ニュースレター(2018年9月7日)良好な米雇用統計で金相場下落
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の価格は1198.72ドルと、前週金曜日のLBMAの金価格のPM価格(午後3時)から0.1%上げています。また銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり14.19ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から2.2%の下げとなっています。
今週の主要な金相場の動きも、ドルインデックスの上下に反応するものとなりました。そこで、今週は曜日ごとにその他の細かな動きもあわせて、以前のようにお伝えします。
月曜日金相場は米国市場が祝日で休場の中、トロイオンスあたり1196ドルと1203ドルの狭い幅の中で推移していました。
同日のニュースとしては、トルコ通貨リラとアルゼンチン通貨ペソの下げが続いたことから新興国株が下げていたこと。また、英国のEU離脱をめぐり、EUのミシェル・バルニエ首席交渉官が前日に英国が提示した離脱後の通商協定案に「強く」反対すると述べた事が伝えられたことから懸念が広がり、ポンド安からポンド建て金相場は上昇することとなりました。
火曜日金相場は、ドルインデックスが95.60へと3週間ぶりの高さへ強含む中トロイオンスあたり一時1189ドルまで下げ、3週間ぶりの低さを付けていました。
ドルインデックスが強含んでいたのは、同日発表された米ISM製造業景況指数が14年ぶりの高さであったことがきっかけとなりましたが、米中の貿易摩擦や新興国通貨通貨危機への懸念もその上昇を支えていました。
新興国通貨危機としては南アフリカが同日2四半期連続のマイナス成長で「景気後退」へと入ったことが伝えられ、ランドが2.4%下げて2年ぶりの低さとなっていました。また、トルコリラも0.6%下げ3週間ぶりの低さを付けていました。
なお、同日アルゼンチンは通貨危機防衛のために、省庁の数を半減し、新たな輸出への課税を発表していましたが、下げを止めることはなく前日比3%下げていました。
水曜日金相場は、ドルインデックスが3週間ぶりの高さから0.2%下げる中、トロイオンスあたり1198ドルを一時付ける等、前日の終値から0.5%と一週間ぶりの上げ幅となっていました。
ドル高が一服していたのは、これまでの上げの調整でもあるようですが、同日はドイツと英国政府が英国のEU離脱への合意を可能とするために、鍵となる要求を放棄することが伝えられてポンドが上昇していたことも要因となりました。
木曜日金相場は、ドルインデックスが下げて始まったものの、その後上昇を始めたことで、トロイオンスあたり1206ドルまで上昇した上げ幅を失い、1201ドルで終えていました。
同日は市場注目の米ADP全国雇用者数が発表され、16.3万人と前回修正値の21.7万人、予想の19万人を下回っていましたが、米新規失業保険申請件数は49年ぶりの低いものであったことからも、市場への影響は限定的となっていました。
また、同日メディアを賑わしていたトランプ政権内の高官のトランプ大統領の言動を危ぶむニューヨークタイムズへの寄稿記事の市場への影響も限定的となっていました。
なお、同日市場は、米国の中国製品への追加関税発動の可能性や、前日始まった米国とカナダの貿易協議の動きを待つ中、世界株式はこの動きや新興国経済への懸念などからも全般下げていました。
金曜日はまず、ロイターが英国のEU離脱のEU側の首席交渉官のミッシェル・バルニエ氏が英国のEU離脱でハードルとなっているアイルランドの国境問題について簡易化された出入国管理に言及したことを伝え、ポンドが急上昇して、ポンド建て金相場が下落していました。
その後ロンドン時間昼過ぎに、市場注目の米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数は201,000人と予想と前回修正値を上回り、失業率は、3.9%と前回と同水準となっていました。そして、市場注目の平均時給は前年比2.9%と前回と予想の2.7%を上回っていたことからも、この発表を受けてドルインデックスと米長期金利が上昇し、金相場はトロイオンスあたり1195ドルへと下げることとなりました。
来週の主要イベント及び主要経済指標
水曜日の米地区連銀経済報告(ベージュブック)と米卸売物価指数、木曜日のイングランド銀行金利発表と欧州中銀政策金利発表、米消費者物価指数、金曜日米小売売上高とミシガン大学消費者態度指数
その他の市場のニュ―ス
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金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は今週も木曜日までに8.2トン減少し、746トンと2016年2月半ばの低い水準へと下げていること。 -
トランプ米大統領が日本に貿易赤字の削減を強く迫る姿勢を示したと木曜日WSJが伝えたこと。 -
モンゴル中央銀行の副総裁が今年22トンの金を購入する計画であるとブルームバーグに述べたことが伝えられたこと。 -
インドの中央銀行のインド準備銀行(RBI)が先月金準備を6.8トン増加させ、573トンとしていたこと。 -
今週火曜日に銀相場が金の下げを上回る下げを見せてトロイオンスあたり14.10ドルと21ヶ月ぶりの低さとなり、金銀比価は84.5と2008年以来の高さ(つまりは銀が割安、金が割高)となっていたこと。
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先週末に発表されたコメックス金先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に米長期金利が上昇し金価格が下げる中、7週連続でネットショートであったものの、そのネットショートポジションを216トンへと11.6%減少させていたこと。
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コメックス銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションも、先週火曜日に7週連続でネットショートだったものの、そのポジションは36.1%増の5,370トンとなっていたこと。このショートポジションはこのフォーマットでレポートが発表され始めた2006年6月以来最大。
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コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者ポジションは、先週火曜日に21週連続でネットショートで、そのポジションも3.03%増の45.99トンと、このフォーマットでレポートが発表され始めた2006年6月以来最大となっていたこと。
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先々週火曜日にこのフォーマットでレポートが発表された2006年6月以来初めてネットショートとなっていたパラジウムの先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に6.87トンのネットロングへと戻っていたこと。
ブリオンボールトニュース
英国の主要経済紙City AMの銀地金投資に関する記事で、ブリオンボールトのリサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントとリサーチデータが取り上げられました。
ここでエイドリアンは銀と金の値動きについて「銀は金にステロイドが入ったようなもの」と例え、ドル建てにおいては、1968年からその76%の取引日に同じ方向に動いたとし、反対に動いたのは過去20年では7回のみであると説明した上で、その値動きの激しさは金をはるかに上回っていることがトレーダー、特に派生商品を扱う人々にとっては魅力であるようだとしています。
しかし、このメタルは「悪魔のメタル」というニックネームもあるように、上げも大きいが下げる時のスピードと下げ幅は大きいと説明し、「この波に乗ろうとしたヘッジファンドマネージャーが乗り切れずに怪我(損失)を負い担架で運ばれることが多い」という業界の例えを紹介しています。
このリンクで20ページをご覧ください。
今週の市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
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金購入がトランプ大統領選出以来の高い水準へ(金投資家インデックス8月数値) -
主要経済指標(2018年9月3日~7日)
ロンドン便り
今週英国では、3月に英国南部で起きた元ロシア情報員の暗殺未遂事件で、ロシア軍参謀本部情報総局の情報部員2人と特定したことが、英国のEU離脱関連ニュースと共に大きく取り上げられていましたが、英国の野党労働党の混乱のニュースが日々伝えられていますのでご紹介しましょう。
まず、この混乱はコービン労働党党首が反ユダヤ的であると非難されながら、その対応が十分でないことが背景にあります。そのために、今週は労働党のブラウン元首相、ブレア元首相が介入せざるを得なくなっています。
この発端は実は2016年に遡ります。それは労働党のナズ・シャー下院議員が2014年にフェイスブックでイスラエルを米国に移動させる画像に「問題解決」とコメントを付けていたことがこの年に発覚し、その後元ロンドン市長の労働党のケン・リビングストン氏が同氏の発言を反ユダヤ主義とは思わないとし、ヒットラーは「ユダヤ人はイスラエルに引っ越すべき」とイスラエル建国を指示していたと述べたことが問題になったのでした。
そのため、コービン党首は調査委員会を立ち上げたものの、有効な対策を提示できなかったことから「反ユダヤ主義」の対応が甘いという印象を与えたのでした。
また、コービン党首とそのサポート基盤の労働党左派は、長年にわたり反シオニズム(ユダヤ人国家建設を目指す運動に反対する立場)の傾向があると言われています。それは、パレスチナ問題において、イスラエルを強者、パレスチナを弱者としてイスラエルの政策を批判する人々がいることからです。そのために、左派の代表格であるコービン党首の反シオニズムを支持しているとも取れる過去に参加したイベントや過去の発言などが掘り起こされて、その対応に追われている状況が続いています。
そこで、英国のユダヤ教徒の指導者のサックス師は週末2日に「ユダヤ人は現在英国が安全かどうか疑問を抱いている」と述べ、ブラウン元首相は迅速な対応を促し、本日ブレア元首相はコービン党首によって労働党は大きな変化を遂げたとし、「労働党内の左派から労働党内の穏健派が力を取り戻すことができるか疑問だ」と、コービン党首の党運営を暗に批判しています。
コービン党首は一貫して反ユダヤ主義やいかなる人種差別にも反対すると主張していますが、混乱の鎮静化は見えていません。
EU離脱交渉が混迷を続ける中で、メイ政権が危機的位置に立たされていない一つの要因が、英国で長く続いている二大政党制でEU離脱においても政策論争を行うべき立場にある労働党内の混乱であることは明らかです。
本日はイングランド銀行の前総裁で離脱派としても有名なマーヴィン・キング氏がEU離脱交渉の不手際を強く批判していますが、保守党と労働党が共に党首が党をまとめることができない中で、英国のEUからの合意なき離脱ハードブレグジットを防ぐことができるのか、先行き不透明感は強まるばかりです。
なお最後になりましたが、今週台風21号や北海道地震のことが英国でもトップニュースで伝えられています。
この災害で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。そして、ライフライン等が一日も早く復旧し、被災地域が復興することを心から願っています。