ニュースレター(2026年9月11日)米利上げ観測と長期金利上昇で金・銀下落、CPI後に反発
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャート上のLBMA価格が決まる時間の価格と前週のLBMA価格を比較した一週間の変動率は以下の通りです。
*金は午後3時の弊社チャート価格、銀は午後12時、プラチナとパラジウムは午後2時の価格。
**日本円価格はLBMA価格として発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。
- 金:ドル建て価格は、2週連続の週間の下落で、金曜日価格で8月7日以来の低値。
- 銀:2週連続の週間の下げで、7月31日以来の低値。
- プラチナ:2週ぶりの週間の上昇。
- パラジウム:2週連続の週間の下げで、8月14日以来の低値。
貴金属市場の動向(週間)
今週の貴金属相場は、週後半に発表された米卸売物価指数(PPI)と消費者物価指数(CPI)を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測が調整される中で推移しました。また、中東情勢の激化を背景とした原油高によるインフレ懸念や、米財務省の長期国債バイバック額が市場の期待を下回ったことで米長期金利が上昇したことも、貴金属を押し下げる要因となりました。
週間では貴金属は下落傾向となったものの、主要国の債務と利払い費の増加、米政府の政策への警戒、中央銀行の脱ドル化を背景とした安全資産需要は根強く、金は4,300ドル、銀は63ドル付近の週間安値から反発し、足元ではそれぞれ4,375ドル、64.69ドル前後で推移しています。
なお、米30年国債の実質利回りは今週、2010年の同年限TIPS再導入以来の最高水準へ上昇しました。従来、実質金利と金価格は逆相関の関係にあり、2022年以前の13週間ローリング相関係数(r)の中央値はマイナス0.46でしたが、過去4年半ではプラス0.70へと反転しています。膨張を続ける米政府債務や財政規律への懸念などを背景に、実質金利の上昇が必ずしも金価格を押し下げる要因とはならなくなっているようです。
今週の貴金属相場の動き(日次)
■ 月曜日
金、銀相場は、ロンドン時間午前中、前週金曜日の強い米雇用統計を受けて、翌週の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ観測が6割近くまで上昇する中、押し下げられていました。
ロンドン午後には、安値での需要に加え、日本円が強含む中でドルが弱含んだことから、金はトロイオンスあたり4,400ドルを取り戻し、銀は前週終値の66.25ドル前後まで上昇していました。
■ 火曜日
金、銀相場は、同日ロンドン午前中にそれぞれトロイオンスあたり4,442ドル、67.15ドルまで上昇したものの、その後押し下げられることとなりました。
午前中の上昇は、円高を背景にドルが弱含んだことなどが要因となりました。しかしその後、原油価格が6月以来の高値へ上昇したことでインフレ懸念が強まり、米連邦準備制度理事会(FRB)の早期利上げ観測が広がる中、金、銀ともに上げ幅を削ることとなりました。
そのような中、トランプ政権による精製銅への輸入関税再導入の観測などを背景に、同日、米COMEXの銅先物価格は史上最高値を更新しました。銅と同様に産業用途で重要な役割を持つ銀も金に比べて底堅く、金銀比価は66台半ばと8月28日以来の低水準へ低下していました。
■ 水曜日
金相場は、ロンドン時間昼過ぎにトロイオンスあたり4,433ドルの高値をつけた後に上げ幅を削り、4,400ドル前後で推移することとなりました。
当初の上昇の背景には、前日のベッセント米財務長官による、円売りを仕掛ける市場参加者を牽制する「I am the house now(今や主導権はこちらにある)」との発言を受けた円高・ドル安に加え、同日の米財務省による長期国債のバイバック額発表を前に、ドル売りのポジショニングが進んだことがありました。
しかし、米財務省が発表したバイバックの上限額は60億ドルと、市場の一部が期待していた規模を下回ったことから、ドルが下げ幅を縮小して反発し、金相場は高値から押し下げられることとなりました。
一方、銀相場は昼過ぎに68.26ドルと8月末以来の高値を一時つけた後に下落したものの、67ドルを超える9月4日以来の高値水準を維持していました。
■ 木曜日
金・銀相場は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測が強まる中、トロイオンスあたりそれぞれ4,324ドル、63.93ドルと1週間ぶりの安値をつけていました。
利上げ観測が強まった背景には、①中東情勢の緊迫化を受けて原油価格が5月以来の高値をつけ、インフレ圧力への懸念が高まったこと、②米卸売物価指数(PPI)が市場予想を上回り、根強いインフレを示唆したこと、③米新規失業保険申請件数が数十年来の低水準となり、米雇用市場の堅調さを示したことがあります。
これに加え、前日に米財務省が発表した長期国債のバイバック額が市場の期待を下回り、長期国債の需給改善には不十分との見方が広がったことや、同日トランプ大統領が中間選挙で共和党が勝利した場合、米国の成人1人あたり5,000ドルを支給すると表明したことで、政府債務のさらなる増加への懸念が強まりました。
こうした中、米長期金利が2023年以来の高水準へ上昇したことが、金・銀相場を押し下げる要因となっていました。
■ 金曜日
金、銀相場は、本日発表の米消費者物価指数(CPI)を前に狭いレンジで推移していましたが、発表されたデータがほぼ市場予想通りとなったことで、前日の米卸売物価指数(PPI)が予想を上回ったことを受けた下げ幅を削って推移しています。
本日の米CPIは前年同月比3.4%上昇し、前月と同じ伸び率で市場予想と一致しました。食品とエネルギーを除くコア指数は同2.4%上昇と、市場予想と同水準でした。
市場が織り込む翌週の利上げ確率は、発表前の7割程度から8割強へ上昇しています。その一方で、ドルと米10年物国債利回りは若干低下しており、CPIがさらなるインフレ上振れを示さなかったことで、前日までの急速な金利上昇が一服したことが、金、銀相場を支えている模様です。
また、本日は、国際エネルギー機関(IEA)が今年の石油需要見通しを引き下げたことを受けて原油価格が下落しています。これによりインフレ圧力への懸念がいくぶん和らいだことも、米長期金利の低下を通じて金、銀相場を支える要因となっている模様です。

その他の市場のニュ―ス
-
中国の中央銀行が8月に前月に続き2023年10月以来の大規模な20トンの金準備を積み増していたこと。22ヶ月連続の金準備増加で、今年の増加量は80トン、また総金準備は2,387トン。
-
ポーランド中央銀行も8月に金準備を8トン増加させ、年初来の増加量は98トンと、総金準備量は648トンとなっていました。(同中銀の目標額は700トン)
-
コメックス(COMEX)のデータによれば、ウォーシュFRB議長がジャクソンホールでタカ派的発言を行った翌週9月1日までの週に、金・銀相場が下落する中、パラジウム以外の貴金属のネットロングポジションは減少していたこと。
-
金のネットロングは前週比6.9%減の437.97トンと、4週ぶりに減少して前週の昨年9月23日の週以来の高水準から下げていました。2025年の平均は465.8トン、2024年は555.8トン。
-
銀の先物・オプションのネットロングは8.0%減の1,893トンと、2週ぶりに減少して前週の5月12日の週以来の高い水準から下げていました。2025年の平均は5,132.4トン、2024年は4,231.0トン。
-
プラチナのネットロングは17.5%減の13.4トンと、前週の6月2日の週以来の高水準から下げていました。2025年の平均は16.2トン、2024年は9.4トン。
-
パラジウムは、2月3日の週以来のネットロングから3月17日の週にネットショートへ転じた後、1日までにネットショートが15.3%減の14.2トンへと減少していました。2025年の平均は19.3トンのネットショート、2024年は32.6トンのネットショート。
-
金ETF最大銘柄のSPDR Gold Sharesの残高は、今週木曜日までに3.20トン(0.31%)減の1,050.277トンと9月1日以来の低さで週間で減少する傾向となっています。2025年は累計で198.04トン(20.81%)増と4年ぶりの年間増加ペースとなっていました。2024年は6.59トン(0.75%)減、2023年は38.53トン(4.4%)減、2022年は57.2トン(5.9%)減、2021年は195トン(6.8%)減。
-
金ETF第2位のiShares Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.58トン(0.13%)増の461.36トンと7月31日以来の高さで、週間の増加傾向となっています。2025年は累計で101.09トン(23.35%)増と4年ぶりの年間増加ペースとなっていました。2024年は5.91トン(1.29%)減、2023年は50トン(11.6%)減、2022年は42トン(8.9%)減、2021年は36トン(7.0%)減。
-
銀ETF最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに22.48トン(0.15%)減の15,316.88トンと8月21日以来の低い水準となり、2週連続で週間で減少傾向となっています。2025年累計では2,120.59トン(14.45%)増と2年連続の年間増加ペースとなっています。2024年は720.44トン(5.3%)増、2023年は936.56トン(6.4%)減、2022年は1,937トン(12.2%)減、2021年は867トン(4.2%)減。
-
金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週67台前半で始まり、水曜日に66台半ばまで下げたものの、本日は67台後半と8月25日以来の高さへ上昇して推移しています。2025年の平均は87.85、2024年は84.75、2023年は83.27、過去5年平均は82.44です。比価が高いほど銀が相対的に割安であり、低下するほどその割安感が薄れていることを示します。
-
上海黄金交易所(SGE)とロンドン金価格の価格差は、前週の0.38ドルのプレミアムから今週3.69ドルのプレミアムと8月14日の週以来の高さへ上昇しています。2025年の平均プレミアムは2.85ドル、2024年は15.15ドル、2023年は29ドル、2022年は11ドル、過去5年平均は6.9ドルです。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週貴金属相場は、引き続き中東情勢及び原油価格、そして週後半の欧州中央銀行の金融政策発表、米生産者物価指数(PPI)、消費者物価指数(CPI)に注目し、それらが米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利に与える影響観測で動いていました。
来週は、水曜日にFRB、木曜日にイングランド銀行、金曜日に日本銀行の金融政策発表が行われ、これらが重要イベントとなります。
その他、主要経済指標の発表スケジュールの詳細は、主要経済指標(2026年9月14日~18日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
-
主要経済指標(2026年9月7日~11日)今週のの結果をまとめています。
-
主要経済指標(2026年9月14日~18日)来週の予定をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。
ロンドン便り
今週英国では、激化する中東の紛争やウクライナ戦争が引き続き伝えられていますが、本日は2001年9月11日の米国同時多発テロから25周年ということで、米国や英国で行われている追悼式典についても広く報じられています。それに加え、今週、英政府がイスラエル占領下のヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地との貿易を禁止する方針を発表したことが大きく報道されていますので、簡単にまとめてみましょう。
英国の労働党政権は8日、イスラエルが占領するヨルダン川西岸の入植地で生産された商品の輸入を禁止する方針を発表しました。西岸は1967年の第三次中東戦争以来イスラエルが占領しており、国際社会の大半はそこでの入植活動を国際法違反としています。英国はこれまでも暴力的な入植者や関連団体などを制裁対象としてきましたが、今回は入植地との経済関係そのものへ規制を広げる方針です。
英国だけでなく、フランスやカナダも同様の措置を進めており、その他の欧州諸国も貿易制限を導入、あるいは検討するなど、イスラエルへの圧力が強まっています。背景には、入植地の拡大やパレスチナ住民に対する暴力が増加し、将来のイスラエルとパレスチナの「二国家解決」が困難になるとの懸念があります。
イスラエル政府は英国などの措置を強く非難し、東エルサレムにある英国総領事館の閉鎖などの対抗措置を発表しました。一方、米国は英国などによる貿易制限には同調せず、こうした措置が地域の安定を損なう可能性があるとして批判しています。
英国国内では、ガザ紛争以降、反ユダヤ主義やイスラエル人への差別への懸念も高まっており、ユダヤ人団体などからは、今回の措置が国内の対立や反ユダヤ主義をさらに助長する可能性を懸念する声も上がっています。そのため政府は、今回の措置はイスラエルやイスラエル人全体を対象とするものではなく、国際法上違法とされる入植地と、その拡大を支援したり利益を得たりする企業などを対象とするものだと強調しています。
イスラエル政府の政策への圧力を強める一方、国内のユダヤ人やイスラエル人への差別につながらないようにする必要もあり、労働党政権にとって慎重な対応が求められる政策となっています。




