ニュースレター(2018年5月18日)1288.56ドル:7年ぶりの高さの米長期金利と年初以来のドル高で金価格は1300ドルの底値を割り年初来の低さへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日のロンドン時間3時の弊社チャート上のスポット価格はトロイオンスあたり1288.56ドルと、前週金曜日のLBMA金価格のPM価格から2.7%下げています。
月曜日金相場は、ドルが弱含む中、英国時間中はトロイオンスあたり1319ドルを挟んで狭いレンジでの取引となっていました。その後ニューヨーク時間に1310ドルまで下げて終えていました。
同日はトランプ大統領が中国の通信機器大手の中興通訊(ZTE)を巡って「ビジネスに速やかに戻れるよう習近平(シー・ジンピン)国家主席と共に取り組んでいる」とツイッターに投稿したことから、中米の貿易摩擦への懸念が後退し、ドルインデックスが下げ、米株式が上昇していました。
しかし、同日は米国がイスラエルの首都をエルサレムと認定し、米国大使館をエルサレムへ移転したことから、パレスチナ自治区ガザでデモが発生し、イスラエル軍との衝突で多くのパレスチナ人が死亡したと伝えられるなど、地政学リスクも高まっていました。
また、ECBのオフィシャルが利上げが速いというコメントを出したことも伝えられており、これによりユーロが強含んだことで、米ドルが下げていたようですが、これでドイツ国債の利回りが上昇し、米国債の利回りも3%を超えて上昇したことが、金を押し下げることとなりました。
火曜日金相場は、ドルインデックスと米長期金利が上昇する中で、直近のサポートであった1300ドルを割り、トロイオンスあたり1288ドルまで一時は下がることとなりました。
ドルインデックスと米長期金利が上昇したのは、同日発表された米小売売上高の数値が良好であったことからFRBの利上げペースが早まる観測が広がったことからです。
また、本日発表のドイツのGDPが予想を下回ったこと、EUの鉱工業生産も下回り、ユーロが下げたことで相対的にドルが押し上げられたことも要因となりました。そして、1300ドルを割ったことで更なる売りが出ることとなりました。
水曜日金相場は、ドルインデックスが93.44と20週ぶりの高さを維持し、米長期金利も3.09%と高止まりする中、前日の大きな下げの水準のトロイオンスあたり1290ドル前後を推移することとなりました。
なお、同日発表された米住宅着工件数は、予想と前回を下回っていましたが、前回数値は上方修正されていました。また、イタリア政局ではポピュリスト政党の連立合意の話し合いが進む中で、その大衆迎合的政策によるEUとの確執等からも懸念が広がり、ユーロが弱含むことでドルをサポートすることとなりました。
ちなみにFedWatchによると、6月のFOMCでの利上げを95%予想していると出ていますが、今年中のさらなる利上げの回数が2回と予想する割合が34%から44%へと同日上げてきていました。
また、同日北朝鮮が南北閣僚会談を延期し、6月12日に予定している米朝首脳会談も、「一方的な核放棄を強要するなら、応じるかどうかを考慮する」と警告する高官の談話も発表していましたが、市場への影響は限定的となっていました。
木曜日金相場は、前日同様に米長期金利が3.109と7年ぶりの高さを維持し、ドルインデックスも93.43と引き続き20週ぶりの高さであることからも、トロイオンスあたり1290ドル前後を推移することとなりました。
同日も発表された米フィラデルフィア連銀製造業指数は、34.4と予想の21.0と前回の23.2を大きく上回っていました。このデータや、引き続きイタリア政局への懸念でユーロが下げドルを押し上げていること等が要因となっていたようです。
なお、北朝鮮情勢では、16日に金委員長が6月12日の米朝首脳会談に応じない可能性を言及していましたが、昨日はトランプ大統領が北朝鮮が非核化に応じた場合の見返りとして「金正恩(キム・ジョンウン)委員長はとても力強い保護を得ることになるだろう」と述べるなど、体制保証の用意があるとの考えを示したことが伝えられていました。
本日金曜日の金相場は、昨日同様にトロイオンスあたり1290ドル前後で狭いレンジで推移しています。本日は特に重要な経済指標もなく、本日も継続行われているワシントンでの米中の貿易交渉の公式協議の行方を見守っている状態のようです。
それは、本日ロンドン時間朝に中国が対米貿易黒字を2000億ドル減らすことを提示したと伝えられていましたが、その後中国当局が否定したとのことで、合意の道筋が見えていないこと等からです。
そのため、米長期金利は3.1%から多少ながら下げ、ドルインデックスは93を超える水準で推移しています。
その他の市場のニュ―ス
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イラン情勢からも上昇している原油価格が、木曜日にブレント原油価格は80ドルと3年ぶりの高さとなっていたこと。
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金ETFの最大銘柄SPDRゴールドシェアの残高は、今週は月曜日に1.5トン減少し856トンと4月5日以来の低い水準となっていたこと。
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先週末に発表されたコメックス貴金属先物の資金運用業者のネットロングポジションは、トランプ政権がイランとの核合意から離脱した先週火曜日に、金と銀は多少ながらネットロングポジションを増加させ、プラチナとパラジウムは減少させていたこと。 -
金先物・オプションにおいては、そのネットロングポジションは1.22%で163トンと多少ながら前週から増加していたこと。これは、ロングポジションは引き続き減少していたものの、ショートポジションがそれ以上に減少していたことから。ちなみに、この動きは先週米消費者物価が発表され、予想を下回っていたことで利上げペースが速まる観測が後退した木曜日以前の動きとなります。
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コメックスの銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に前週に引き続きネットショートではあったものの、その規模は16.8%減少し3,018トンとなっていたこと。しかし、今年2月13日から4月25日を除き記録的な規模でのネットショートが続いていること。
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コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、5週連続でネットショートで、そのポジションは少ないながらも17.72トンと増加していたこと。そのため、引き続き昨年7月11日以来の最大のネットショートの規模。
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また、パラジウムの先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションも、先週火曜日も前週同様に減少し、8.9%減の25トンとなっていたこと。
ブリオンボールトニュース
金曜日に下げたものの、週間の上げを記録した先週の金の市場をレポートしている、米経済主要サイトMarketWatchで弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。
ここでエイドリアンは、金がドルの動きと全く逆となっていると述べた上で、ユーロやポンド建て価格では8ヶ月来の最高値で、豪ドルでは2年ぶりの最高値となっているとし、これは、米国外の鉱山会社の投資や、西欧の投資家の金貨などの売却も進めるだろうと述べています。
そして、このようにドル建て以外の通貨の金価格が上昇することで、世界の2大金消費国の中国とインドの消費は直近では減少すると予想した上で、4月の金のETFへの資金の流入が2017年初頭以来の大規模なものであったとし、金利上昇ペースが速まる観測が後退したことは、世界株式が横ばいを続ける中、金のサポートとなるとコメントしています。
今週の市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
ロンドン便り
今週英国では、明日行われるハリー王子とメーガン・マークルさんの結婚式が主要メディアがトップニュースで、そして特集を組んで伝えています。それは、事前の準備の模様であったり、今回のロイヤルウェディングにかかる経費、そしてその経済効果などですが、それに加え、昨日はマークルさんのお父様が心臓手術を行った直後で健康を理由に欠席することがトップニュースで伝えられ、本日はチャールズ皇太子がその代理で花嫁付き添いを行うことがやはり主要ニュースとして伝えられています。
この模様については、来週のロンドン便りでもお伝えしようと思いますが、本日は今週ロンドンで世界のプラチナ業界が一堂に会するプラチナウィークが行われましたので、その模様とそこで話題となっていた主要な点をお伝えいたしましょう。
プラチナウィークは、毎年5月の3週目に、歴史的にプラチナの主要取引場所であり、そのために多くのプラチナ関係の開発が行われていたロンドンで開催されています。
そして、このプラチナウィークのハイライトはロンドン白金パラジウム市場(LPPM)が主催するLPPMディナーですが、これはLPPMのメンバーのみが招待され、ロンドンプラチナ値決めが1973年に始められたことを記念して行われているとのことです。
通常月曜日に始まり、火曜日がLPPMセミナーとカクテルパーティー、水曜日がLPPMディナーで、その間にも多くのプラチナ業者によるセミナーやネットワーキングのイベントが行われています。
私は月曜日の貴金属専門調査会社のMetals Focusのネットワーキングイベントに出席し、火曜日のLPPMセミナーとカクテルパーティー、水曜日のTOCOMのブレックファーストミーティングと夜のLPPMディナーへ参加させていただきました。
そこで、Metals Focusのプラチナとパラジウムの需給レポートとLPPMセミナーとTOCOMのブレックファーストミーティングで話し合われた要旨を下記に簡単にリストアップしてみます。
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プラチナの価格は現在の水準からは金の上昇と共に回復すると予想しているものの、欧州におけるディーゼル車の人気の低迷は、プラチナの需要を減少することからも、価格の上げ幅は抑えられるだろう。その他のネガティブな要因は南アフリカ通貨ランドの動きや中国の宝飾品需要が現政権が贅沢品に関して制限をかけていることから下げていることなど。 -
それに対しパラジウムは、供給不足と予想されていることから、価格は1000ドルを超えて堅調に推移するだろう。 -
電気自動車がガソリン車やディーゼル車市場に影響を与えることは2025年以前にはないだろう。それは、インフラやバッテリーの原材料のコバルトやリチウムやニッケルの安定供給が難しいことから。 -
プラチナ価格の低迷は、先に加えて金ETFへの資金流入が続いていることから、投資資金がここに吸い取られていることも要因という分析。 -
金のポジティブ要因とネガティブ要因として、ポジティブはシリアやイランや北朝鮮などの地政学リスクやインフレ上昇懸念、ネガティブは米長期金利上昇や堅調な株価等。 -
金の1300ドルは一時的なもの。しかし、この一年ほどのプラチナ価格はUSD850ドルから1050ドルのレンジであろう。(スタンダードバンク東京支店長池水雄一氏) -
TOCOMのプラチナコントラクトは昨年のローンチから堅調に伸び、全体の11%と成長している。ちなみに、金は全体の53%と最大銘柄で、プラチナは24%(11%が新たなプラチナコントラクト)、Plattsドバイ原油(14%)、ゴム(6%)。 -
プラチナ業界全般のプラチナ価格へのセンチメントは弱気なものが多く、90%以上の参加者が2018/2019年はパラジウム価格がプラチナ価格を上回って推移すると予想。 -
プラチナ価格の2018/2019年のレンジは850ドルから1100ドル。
最後に、LPPMのセミナーとカクテルパーティーは、シティ・オブ・ロンドンの市庁舎のギルドホールで行われましたが、数々の公式行事の会場として使われるだけあり、格調の高い美しさには参加者も皆感嘆していましたので、その写真も添付させていただきます。