ニュースレター(2018年8月31日)1202.73ドル:貿易摩擦と新興国通貨危機への懸念再燃で月間ベースで5ヶ月連続の下げ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の価格は1202.73ドルと、前週金曜日のLBMAの金価格のPM価格(午後3時)から0.4%上げています。しかし、LBMAのPM価格の月末ベースでは、5ヶ月連続で下げています。なお銀価格においては本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり14.66ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.3%の上げとなっています。これは月末価格ベースでは3ヶ月連続の下げとなります。
今週は英国は月曜日が祝日で短い週でしたが、貿易関連ニュースと新興国通貨危機が市場を動かすこととなりました。
まず月曜日は、米国とメキシコの北米自由貿易協定(NAFTA)の最交渉で一部貿易協定合意が伝えられて、貿易戦争への懸念で買われていたドルが売られ、ドルが弱含んだことから金相場は上昇で始まりました。
これは、先週金曜日にジャクソンホールシンポジウムでパウエルFRB議長が緩やかな利上げに言及し、ハト派的内容との解釈からドルインデックスが下げていた基調を受け継ぐ形となりました。
しかし、世界株式が米国とメキシコの貿易協定合意を受けて、貿易戦争への懸念が薄らぎリスクオンで上昇していたことからも金相場の上値は抑えられていました。
なお、本日金曜日は、NAFTAの再交渉を行うカナダの米国が設定した期限であることから、その先行きに市場は注目をしています。
そのような中、昨日はトランプ大統領が中国への2000億ドルの追加関税を来週にも発動する可能性が伝えられてトランプ大統領が否定をしなかったこと、また世界貿易機関(WTO)からの脱退の可能性、ユーロ圏を次の標的とするようなインタビュー内容も伝えられ、更なる世界貿易関連の懸念は高まりつつあります。
そして、新興国通貨危機ですが、今週はアルゼンチン通貨危機が深刻化することとなりました。それは、今週水曜日にアルゼンチンがIMFに信用枠(500億ドル)に基づく融資実行の前倒しを要請したことを明らかにし、昨日は既に年初来50%ほど下げている通貨ペソ防衛のために、アルゼンチン中央銀行が既に45%であった政策金利を前代未聞の60%に引き上げたものの、通貨の下げを止めることにはなっていないこと等からです。
この間トルコ通貨は米国との関係に改善が見られず、経済立て直しは先行き不透明で、中央銀行の独立性も保たれていないためにエルドアン大統領の意向で利上げがないことからも、今週もリラは下げ続け、年初来の下げはアルゼンチン通貨ペソに次ぐ下げ幅の43.5%に達しています。
そして、本日インドルピーは市場最低値を付け、年初来9.7%下げと、ブラジル通貨リラの20.2%、南アフリカ通貨ランドの16.1%、ロシア通貨のルーブルの15.6%に次ぐ下げ幅となっています。
また、今週はその他イタリアと英国の政情も為替レートを動かし、ユーロ建てとポンド建て金相場を動かすこととなりました。
まず、今週火曜日にはイタリアの財政赤字がEUの制限を突破する可能性があるとのことで、イタリア国債が下落していました。その後、水曜日にイタリアがECBに国債購入支援を要請するという報道が流れ、ユーロが下げていましたが、ロンドン時間午後にイタリア副首相がこの報道を否定し戻していました。
そして、英国も火曜日にブレグジット交渉への懸念から英国債が落していましたが、水曜日に英国のEU離脱に向けた交渉のEU側の責任者ミシェル・バルニエ首席交渉官が「EUは英国との絆を可能な限り強く保つ」と述べたこと、また英国側の離脱担当相のドミニク・ラーブ氏が「合意は近い」と述べたことが伝えられ、ポンドが対ドル1%ほど上昇し、ポンド建て金相場が1週間ぶりの低さへ下げていました。
そして主要経済指標関連の動きとしては、今週の注目指標であった火曜日の米第2四半期GDPが、予想と前回を上回る4.2であったこと、また昨日発表の米個人支出価格指数(PCE)が、コアでも2.0%とFRBの目標を達成したことから、FRBの年内利上げ2回の観測が広まり、共に発表後金相場を押し下げることとなりました。
また、昨日から米中、米欧貿易摩擦懸念が再燃することで下げている世界株価ですが、今週はS&P500とナスダックが水曜日に史上最高値を更新したことも金相場にとってはネガティブな要因となっていました。
その他の市場のニュ―ス
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金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高が今週木曜日までで6.8トン減少し758トンとなっていました。この規模は2016年2月23日以来の低さで、今年4月30日のピークからは114トン減(13%減)となっていること。 -
コメックス貴金属先物・オプションのポジションは、トランプ大統領がロイターとのインタビューでFRBの利上げに不満を述べていた事が伝えられた翌日の先週火曜日は、翌日のFOMC議事録の発表を待っていたことからも、全ての貴金属のポジションがネットショートとなっていいたこと。 -
コメックス金先物・オプションにおいては、6週間連続でネットショートで、その規模も1.69%と少ないながらも244トンまで増加させていたこと。これは、このフォーマットでレポートが発表された2006年6月以来最大で、ショートポジションもまた最大で、過去の平均の579%、10年平均の537%となっていたこと。
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銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションも先週火曜日に6週連続でネットショートで、25%増の3,946トンとなっていたこと。このショートポジションもこのフォーマットでレポートが発表され始めた2006年6月以来の最大で、過去平均の579%、過去10年の518%。しかし、ロングポジションも過去平均の168%、過去10年の159%となっていたことから、ネットショートポジションは今年4月の水準を下回っていたこと。
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コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットポジションも先週火曜日に20週間連続でネットショートで、2.62%増の44.64トンとなっていたこと。これは、2006年6月以来最大であった7月17日の45.97トンに次ぐ規模。
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コメックス貴金属で唯一ネットロングであったパラジウムの資金運用業者ポジションも、先週火曜日にこのフォーマットでレポートが発表された2006年6月以来初めてネットショートで0.62トンとなっていたこと。
ブリオンボールトニュース
弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュが、今週火曜日金相場のの先行きについてCNBCのインタビューに答えました。
ここでエィドリアンは先々週にトロイオンスあたり1160ドルへと下げたことからも、インドや中国の需要が増加していることが伝えられているとしながらも、欧米の機関投資家が利用するETFや先物市場は未だ弱気市場だと述べ、金相場が底を打ったのか、なぜ未だ1300ドルから1400ドルへと上がると予想するアナリストがいるのかという質問に対しては、確かに積み増されているショートカバーで上昇する可能性はあるが、FRBの9月の利上げが100%予想、12月が67%予想、株式市場が記録を更新し、CPIが高まっていない、そして新興国通貨危機がさらなる危機を誘引していないことからも、底が売ったと言い切るのは難しいところだと答えています。
そして、今年の金相場はボラティリティが4年ぶりの低さと短期利益を目指す投資家にとっては退屈な市場であること、だからこそ長期で投資をしている人々にとっては良い買い機会となっていると答えています。
今週の市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
ロンドン便り
今週メイ英国首相はアフリカを歴訪中であるため、このニュースが大きく取り上げられています。
この訪問は、来年3月のEUからの離脱を前に、かねてから目指していた英国の貿易立国へのステップであり、メイ首相は40億ポンド(約5,758億円)の新規投資、そして民間企業からの少なくとも追加40億ポンドの投資を見込むことを表明しています。
また、今回の訪問は南アフリカ開発共同体加盟国とアンゴラを加えた7か国は既にEUとの経済連携協定があることから、EU離脱後の関係の話し合いもアジェンダであったとのことです。
今回の訪問がメディアで大きく取り上げられていたのは、その重要性もありますが、実は訪問時の歓迎式典等でメイ首相が地元の方々と踊る様子がとてもAwkward(ぎこちないもの)であったことから、このビデオや写真が多くのメディアで取り上げてられていたことからでもありました。
ちなみに、英国メディアはアフリカへの投資について好意的に伝えているものの、「遅すぎた」、「額が少額すぎる」ともコメントしています。それは、中国はアフリカへの投資を2000年以来続けており、2000年から2014年までで既に860億ドル(約9兆5,355億円)投資したことが明らかとなっています。そして、それに加えて2014年からの10年間で1750億ドル(約19兆4,036憶円)を約束しているとのこと。この間米国は140億ドル(約1兆5,522憶円)規模の投資を約束しているとのことです。なお、日本からの投資は、2016年8月にアフリカを訪れた安倍首相が3年間で約300億ドル(約3兆3,266億円)を投資することを発表しています。
アフリカの資源や経済成長の伸びしろを考えると経済の絆の重要性は確かであることからも、メイ首相のぎこちない踊りであろうと、中国や米国や日本と比較して少額の投資であろうと、関係が築かれるのであれば英国にとっては望むことなのでしょう。