ニュースレター(2018年7月6日)1255.90ドル:米中貿易戦争懸念でドル高が一服し5週間ぶりに週間の上げとなる
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の価格は1255.90ドルと、前週金曜日のLBMAの金価格のPM価格から0.4%上げ、5月末から5週間ぶりに週間での上げとなっています。なお銀価格においてはトロイオンスあたり16.00ドルと、前週のLBMA価格からは0.1%の下げとなっています。
週明け月曜日金相場はトロイオンスあたり1239ドルまで一時下げ、昨年12月12日以来の低い水準となっていました。
これは、同日発表された米ISM製造業景況指数が予想を上回り2004年5月以来の高水準だった2月以来の高さだったことからドルが強含んだこと、そしてトランプ大統領がWTOからの離脱は考えていないと述べたと伝わり米中貿易戦争の懸念が後退し米株価が上昇したこと、ドイツのゼーホーファー内相が移民・難民問題を巡ってメルケル首相と対立を深め、1日に辞任を示唆したことがユーロ安(その結果ドル高)を進めたことなどからでした。
ちなみに今週7月4日は米国の独立記念日で祝日であったことから市場は商い薄で価格は大きく振れる環境ではあったようでした。
火曜日は翌日の米国の独立記念日で米国昼過ぎには米株式市場も閉まることからも休暇に入っていたトレーダーも多く、取引量が少ない中で米株価が下げる中、金が前日の下げを取り戻し、トロイオンスあたり1256ドルまで一時上昇していました。この上げ幅は4か月ぶりのものです。
なお、米中貿易戦争関連ニュースでは、米中政府が追加関税を課す制裁の発動が6日に控え、同日中国裁判所が米マイクロンテクノロジーの販売差し止め命令を出したものの人民銀行は人民元安を貿易戦争の武器にしないと主張していました。それに対しトランプ政権がChina Mobile Ltdが米国市場に参入することを防ぐ手立てを模索していることが伝えられています。
そして、このところ懸念が高まっていたドイツの政局は、難民・移民の流入抑制政策をめぐり、ドイツのメルケル首相と移民反対派が合意したことを受けて同国の政治懸念が後退し、同日は欧州各国の株式相場が上昇していました。
水曜日金相場は、米国の独立記念日で米市場が休場していることからも、取引量は全般少なく、価格の幅もトロイオンスあたり1254ドルから1260ドルの狭い範囲で取引されていました。
木曜日金相場は、米経済指標が予想を下回る中ドルが弱含み、トロイオンスあたり1260ドルを試す水準へと上昇しました。
この経済指標は、本日の米雇用統計の先行指標と見られているADP全国雇用者数で、17.7万人と予想の19万人を下回っていました。また、毎週発表されている新規失業保険申請件数も予想と前週の数値から悪化していました。
また、ドイツの製造業受注指数が予想以上に良い数値であったことでユーロが強含んでいたこともドルを下げることとなりました。
なお、翌日から米中が互いに追加関税を課す見通しとなっていますが、同日はドイツ米大使が米とEU間の自動車関税をゼロにすることを提案したことが伝えられ、貿易摩擦が和らぐ期待感が浮上し、自動車株が全般に買われ、米株価は上昇していました。
同日発表された先月行われたFOMCの議事録はほぼサプライズのない内容となり、市場への影響は限定的となりました。
本日金曜日はまずトランプ政権が予定通り中国の知的財産侵害に対する、340億ドル(約3兆8千億円)相当の制裁関税を発動したというニュースで始まりました。その後、中国もまた340億ドル相当の米国製品を対象に追加関税を発動しています。
そして、市場注目の米雇用統計がロンドン昼過ぎに発表され、非農業部門雇用者数は213,000人と予想の195,000人を上回り、前回数値も223,000人から244,000人に上方修正されていました。しかし、失業率は4.0%と前回と予想の3.8%を上回っていましたが、労働参加率が高まったことが主因として労働市場の拡大が続いていると受け止められたようです。なお、平均時給は0.2%と前回と予想の0.3%を下回っていました。
金相場は先の発表前に上昇を始めていましたが発表後多少下げた後に、ドルインデックスが弱含んだことからも、ロンドン時間午後5時に1254ドル前後を推移しています。
その他の市場のニュ―ス
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金ETF最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高が今週木曜日までで15.6トン減少し803トンと昨年8月末以来の低い水準となっていたこと。 -
3日にプラチナ価格がTOCOMでの大量のロングの損切の売りで、円建てで安値が2842円と2009年以来の低値を記録したこと。 -
ドル建てプラチナ価格も3日に大きく下げて798ドルと、9年半ぶりの低さとなり、金との差が418ドルと史上最大となっていたこと。 -
月曜日にトランプ大統領がサウジアラビアに日量最大200万バレルの増産を要請したと報じられていたこと。 -
先週末発表されたコメックス貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に全て減少、もしくはネットショートポジションが増加していたこと。 -
金先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションが、先週火曜日に82%減の13トンと2016年1月18日以来の低い水準となっていたこと。このレベルは過去10年間の平均の3.3%とかなり低いもの。
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コメックス銀先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションも20%減の3,447トンと、2週連続の下げとなっていたこと。
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先週火曜日にコメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、今年4月10日から12週連続でネットショートとなっていたこと。そのネットショートポジションは今週も4.64%増加し40トンと、2006年6月からこのフォーマットでのレポートが発表されて以来の最大のネットショートポジションとなっていたこと。
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パラジウム先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に31.23%減の19トンとなっていたこと。
ブリオンボールトニュース
今週は、弊社が毎月発表している金投資家の動向を示す金投資家インデックスが発表され、金の情報を日本語で発信しているゴールドニュースサイトで「金価格急落に購入は進んだものの、新規顧客数は弱気市場の水準から脱せず」と取り上げられています。
また、今週も貴金属価格が大きく動いたことで、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントや分析が主要メディアで取り上げられています。
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フォーブス「金が『安全資産』の役割を2018年に果たしていないというのであれば、2023年はどうなのでしょうか?」ここでエィドリアンは、金が安全資産として株価が下げた際に常に上昇するものとするのであれば、2018年は今のところその役割を果たしていませんとした上で、S&Pが年初の史上最高値から5%下げているにもかかわらず、金は1月の最高値から4%下げているデータを示し、多くのメディアが「金は安全資産ではない」等の見出しで伝えていると紹介しています。
しかしこれは今年に限ったことではなく、金は短期間では効果的ではないものの、長期間ではこの役割を十分に果たしているとして、過去20年間で5年単位ではS&Pは平均11.6%下げている際に、金はドル建てで96.9%上昇していることなど、過去のデータで解説しています。
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米主要経済サイトMarketWatch「金と銅の先物価格が2018年来の低さへ」
この記事では、プラチナが5%を超えて下げ、2008年後半以来の低い水準となったことにも触れ、その背景がトランプ政権の自動車への追加関税で、自動車業界の低迷懸念、そして排ガスの浄化触媒の原料であるプラチナが打撃を受けているとしています。
それに加え、エィドリアンの「主要自動車メーカーが新たな電気自動車のモデルを次々と発表していることも(その傾向に)追加的打撃となっている。」というコメントを取り上げています。
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主要経済メディアBarrons「プラチナ価格の下げは買い時であるのか」
今年プラチナが13%下げ、9年半ぶりの低さとなっていることを紹介しエィドリアンの「プラチナ価格の下げは、フォルクスワーゲンのディーゼル車の排ガス不正問題によるダメージからで、将来のディーゼル車の需要予想に影響を与えたことが最大の要因だ。プラチナの需要の40%は排ガス浄化触媒であることからもトレーダーはこの金属へのセンチメントを下げているのだ。」とし、「そして、電気自動車が常に見出しを飾り、主要都市の首長や政府が電気自動車への移行の期限を設定する中、ディーゼル車の終焉が確実となり、プラチナ価格をたたいている。」というコメントを取り上げています。
今週の市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
ロンドン便り
今週、英国はワールドカップ一色となっています。特に今週4日にイングランドチームがコロンビアにペナルティーキック(PK)戦で勝利した際の英国全土に広がった歓声は、多くの人の記憶に残ることかと思います。そして、翌日の新聞は一般紙はもちろんのことですが、経済紙も一面でイングランドチームベスト8進出のニュースを伝えていました。
ご存知かもしれませんが、イングランドチームとPK戦は相性が良くありません。過去にイングランド代表が主要国際大会でPK戦で勝利したのは2回のみで前回の勝利は1996年の欧州選手権に遡り、ワールドカップでは一度も無いとの事。そこで、イングランドチームがPK戦に持ち込まれた際に、応援する人々が過去の経験を思い出し、どれだけ気をもんだかは想像いただけることでしょう。
そして、イングランドチームのマネージャーのギャレス・サウスゲイト氏は、代表として出場していた1996年の欧州選手権の準決勝でのPK戦で、ドイツのゴールキーパーに止められてイングランドチームがドイツに敗退しており、多くの人々にとっては22年を超えた今でもその記憶も未だ新しいものでもあったのです。
そこで、イングランドチームがPK戦でベスト8に勝ち進んだ瞬間のサウスゲイト氏の喜びに溢れるガッツポーズを見た人々、特に解説をしていたゲーリー・リネカー氏やアラン・シアラー氏は、彼の苦悩も見てきたことから心から称賛していました。
また試合後に、サウスゲイト氏がペナルティーキックを外したコロンビアの選手にいたわりの言葉をかけている写真も翌日の新聞では伝えられ、サウスゲイト氏を称える人々のツィッターの数々もも紹介されていました。
イングランドチームはPK戦に備えて、多くの時間をその練習に費やしていたとのことです。そこで最後に、試合後のインタビューでサウスゲイト氏が語った次の言葉が心に響きましたのでご紹介します。
「彼ら(イングランドチーム)は、自分達で彼ら自身の物語を書いた。私達は過去のプレッシャーに必ずしも屈しなくてもいいのだ。」
明日のベスト4を決めるスウェーデン戦で、イングランドチームが自分達らしい試合ができることを多くのファンと共に応援したいと思います。