する 金の評価額を算出するためには、一般的に、ロンドン午後の値決め価格(PM Fix)が利用されていること。そして、金鉱会社が、将来産出する金の価格変動リスクをヘッジするため、もしくは産出費用を生み出すために行う長期のフォワード取りj引きを行う際も、ロンドン値決め価格(PM Fix)を参考にしていることなどが挙げられます。
このように、、この価格は市場原理に沿った方法で決定されており、世界の地金専門市場が長い間信頼できる基準価格として利用しているものなのです。
それでは、不正操作が問題となったLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)とは、どのようなものなのでしょうか。
LIBORは、、複数の主要銀行によって報告されたレートを英国銀行協会が集計し、毎営業日11時に発表されているものです。そして、国際金融取引の基準値として、約350兆ドルもの額の金融の派生商品の基準金利としても利用されています。しかし、必ずしもそれぞれの銀行で実際に支払われ、請求されている金利である必要がなかったために、不正操作が可能となったようです。
昨年6月に、バークレー銀行によるLIBORの不正操作が明らかとなり、その後UBSもまた不正操作をしていたことを認め、それぞれ多額の罰金を支払うこととなりました。その他、ドイツ銀行、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド、HSBC、Citigroup、JPMorganなども疑いがあるとして、調査がされています。
このようなことから、LIBOR価格設定、取り締まる管轄省庁が見直されることとなり、英国金融庁マネージメントダィレクターのMartin Wheatley氏のが昨年9月に出した報告書では、今後LIBORは、銀行間で使われた実勢レートでなければならないこと、そしてそれぞれの銀行が報告したレートを3ヵ月後に公開することなどが提案され、英国政府はこれを受け入れ法制化する計画であるとのことです。
LIBORは金融の派生商品や資金調達の基準として用いられ、金融取引の基準となることなどから、今後は英国銀行協会から英国規制当局の監督下に置かれることになるようです。これに対し、ロンドン金値決め価格(ロンドン・フィキシング)は、金現物取引で利用される価格であり、金融取引で利用されるものではないために規制当局の監督下に置かれていないことは異なる点です。
しかし、この二つの基準レートにおいて最も大きな相違点は、ロンドン金値決め価格(ロンドン・フィキシング)が、市場原理に沿った実勢レートであるに対し、LIBORは新たな改革が行われるまでは、それぞれの銀行が報告したものをまとめたものであるために、必ずしも実勢レートではなかったということでしょう。