金市場ニュース

ニュースレター(2018年6月29日)1250.70ドル:米中貿易戦争の懸念が高まる中、安全資産としての金への需要はないまま6か月ぶりの低値へ

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の価格は1250.70ドルと、前週金曜日の午後3時に決まっているLBMAの金価格のPM価格から1.5%下げ、今年のLBMA金価格のPM価格においては最低値を先週から更新することとなりそうです。なお銀価格においてはトロイオンスあたり16.08ドルと、昨日の今年最低値15.93ドルから上げているものの、前週のLBMA価格からは2%の下げとなっています。

週明け月曜日は、前週の下げの基調を受け継ぎ、トロイオンスあたり1265ドルまで下げて終えていました。これは、高まる米中貿易摩擦への懸念から世界株式が大きく下げる中で、リスクオフから米国債とドルが買われ、他のコモディティ同様に金も下落したことからでした。

米中貿易戦争関連ニュースとしては、週末24日にウォールストリートジャーナルで米ハイテク企業への中国資本25%以上の企業からの投資を制限する規制を今月末までに発表することが伝えられていましたが、月曜日にはムシューニン財務大臣とナバロ通商会議委員長がその対象となる企業が中国資本25%以上のものかどうかについて意見が分かれる等、政権内の歪が表面化していました。

翌火曜日は、ドルインデックスが上昇する中、トロイオンスあたり1260ドルを割り、1254ドルまで一時下げることとなりました。

同日は、トランプ政権が世界各国にイラン産原油の輸入停止を11月4日までに行うことを要請したことから、原油価格が上昇し、他のコモディティ価格同様に金も一時上昇していましたが、終値は1260ドルを割る年初来の最低値で6ヶ月ぶりの最低値となっていました。

水曜日金相場はドルインデックスが強含む中、今年の最低値を更新し、トロイオンスあたり1252ドルと6ヶ月を超える最低値となっていました。

これは、米中貿易戦争への懸念が高まっていたためですが、それは同日クドロー米国家経済会議委員長が、米テレビで中国に対する姿勢について「強硬か柔軟かは本質的な問題ではない」と発言し、「(投資制限は)米国の宝である技術を守るのに非常に効果的で包括的なものになる」と指摘し、強硬な立場を改めて表明したことからでした。

このため、ドルが強含み、米国債が買われ利回りが下がり、米株式は全般下げることとなりました。

 

 

木曜日金相場はドルインデックスが95を超えて高止まりをする中、節目のトロイオンスあたり1250ドルを割り1246ドルまで一時下げることとなりました。これは、昨年12月12日ぶりの低値となります。

同日は、米中貿易戦争に関しては新たなニュースがない中、米第1四半期GDPは2.0%と予想の2.2%を下回っていましたが、米長期金利が上昇したことで、ドルが買われ金を押し下げることとなった模様です。

本日金曜日は、前日の下げからは多少戻し、トロイオンスあたり1250ドル前後の狭いレンジで推移しています、

ドルインデックスは、前日の年初来の高値の95を超える水準からは下げ、米長期金利は多少上昇しています。これは、本日閉幕するEU首脳会議が、難民・移民問題で合意にこぎつけ、政治リスクが和らいだことが要因である模様です。これにより、欧州株は軒並み上昇し、その流れを受けて米国株も上昇しています。

なお、本日トランプ大統領がWTO脱退模索と米国サイトが伝えていましたが、財務長官が否定したことから、このニュースの影響は限定的となっています。

また、今週は月末、第2四半期末の週であることからも、金融市場全般ポジション整理が進んでいたようです。

その他の市場のニュ―ス


  • 金のETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高が昨日までで4.1トン減少で、今年2月の水準の820トンへと下げていたこと。

  • 先週末に発表されたコメックス貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日にドルインデックスが11ヶ月ぶりの高さへ上昇し、金価格が6か月ぶりの低さへ下げた際に、全ての貴金属でそのネットロングポジションを減少(もしくはネットショートポジションを増加)させていたこと。

  • 金先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に63.58%減の73トンと、過去10年間の平均の19%へと下げていたこと。この低水準は2016年1月末以来。


  • 銀先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に30%減少し4,364トンと先週の2017年11月末以来の高い水準から下げていたこと。


  • プラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日も11週連続でネットショートで、そのポジションは43%増の38.89トンとなっていたこと。これは、このフォーマットでデータが発表され始めた2006年6月以来の史上最大のネットショート。ちなみに同日はLBMAプラチナ価格は871ドルと2016年2月2日以来の低い水準。


  • また、パラジウム先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションも17%減の28.58トンとなっていたこと。

ブリオンボールトニュース

今週は米中の貿易戦争などの政治リスクなどがある中で、金が安全資産としての輝きが出ていない事を伝える記事などで弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントや分析が取り上げられました。

ここでエィドリアンは「金を下げている要因が幾つかあるが、ドルがその一つであることは間違いないだろう。」とし、「地政学リスクが高まった際に金が常に上昇すると考える人々は、現在の状況に困惑していることは理解できる。しかし、金は必ずしもそのように動くとは限らない。金は投資家にとって金融システムの保険の役割を提供する。」として、「短期の投資をするトレーダーは、金が安全資産の役割を失ったと考えるかもしれないが、それは正しくはない。」と続けています。その上で、他の資産へ投資資金が動いた可能性はあるとし、「ビットコインがその対象となったことはありうる」としています。

この記事でエィドリアンは、「金は政治危機や金融危機の際に安全資産としての役割を果たすのか?」と問いかけ、過去のデータでこれを検証しています。まず、今年のロシアとの緊張の高まり、中東での紛争の激化にもかかわらず、スイスフランク建てを除くすべての通貨建てで金が年初来下げていることから投資家が望む動きをしていないと言及し、過去のデータからの分析と解説をしています。2015年のロシアのクリミア侵攻や2013年のキプロス・ショック(金融危機)では下げているものの、1987年の暗黒の月曜日、2001年のアメリカ同時多発テロ事件、2008年からの金融危機では金は上昇していることに言及し、それぞれの危機が金融システム、特に株式市場へどのような影響を与えたかが、金の動きをみる際に重要だと述べています。そこで、これらの危機の際にポートフォリオで5%を金に振り分けることで全体のパフォーマンスが0.75%から2.5%改善していたと言及しています。また、長期にわたる株式市場の低迷時にこそその役割を発揮すると、短期の危機と長期の危機時のデータも比較しています。

ここでエィドリアンは、「金価格が地政学リスクが高まっている際に下げていることで人々が困惑していることは理解できます。しかし、このような際に常に金が上昇するとは限らないのです。金は投資家へ金融システムの保険の役割を提供するのです。」と述べています。

今週の市場分析ページには下記の記事が掲載されました。

ロンドン便り

今週もイングランドチームが決勝トーナメントへの進出が決定したことからも、英国はワールドカップ関連ニュースが大きく伝えられています。

そこで本日は、ワールドカップ関連でイングランドチームや試合以外のことをお伝えしましょう。

まず、英国人のギャンブル好きは有名ですが、今回はイングランドがチームが健闘しているために、今回の大会への掛け金が約25億ポンド(約3600億円)と、4年前にグループステージで敗退したブラジル大会の際の1.5倍となることが予想されているとのことです。

また、今回は女性のギャンブルへの参加が増えているとのことで、前回の1割から全体の3分の1ほどへ3倍以上に増加しているとのこと。

これは、イングランドチームの健闘と共に、テレビで試合が放映される際に多くのギャンブル会社がコマーシャルを出していることも要因であるようです。英国でのギャンブルはオンラインでも簡単にできるために、コマーシャルを見た人々が試合中に4つから5つの異なる賭けをしていたとのこともレポートされていました。

この過熱ぶりにギャンブル中毒などをサポートする団体等が、過度の広告を止めることを呼びかけているとのことです。

あともう一つのニュースは、英国で炭酸ガス不足が懸念されているというニュースです。これは、1929年以来という長期間晴天が続いている気候とイングランドチームの健闘でビールや清涼飲料水の需要がピークを迎えている中、その生産に炭酸ガス不足で支障が出ているとのことです。

これは、需要の増加を予測しなかった炭酸ガスを副産物として製造する化学工場の生産が停止していることからとのこと。生産開始は行われるようですが、その間、英国の主要パブのチェーンのウェザースプーンは、一部ビールやサイダーの販売を中止せざるをえなかったとのこと。

また、炭酸ガスはドライアイスの生産や、サラダ菜などの食品の鮮度を保つためのパッケージに使われたり、家畜を屠殺する際に気絶させるためにも使われるとのことで、スーパーマーケットの食品の選択肢も狭まる可能性があるとのことです。

イングランドチームの健闘が思いもよらない業界に影響を出しているようで、「風が吹けば桶屋が儲かる」のことわざを思い起こす産業界の繋がりを見せる興味深いニュースとなりました。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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