ニュースレター(2025年10月3日)金は6週連続で週末価格で史上最高値を更新
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャート上の貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較して以下の通りです。
*金は午後3時の弊社チャート価格、銀は午後12時、プラチナとパラジウムは午後2時の価格。
**日本円価格はLBMA価格として発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。
- 金:ドル建て価格は6週連続で金曜日LBMA価格ベースで史上最高値を更新。
- 銀:2011年4月以来の最高値を、2週連続で更新。
- プラチナ:2013年2月以来の高値を更新。
- パラジウム:7月18日以来の高値からやや反落。
貴金属市場の動向(週間)
今週も貴金属相はパラジウムを除き上昇することとなりました。上昇の背景には以下の要因が挙げられます。
-
金・銀ETFへの資金流入(FOMO:取り残される不安による投資行動)。
-
米国のつなぎ予算失効に伴う政府機関一部閉鎖への懸念 → 安全資産需要。
-
民間機関の雇用データが労働市場の軟化を示唆 → FRB利下げ観測の広がり → ドル安。
-
ガザ和平案不成立による紛争拡大懸念 → 安全資産需要。
また、9月の金価格の上昇率は主要通貨建てでいずれも数年ぶりの高水準となりました。
- ドル建て:+11.6%(2020年7月・コロナ危機以来)
- 円建て:+12.1%(2012年1月・欧州債務危機以来)
- ポンド建て:+11.84%(2016年6月・ブレグジット以来)
- ユーロ建て:+11.06%(2012年1月・欧州債務危機以来)
今週のチャートでは、ドル建て金価格の月間変動率(赤線)とドル建て金価格(深緑)の推移を示しています。
過去に金が大きな上昇を見せた際は、古くはニクソンショック、そして近年では金融危機、欧州債務危機、コロナ危機等と株価下落局面で見られました。今回は株価が上昇基調を保ちながら貴金属価格が急騰する、これまでにない特徴的な展開となっています。
今週の貴金属相場の動き(日次)
月曜日
金価格は主要通貨建てで新高値を更新。
ドル建て:3,832ドル/トロイオンス
円建て:18,313円/グラム
銀価格はドル建てで14年ぶりの高値で、他の主要通貨建てで最高値。
ドル建て:47.18ドル/トロイオンス
円建て:225円/グラム
プラチナ価格はドル建てで12年ぶりの高値で、他の主要通貨建てで最高値。
ドル建て:1,628ドル/トロイオンス
円建て:7,787円/グラム
背景:
-
FOMO(取り残される不安)による投資需要、米つなぎ予算成立遅れによる政府機関閉鎖懸念が支えに。
-
9月の金ETF残高は約100トン増加し、2022年3月(ウクライナ侵攻直後)以来の大幅な資金流入。
火曜日
金はロンドン時間午前に 3,871ドル の高値を記録後、利益確定売りで一時約80ドル下落。その後、3,863ドル まで持ち直しました。
背景:
- 米JOLTS求人件数が予想を上回り、FRB利下げ観測がやや後退 → ドル高・金の重し。
- 米予算未成立による政府機関閉鎖懸念 → 株安・安全資産需要が下支え。
- 中国は大型連休入り直前、国内金需要が高値で鈍化。ロンドンとの価格差は55ドルと、コロナ危機以来の最大ディスカウントに拡大。
水曜日
金は取引中に 3,895ドル/トロイオンス と史上最高値を更新。
背景:
- 米政府機関の一部閉鎖でドル安・米国債利回り低下。
- 米ADP雇用統計が -3.2万人 と市場予想(+5.0万人)を大幅に下回る。
- これを受けFRB利下げ観測が強まり、市場は年内2回の利下げを織り込み。
木曜日
金は取引中に 3,896ドル と再び史上最高値を更新。その後 3,820ドル まで下げましたが、3,862ドル まで回復。
背景:
- ロンドン時間午後にドルが強含み、高値圏で利益確定売り。
- 米新規失業保険申請件数、米雇用統計の発表は政府閉鎖で延期。
- 主要経済指標が10月末FOMCまで発表されない可能性が意識され、市場では利下げ開始時期が遅れる懸念も浮上。
金曜日
金はロンドン時間午後に 3,890ドル まで上昇、前日の史上最高値に接近。
背景:
- 米ISM非製造業景況指数が予想を下回り 50(サービス業の停滞を示唆) → ドル弱含み。
-
トランプ大統領がガザ和平案について、ハマスに「10月5日(日)午後6時(ワシントン時間)までの合意」を要求。ハマスは合意を拒否する姿勢を示唆 → 紛争拡大懸念が安全資産需要を押し上げ。
その他の市場のニュ―ス
-
コメックス(COMEX)の貴金属先物・オプションにおける資金運用業者のポジションは、9月23日までの週に発表されたデータ上では、19日に米つなぎ予算が否決されて、米政府機関一部の閉鎖が懸念されていた際に、金が史上最高値、銀が14年ぶりの高値を更新していた際に、金を除き全てのの貴金属でネットロングが増加していたこと。
-
コメックス金の先物・オプションにおける資金運用業者のネットロングポジションは、1.2%減で493.35トンと3週連続で減少して8月26日までの週以来の低さとなっていたこと。価格は前週比2.4%高のトロイオンスあたり3783ドルと史上最高値へ上昇し、建玉は7.5%増と5月6日以来の高さであったこと。
-
銀のネットロングポジションは5.1%増の6,231トンと、9月2日までの週以来の高さへ増加していたこと。価格は前週比5.0%高の44.33ドルと、2011年4月26日の週以来の高さ。建玉は6.1%増で6月17日までの週以来の高さへ増加していたこと。
-
プラチナのネットポジションは、5月20日からネットロングへ転じ、24.8%増の27.44トンと、6月24日までの週以来の高さへ増加。価格は前週比5.5%高で1478ドルと、2014年7月29日の週以来の高さ。建玉は7月22日の週以来の高さへ増加。
-
パラジウムは2022年10月半ばからネットショートが継続。1.3%減で15.27トンと8月12日までの週以来の低さ。価格は前週比3.9%高の1230ドルで、7月29日までの週以来の高さ。建玉は8月19日までの週以来の大きさ。
-
金ETFの最大銘柄であるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに10.0トン(1.0%)増の1015.74トンと2022年7月13日以来の高さで、3週連続の週間の増加。
-
銀ETFの最大銘柄であるiShareシルバーの残高は、今週木曜日までに46.64トン(0.3%)増の15,408.48トンと2022年7月以来の高い水準で、3週連続の週間の上昇。
-
金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週81台前半と、2024年10月以来の低さで始まり、火曜日に82台半ばまで上昇後に、金曜日に81台半ばへ下げて終える傾向であること。2024年平均は84.75、2023年は83.27、5年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。
-
金価格との差であるプラチナディスカウントは、今週2206ドルと9月初旬以来の低さで始まり、木曜日に2300ドルまで上昇後に、本日2280ドルまで下げて終える傾向。2024年平均は1431ドル、2023年は975ドル、5年平均は968ドル。
-
プラチナとパラジウムの価格差は、2月6日以降パラジウムがプラチナを上回る「プレミアム」が継続。今週は324ドルと2016年11月初旬以来の大きさで始まり、木曜日に307ドルまで下げたものの、本日318ドルで終える傾向。2024年平均は28ドルのディスカウント。2023年は371ドル、2022年は戦争影響で1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
-
上海黄金交易所(SGE)とロンドン価格の差は、今週中国が水曜日から一週間の長期休暇で月曜日と火曜日の平均は、前週の29.88ドルのディスカウントから、52.66ドルのディスカウントと、2020年9月のコロナ危機下で移動制限が行われた際以来の高さとなっていたこと。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は米つなぎ予算が失効し、一部の政府機関が閉鎖されたことで、金曜日に予定されていた米雇用統計の発表が遅れることとなりました。その間、市場は政府機関の閉鎖への懸念や、民間機関が発表した米ADP雇用統計が予想を下回ったことなどを背景に動きました。
来週は、経済指標の発表が限られているものの、水曜日に先月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が公表され、さらに金曜日のミシガン大学消費者態度指数とともに、市場の注目材料となる見通しです。
詳細は、主要経済指標(2025年10月6日~10日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
-
主要経済指標(2025年9月29日~10月3日)今週のの結果をまとめています。
-
主要経済指標(2025年10月6日~10日)来週の予定をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。
ロンドン便り
今週の英国では、トランプ米大統領とネタニヤフ・イスラエル首相によるガザ地区和平案の合意、年に一度の労働党大会、マンチェスターで発生したユダヤ礼拝所付近でのテロ事件、そして明るいニュースとしては女子ラグビーワールドカップ2025でのイングランド優勝や、英国国教会の最高位であるカンタベリー大主教に史上初めて女性が選出されたことなどが大きく報じられています。
ここでは、昨日マンチェスターで発生したテロ事件とその反響についてお伝えします。
ユダヤ教における最も神聖な日「ヨム・キプール(贖罪の日)」にあたる2日、シリア系イギリス人のジハード・アル=シャミ容疑者による車両突入と刃物による襲撃が発生しました。この事件で2人が死亡、3人が重傷を負い、容疑者は警察に射殺されました。「現代イギリス史上最悪の反ユダヤ主義テロの一つ」と位置づけられています。
スターマー首相は事件を「ユダヤ人を標的にした憎悪犯罪」と断定し、「英国全土のユダヤ人コミュニティの安全確保に全力を尽くす」と表明しました。首相の妻がユダヤ人であることもあり、ユダヤ社会との連帯を改めて強調しています。
一方、英国を含む複数の国が9月にパレスチナを国家として承認したことに反発するネタニヤフ首相は、英国の対テロ対応の「弱さ」が今回の攻撃を招いたと非難しました。
また、奇しくも明日にはロンドンのトラファルガー広場でパレスチナ支持デモが予定されており、政府と警察は中止を求めています。背景にはユダヤ人コミュニティへの配慮と、治安維持に必要な警察資源の分散への懸念があります。警察は「ユダヤ人社会の保護を最優先すべき」とし、1,500人規模のデモへの十分な対応が困難であるとしています。
英国内世論は、2023年10月7日にハマスがイスラエルに行った攻撃を強く非難しつつも、国連人権理事会の報告書が示すように、ガザ地区に対するイスラエルの攻撃を「ジェノサイド(集団虐殺)」と見る声もあります。
さらに、トランプ大統領とネタニヤフ首相が合意した和平案に対し、ハマスが日曜日の米東部時間午後6時までに回答しなければならないと、本日トランプ大統領は発言しました。そして、期限までに応じなければ「前例のない報復がハマスに下される」と警告していることへの懸念も高まっています。
暴力の連鎖が続く現状の中で、国際社会の協力の基に、一刻も早い和平実現への動きが起こることが望まれています。