ニュースレター(2023年6月16日)重要イベントを経て、ドル建て金価格は横ばいの中、円建て金価格は急騰
私は先週と今週は休暇をいただいていますので、前週のニュースレターは簡易版で、本日のお届けとなりました。また、今週も引き続き休暇をいただいていますので、今週のニュースレターは翌週月曜日に同様にお届けします。
週間市場ウォッチ
前週金曜日のLBMAのPM価格の金価格は、トロイオンスあたり1959.75ドルと、前々週金曜日同価格から0.03%安とかろうじて週間の下げとなりました。この間前週金曜日のLBMA銀価格は、前々週の同価格から1.3%安のトロイオンスあたり23.99ドルと3週連続の週間の上げとなっています。プラチナは前週金曜日のLBMAのPM価格は、前々週同価格から1.40%安のトロイオンスあたり987ドルと5週連続の下落で4月初旬以来の低い水準となっています。前週金曜日のパラジウムのLBMAのPM価格は、前週同価格と比較して、5.6%高のトロイオンスあたり1324ドルと4週ぶりの上げで2019年初頭以来の低さから多少上昇しています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
前週は、多くの重要イベントを経て、金はほぼ前々週と同様の水準、銀とプラチナは前週比下げて、パラジウムは前週3年半ぶりの低さをつけていたことから、上昇して終えるなどまちまちな結果となっていました。
これは、最重要イベントのFOMCでFRBが年末までに2回の利上げを行うことが示唆され、1回と見ていた市場にとってはサプライズであったために、独自の動きをしているパラジウムを除き、ドル高と長期金利上昇からも押し下げられることとなりました。
しかし、FRBや欧州中銀の執拗な利上げによる景気後退懸念やインフレの根強さは金にとってはサポートとなっているのに対し、工業用途需要が6割ほどの銀とプラチナにとっては、金利高と景気後退懸念で下げ幅を広げる事となっている模様です。
なお、今週金曜日の日銀の緩和的金融政策維持の発表を受けて、円が対ドル7ヶ月ぶりの安値をつけたことで、円建て金価格は5月初旬の史上最高値のgあたり8993円を若干下回るgあたり8930円で終えています。そこで、今週のチャートは円建て金価格の過去1年間の動きをお届けしましょう。
ここで、他の主要中央銀行が対高インフレで金融引き締めと政策金利引き上げを急ピッチで進める中で、日銀が緩和維持を続ける事による円安からも、円建て金価格が高い水準で推移していることが見ることができます。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は、ドルと長期金利が2営業日連続で上昇する中で、トロイオンスあたり1950ドルへと一時押し下げられて、1960ドルで終えていました。
前週は火曜日に米消費者物価指数、水曜日にFOMC、木曜日に欧州中銀、金曜日に日銀の政策金利発表が行われる予定で、FOMCでは据え置きが7割強となっていたものの、7月の利上げが7割を超えていたことが、ドルと長期金利を引き上げ、金の頭を重くしていました。
また、同日10年物を含む米短期国債が発行される予定であることも金利を引き上げている背景となっていましたが、低値での買いもあり下げ幅を削っていたようでした。
火曜日金相場は、注目データの米消費物価指数の発表後トロイオンスあたり1970ドルを一時つけて、1951ドルへ下げるなどと神経質な動きをして、ロンドン時間午後に下げ幅を広げて1943ドルで終えていました。
同日発表された米インフレデータは、前月比0.1%と予想の0.2%と前回の0.4%を下回り、前年同月比4.0%と予想の4.1%と前回の4.9%を下回り、2021年3月以来の低さとなっていました。コアに関しては、前月比は前回と予想同様の0.4%で、前年同月比は5.3%と予想と同水準で、前回の5.5%を下回り、2021年11月以来の低さとなっていました。
そこで、インフレ鈍化でFRB利上げのペースが落ちる観測で、金価格は一旦上昇したものの、未だ高い水準であることには変わらないことで、一気にその観測が後退することとなりました。
同日のFOMC後の政策金利のFEDWatchツールの予想は、9割を超えて据え置きとなっており、同時に発表されるドットチャートで年末までの金利予想がどのようになっているかに注目が移っていました。前回3月と前々回12月の予想は5.10と現行水準が維持されるものとなっていました。
水曜日は米卸売物価指数が前月比-0.3%と前回の0.2%と予想の-0.1%を下回り、前年同月比でも1.1%と前回の2.3%と予想の1.5%を下回り、FOMC終了を前にして利上げペース減速観測で金価格はトロイオンスあたり1960ドルまで上げたものの、FOMC後の発表でその上げ幅を失って1945ドルで終えていました。
FOMCの結果は、予想どおり政策金利を据え置きというものでしたが、同時に発表された今後の金利予想で、年内2回の利上げが示唆されたことやパウエルFRB議長の記者会見の内容も年内の利下げ無しと述べる等タカ派的との判断で、上げ幅を失って下げていました。
木曜日は前日の下げ基調を受け継いで一時1926ドルと3ヶ月ぶりの低値を付けた後に、発表された米経済指標が経済停滞を示唆していたことに加え、欧州中銀が同日8会合連続で利上げを行ったことからも、ドルと長期金利が下げて1958ドルまで上昇して終えていました。
欧州中銀は主要政策金利を4%と22年ぶりの高水準へと引き上げて、景気より物価の安定を優先課題という姿勢を明確にしていました。
また、同日発表の指標は、新規失業保険申請件数が26.2万件と前回修正値と同水準であるものの予想を上回り、2021年10月以来の高さを維持していました。そして、フィラデルフィア連銀製造業景気指数や鉱工業生産も経済悪化を示唆していましたが、小売売上高が予想を上回るなど、多少まちまちとはなっていました。
金曜日金相場は前日ひと月ぶりの低さをつけたドルとほぼ2週ぶりの低さをつけた米長期金利が上昇する中で、トロイオンスあたり1957ドルとほぼ前日終値と同水準で終えていました。
このドルと長期金利の動きは、同日のミシガン大学消費者態度指数が予想を上回り、ウォラー米FRB理事が16日の講演で「一部の銀行の経営不振を心配して、金融政策のスタンスを変えることを支持しない」と述べたことが伝えられ、前日欧州中銀の利上げと今後の利上げ継続が示唆され、今週金利を据え置いたFRBとの差が意識されていたものの、再度FRBの利上げ継続観測が広がることとなりました。
そのような中、同日は日銀が緩和的金融政策を維持することを発表し、日本円が対ドルで7ヶ月ぶりの低さへ下げたことで、円建て金相場はgあたり8928円と、5月3日の史上最高値の8993円に次ぐ価格をつけていました。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの6月13日分が発表され、米消費者物価指数の上昇が減速していたものの、コアにおいては引き続き根強いものが示されて、銀を除く貴金属価格が下げていた際に、金とプラチナは強気ポジションを減少させ、銀は強気ポジションを増加、パラジウム5週連続で弱気ポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から18%減で290トンと3月14日の週以来の低い水準であったこと。この間建玉は、1.1%減と5週連続で減少し、価格は前週比0.15%安でトロイオンスあたり1954.40ドルと下落していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週比27%増の2276トンと5月9日の週以来の高さ。価格は2.28%高でトロイオンスあたり24.19ドルと3週連続で上昇して5月9日以来の高さ。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、26%減で21.6トンと4月11日以来の低さ。価格は前週比3.5%安でトロイオンスあたり992ドルと3月28日以来の低さへ下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、1.9%減の2.830トンと5週連続で減少していたこと。価格は前週比2.49%安でトロイオンスあたり1372ドルと2019年6月4日以来の低さへ下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、前週金曜日までの1週間で2.3トン(0.24%)増で934.03トンと、3週ぶりの週間の増加。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、前週金曜日までに週間で1.12トン(0.25%)減で452.86トンと、3週連続の週間の下げ。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、前週金曜日までに週間で127.07トン(0.87%)減で14,407トンと、週間の減少。
- 金銀比価は、今週81台前半で始まり、木曜日に82台へ上げたものの、81台後半へ戻して週を終えていたこと。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、956ドルで始まり、971ドルまで上げて終えていたこと。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、307と2018年11月以来の低さで始まり、木曜日に410へ上昇したものの、398で終えていたこと。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て価格が5月半ば以来の高さへ上げて、人民元が対ドル昨年11月以来の低さへ下げる中で、週間の平均では4.99ドルと5月12日以来の低さで、前週の5.80ドルァら下げていたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週平均比で金は7%増、銀は10%高で6週ぶりの高さ、プラチナは13%増で12週ぶりの高さ、パラジウムは3.1%減で10週ぶりの低さ。
来週の主要イベント及び主要経済指標
先週は米国、欧州、日本の中銀の金融政策発表や米国の消費者物価指数等の重要イベントと指標が相次ぎ市場が注目しましたが、今週も引き続き中銀の政策金利関連のコメントやそれに影響を与えるデータが重要となり、水曜日と木曜日のパウエルFRB議長の議会証言は注目イベントとなります。
その他、火曜日の豪州中銀の金融政策議事要旨、米住宅着工件数、水曜日の日銀金融政策決定会合議事要旨、英国消費者物価指数、木曜日のイングランド銀行金利発表、米新規失業保険申請件数、金曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMI等へ市場は注目することとなります。
ブリオンボールトニュース
すでにお伝えしていますが、5月31日に私がパネリストとして参加した日本のコモディティ先物会社のサンワード貿易株式会社の金投資ウェビナーのビデオがYouTubeチャンネルでご覧いただけることとなりました。よろしければ、下記のリンクでご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=8nHZTHH4vn4
また先週は、英国主要経済サイトのThis is Moneyの「中国とロシアが金価格を史上最高値へと押し上げた謎の購入者なのか?」の記事で、弊社リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュのコメントと弊社チャートと弊社が共催している大英博物館のエキジビションが取り上げられています。
ここで、エィドリアンは「金は誰かが高値で買っており、中国とロシアは、その規模と過去の経緯からもその誰かである可能性が高い。」とし、「通常投資家は、米金利が高ければ、金よりも米国債を購入することを選ぶが、金価格は高止まりしている。そこで、金と金利の相関関係は弱まっているようだ。その背景は、金が米国の管理の及ばない資産として政治的に魅力があるためだ。」と続けています。
前週と今週は休暇をいただいていますので、市場分析及び投資ガイドページの記事掲載は特にありません。
- 主要経済指標(2023年6月12日~16日)今週の結果をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
前週と今週は休暇をいただいていますので、ロンドン便りはお休みさせていただきます