ニュースレター(2018年8月10日)1215.04ドル:夏枯れの市場の中で米国の中国、イラン、トルコ、ロシアへの制裁ニュースが続く
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の価格は1215.04ドルと、前週金曜日のLBMAの金価格のPM価格(午後3時)から0.1%下げています。この水準は金曜日のLBMAのPM価格としては4週続けて今年最低を付けることとなり、過去11週間で9回目の週単位での下げとなっています。なお銀価格においては本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり15.38ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)とほぼ同水準となっています。
月曜日金相場は、ドルインデックスが95を超えて上昇する中、トロイオンスあたり1206ドルまで一時下げたものの、1213ドルまで戻して終えていました。
同日ドルが強含んだのは、米中の貿易戦争への懸念が高まっていたことからでした。
それはトランプ大統領がツィートでも追加関税は「とても良く働いている」述べ保護主義的通商政策を緩める兆しがないこと、そして中国の人民日報が6日の論説で、米国は中国との貿易摩擦をエスカレートさせ、国際貿易を「ゼロサムゲーム」にしたと指摘するなど、トランプ大統領の通商政策を激しく批判したことが伝えられたことからでした。
なお、イランへの制裁猶予が同日で終わり、翌日から一部復活するために、通貨リアルは対ドルで最安値を付けていました。
火曜日金相場は、ドルインデックスが0.3%と2週間ぶりの下げを見せる中、トロイオンスあたり1207ドルから1215ドルの狭い範囲での取引となっていました。
ドルインデックスが下げていたのは、米中の貿易戦争への懸念が、中国株を含む株価全般が上昇していることなどからも多少薄らいでいることが要因とされていました。また、この懸念の後退からも工業用メタルが上昇し、金はそれに牽引されて一時上昇していました。
なお、同日トランプ米政権によるイラン制裁の一部再発動を受け、EUはイランと取引する欧州企業を保護する対抗策を発動していますが、欧州の大企業には既にイラン撤退の動きが相次いでいることが伝えられていました。
また、北朝鮮関連でも米国のボルトン大統領補佐官が同日、北朝鮮は6月の米朝首脳会談で確約した非核化に必要な措置を取っていないと述べたことも伝えられていました。
水曜日金相場は、夏休みを取る市場関係者も多く市場が取引薄となる中で、トロイオンスあたり1210ドル前後を推移することとなりました。
同日ドルインデックスは95を超えて高止まりし、これはトランプ米政権が前日知的財産権侵害に対する制裁関税の第2弾として、23日から160億ドル相当の中国製品に追加関税を課すと発表し、中国も同日同規模の米国製品に報復関税を課す方針を示したことが伝わっていたことからでした。
しかし、同日発表された中国の貿易収支は米国の追加関税にもかかわらず堅調なものであったことから、中国株が落ち着きを見せる中、日経平均株価も上昇していました。
しかし、英国ポンドは同日EU離脱の交渉先行きの懸念から大きく下げ、それによってポンド建て金価格が7月20日以来の高さへと上昇していました。
木曜日金相場は、トロイオンスあたり1214ドルを挟んで狭いレンジでの取引となりました。
同日のニュースとしては、前日米国がロシア元スパイの暗殺未遂事件で新たな経済制裁を発動させたことに対し、ロシアもまた経済制裁の準備がある述べたことが伝えられていることに絡み、ロシアの通貨ルーブルが2年ぶりの低さへ下げていたことでした。
金曜日金相場は、ロンドン時間午後4時にトロイオンスあたり1216ドルまで上昇しています。
本日は、ユーロ圏の銀行を監督しているファイナンシャルウォッチドックがトルコへの多額の投資をしているBNPパリバのようなユーロ圏の銀行のエクスポージャーに懸念を高めているという記事を発信するなどトルコ経済とそれに関わる金融機関を含む企業への懸念が高まっていました。
そこで、まずロンドン午前中にトルコリラが2.2%急落していることが伝えられていましたが、その後ロンドン時間昼過ぎにはトランプ大統領が、トルコからのアルミニウムと鉄鋼への追加関税率を倍の20%と50%にしたことをツィートすることで、トルコリラが16%下落と17年ぶりの低い水準へと下げる中、世界株式が下落していました。
また、本日は市場注目の米消費者物価指数が発表され、前年比2.9%と予想の3.0%は下回ったものの、前回と同水準で、前月比では0.2%と予想と同水準で前月の0.1%を上回ったことから、ドルインデックスが96を超えて0.7%上昇と一月ぶりの高さへと上昇しています。
なお、本日も英国ポンドは7営業日連続で下落し、ポンド建て金相場はトロイオンスあたり954ドルと1月ぶりの高さまで一時上昇しています。
その他の市場のニュ―ス
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金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高が今週は木曜日までに10.9トン減少し786トンと1年ぶりの低さまで下げていたこと。 -
最新のワールドゴールドカウンシルのレポートによるとロシアの金準備高が今年に入っても増加を続けていて、半年で105.3トン増の1,944トンとなっていることが明らかになっていたこと。 -
そのような中、先月発表の米国の財務省のレポートによると、ロシアの米国債保有高が今年3月の960億ドルから5月には149億ドルへと激減していたこと。 -
米中貿易戦争への懸念から人民元が下げ、年初の高値から既に24%下げていた中国株が、木曜日には1.8%戻していたこと。 -
先週末に発表されたコメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に米中が貿易戦争を防ぐべく話し合いを始めたことが関係者の話として伝えられ、コモディティ価格全般が上昇する中、パラジウムを除き全ての貴金属でネットショートとなっていたこと。しかし、このネットショートは金を除き減少(もしくはネットロングポジションが増加)していたこと。 -
コメックス金先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に3週連続でネットショートで、そのポジションも127トンと前週から51.30%増加し、このフォーマットで発表が始まった2006年6月以来最大となっていたこと。そして、ショートポジションが記録的な水準へ増加していたこと。 -
それに対し銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、金同様に先週火曜日に3週連続でネットショートとなっていたものの、そのポジションは41.1%減少し1039トンとなっていたこと。
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コメックスのプラチナの先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に17週連続のネットショートであったものの、そのポジションは4.55%と多少ですが減少し、40トンとなっていたこと。しかしながら、そのショートポジションは、このフォーマットでレポートが発表された2006年6月以来の最大となっていたものの、ロングポジションも増加していたためにネットショートが減少していたこと。 -
パラジウムの先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、は前週火曜日に72.51%増の9.64トンとなっていたこと。 -
先週発表されたワールドゴールドカウンシルの最新の金需給レポートで、イランの金貨や金地金の需要が自国通貨の下げでレアル建て金価格が上昇しているにもかかわらず、200%増であったことがレポートされていたこと。
ブリオンボールトニュース
今週は弊社が毎月まとめている金投資家の動向を指数で示す金投資家インデックスの7月数値が発表されたので、そのデータを多くの主要メディアで取り上げていただきました。
日本語で金の情報を網羅するゴールドニュース「価格の下げで金売却者は激減、金購入者は23.5%へ」
フィナンシャルタイムズのFT Adviser「投資家によるゴールドラッシュで売却者数を購入者数を大きく上回る」
この記事では、先月ブリオンボールトで金を購入した顧客数が売却をした顧客数を大きく上回り、10年ぶりの水準となったことを紹介し、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントを取り上げています。この詳細は先のゴールドニュースサイトの「価格の下げで金売却者は激減、金購入者は23.5%へ」をご覧ください。
英国主要日刊紙の経済サイトMoneyObserver.com「金価格が下落が金投資家にとっては魅力に」
この記事でも、金価格の下げを購入機会と見たブリオンボールトの顧客の金購入が進んだことが取り上げられています。そして金を購入した顧客数が7月に23.5%増加したこと、それに対し売却者数は10.8%減少していたというデータも弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュの分析と共に紹介しています。
今週の市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
ロンドン便り
今週英国では、英国のEU離脱派の代表として国民投票時にそのキャンペーンを先導し、メイ政権で外相を勤めていたものの、先月政府の方針に反対して辞任したボリス・ジョンソン氏が新聞に寄稿した記事が問題となり、日々ニュースで伝えられているのでご紹介しましょう。
今回問題となったのは、ボリス・ジョンソン氏が、イスラム教の女性の全身を覆う衣装の「ブルカ」について、「郵便ポスト」や「銀行強盗」のようだとコメントしたことからでした。
この6日にディリーテレグラフへ投稿された記事自体は、ジョンソン氏が今月初めにデンマークが公共の場で「ブルカ」の着用を禁止したことに対し、そのような法律には反対という記事ではあったものの、個人的に「郵便ポストのように見える格好で出歩くことを選ぶのは、全くばかげている。」と書いた事等からでした。
この記事はイスラム教の人々に限らず、メイ首相や多くの与野党の国会議員や多方面の識者からも謝罪が必要という声が上がったにも関わらず、いまだジョンソン氏からは謝罪が行われていないことが問題となっています。
昨日の段階では、党の行動規範に違反した疑いで党の調査官が調べを進め、さらに3人で構成する委員会の設置が必要かどうかを判断することになったとのこと。
これまでは、ジョンソン氏を批判するコメントばかりが伝えられていましたが、本日は保守党の元党首であったイアン・ダンカン議員が、ジョンソン氏が「ブルカ」を「郵便ポスト」や「銀行強盗」と評したことに同意はしないが、言論の自由は許されるべきで、党による調査をするべきではないと述べたことが伝えられています。
また、英国コメディアンとしてMrビーンなどで有名なローワン・アトキンソン氏も、ジョンソン氏の冗談は趣味が悪いが、宗教を笑いの対象とすることを禁止すべきではないとジョンソン氏を擁護したことが伝えられています。
過去にも、歯に衣着せぬコメントで問題となったこともありますが、やはり、宗教や人種差別と取られるコメントには英国の人々は敏感であるようです。
彼の記事を読む限り、宗教や人種差別をしているとは思いませんでしたが、問題となったような比喩を使う必要はなかったようにも思います。
異なる文化や宗教に寛容であることは必要ですが、女王陛下やキリスト教をも笑いのネタとしてきた英国で、ある特定の文化や宗教を批判したり笑いのネタとすることを、ポリティカル・コレクトネスが行き過ぎてタブーとしてしまうことが無いことは希望したいと思います。