ニュースレター(2018年12月14日)米中貿易摩擦、ブレグジット、黄色ベスト運動等による経済指標悪化からのドル高で金下落
昨日は午後にJETROが行うブレグジット関連セミナーへ出かけていましたので、一日遅れで本日レポートをお届けします。
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の価格は1235.48ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.6%下げています。また銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり14.62ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から1.0%上昇しています。
今週は、米中摩擦、英国のEU離脱(ブレグジット)を巡る政局混迷、フランスの黄色ベスト運動などの影響で、中国、英国、フランスの経済指標が悪化していることが明らかとなり、ドルインデクスが相対的に上昇する中、金が押し下げられることとなりました。それでは、今週の動きを日々お伝えしましょう。
月曜日英国のEUからの離脱に関して、翌日予定されていた英国議会での離脱案の採決が延期されたことでポンド建て金相場がトロイオンスあたり996ポンドと昨年9月以来の15ヶ月ぶりの高さへと急騰していました。これは、ポンドが対ドル18ヶ月ぶりの低さへと下げたことが要因となりました。
なお、ドル建て金相場は一時1250ドルと5ヶ月ぶりの高さへと上昇後、ドルインデックスが強含む中で1241ドルまで押し下げられることとなりました。
そして米中貿易摩擦は、カナダ当局が米国当局の要請で逮捕したファーウェイの孟晩船CFOに関して、中国が「直ちに釈放」すること等を要求したことが伝えられ、英中貿易摩擦の悪化懸念もドルを押上げていました。
火曜日金相場は、ロンドン午前中にトロイオンス1249ドルまで上昇した後に緩やかに上げ幅を失い1244ドルで終えていました。
これは、英国のEU離脱に関してメイ首相がさらなる妥協点をEUから得るために欧州首脳と会談をしている中で、メルケル首相を含む欧州首脳が、離脱協定案に変更はないと述べたことが伝えられポンドが下げたことで、ドルが強含んだこと等からです。
なお、同日貿易摩擦への懸念が後退して上昇していた米国株価は、同日行われた民主党議員とのミーティングで、国境の壁の予算などを巡り、政府機関の閉鎖も辞さない考えをトランプ大統領が示したことが伝えられ、上げ幅を失うこととなりました。
水曜日金相場はドルインデックスが前日の年初来の高値に近い水準から下げる中、トロイオンスあたり1247ドルまで一時上昇していました。
ドルが下げていたのは、米中の貿易摩擦関連ニュースとして、カナダの裁判所が中国のファーウェイCFOの保釈を認めたこと、中国による米農産物の輸入拡大や米国車関税の引き下げ等が伝わり懸念が後退したことからです。
また、同日朝に今晩メイ英首相の党首不信任投票が行われることが伝えられていたものの、閣僚の多くが首相を支持することを表明する等、首相勝利の観測が広がり、ポンドが強含んでいることもドルを押し下げることとなりました。
この不信任投票の結果はロンドン夜に発表され、事前予想通りメイ首相が勝利して続投が決まっていました。
木曜日金相場はドルインデックスが97前半で高止まりする中で、前日から下げて、トロイオンスあたり1242ドルで終えていました。
同日は米中の貿易交渉が進んでいるという報道が相次ぎ、同日発表の米新規失業保険申請件数が減少していたことで、米株価は上げていましたが、中国在住カナダ人の二人目が拘束されて捜査の対象となっていることが伝えられ、米中関係への懸念が高まったことからも、米株価は一転下げて終えていました。
なお、同日市場注目のECB政策金利発表では、予想通り政策金利は据え置かれ、量的緩和終了が決定されましたが、償還資金再投資は長く継続することが伝えられ、量的緩和終了のニュースで上昇したユーロが弱含み、それに応じてユーロ建て金相場が一時下げた後に下げ幅を削り上昇していました。
金曜日は、中国の小売売上高と鉱工業生産の経済指標が予想を下回る中でアジアと欧州株が下げ、ドルインデックスが上昇する中で、金相場もロンドン昼の段階でトロイオンスあたり1233ドルへと下げていましたが、1339ドルまで戻して終えています。
ドルインデックスが上昇しているのは、フランスのPMIが4年ぶりの低さとなり、黄色ベスト運動の影響が懸念されていることでユーロが下げていること、また、昨日メイ首相が何らかの妥協を欧州首脳から引き出そうとしたものの、成功には至っておらず、ポンドが下げていることもドルを相対的に押し上げていました。
ロンドン時間午後に金相場が下げ幅を削ったのは、世界景気の減速を嫌気してダウ平均が7か月ぶりの安値を付ける等欧米株価が下げたこと等で安全資産としての需要もあり押し上げられた模様です。
その他の市場のニュ―ス
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金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週に入り月曜日0.6トン、火曜日3.2トン増加し、763トンと8月24日以来の水準まで戻していること。 -
コメックス貴金属先物・オプションの資金運用業者ポジションは、90日間の休戦とされた米中貿易戦争の楽観的観測が後退し、米国の長・短期金利の逆転もしくは狭まりによる景気後退への懸念もあり、金相場が上昇を始めていた先週火曜日に、プラチナを除きすべて弱気ポジションをネットで削っていたこと。 -
コメックスの金先物・オプションの資金運用業者ポジションは、21日連続でネットショートであったものの、そのネットショートポジションは97%減で4.78トンまで減少していたこと。同日はロングポジションが19トン増加する中、ショートポジションが30トンほど減少し、新たなロングが入る中で、ショートカバーが起こっていたことが明らかとなったこと。
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銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションも、先週火曜日に21週連続でネットショートではあったものの、そのポジションは30%減の3,449トンとなっていたこと。
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コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者ポジションは、先週火曜日に唯一ショートを積み増し、かろうじて5週連続でネットロングではあったものの、99%減の0.07トンとなっていたこと。 -
ちなみに、先週一時金価格も上回ったパラジウムは、先週も引き続きネットロングで、そのポジションも3.22%増の44トンと今年2月27日以来の高さへと増加していたこと。
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月曜日トランプ政権に関わる14人がロシアと関わっていた可能性があるとワシントンポストが伝えていたこと。
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フランスの黄色ベスト運動は4週目を迎える中でマクロン大統領が月曜日夜テレビで税の引き下げ等を発表したものの、同日フランスの中央銀行は、この黄色ベスト運動によって第4四半期は成長率が留まるとし、今後の経済見通しを引き下げたこと。
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月曜日に欧州司法裁判所が英国がEU加盟国の同意なしに英国のEU離脱を取り消すことができるという判断を下したこと。 -
先週ドルインデックスは週間の下げとしては3ヶ月ぶりに大きなものを記録していたこと。これは、前週金曜日の予想を下回る雇用統計とFEDのハト派的コメントから。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週は主要中央銀行の政策金利発表がされ、最も注目されるのは水曜日の米FOMCの結果とパウエルFRB議長の記者会見ですが、それと共に木曜日の日銀及びイングランド銀行の政策金利発表も重要となります。
その他、引き続き米中貿易協議や英国ブレグジット関連ニュースは重要ですが、トランプ政権と民主党がメキシコ国境に建設する壁の費用で合意されない場合は一部政府機関の閉鎖も行われることになるようです。
また、指標としては引き続き米国関連が重要となり、月曜日のニューヨーク連銀製造業景気指数、火曜日の米住宅着工件数、水曜日の中古住宅販売件数、木曜日のフィラデルフィア連銀製造業景気指数、金曜日の米第3四半期GDP、米耐久財受注、米個人支出と個人所得、ミシガン大消費者態度指数等となります。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2018年12月10日~14日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2018年12月17日~21日)来週の予定をまとめています。
ロンドン便り
今週は、日本でも伝えられているように、英国のEU離脱に関するEU離脱協定案の議会採決が延期され、メイ首相の保守党内での信任投票が行われる等と政局が混迷を続ける中、ほぼブレグジット関連ニュース一色の一週間となっています。
この内容については先の金市場のまとめでもお伝えしていますので、少し話題を変えて、英国時間で木曜日、現地時間では金曜日にヴァージン・グループの民間宇宙開発会社のヴァージン・ギャラクテイックが有人宇宙船を宇宙空間を飛行後にカリフォルニアの砂漠地帯へ無事着陸させることを成功したので、このニュースをお伝えしましょう。
ヴァージングループの代表はリチャード・ブランソン氏で、ヴァージンレコードを1970年に立ち上げ、それ以降ヴァージン・アトランティック航空等の400のグループ企業を立ち上げ、起業家としての実績、篤志家として社会に貢献する姿、そして新しいものへ挑戦を続ける人柄等からも、英国では常に一目を置かれています。そして、宇宙旅行への夢を語り続け、クリスマスまでにテスト飛行を可能とすることを目標にしていました。
今回打ち上げられた友人宇宙船「スペースシップ2」の2号機「VSSユニティ」は、ロサンゼルス北145キロにあるモハベ基地から打ち上げられ、高度13.1キロに達した時点からロケットエンジンを60秒噴射し最高高度の82.7キロまで上昇したとのこと。
国際定義では宇宙空間は高度100キロからとのことですが、米空軍は高度50マイル(約80キロ)と定めていることから、ヴァージン・ギャラクテイックは米空軍の定義を採用したとのこと。
民間宇宙旅行サービスには、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏のブルーオリジンや、テスラのイーロン・マスク氏のSpaceXも参入し熾烈な競争を繰り広げていることからも、ヴァージン・ギャラクティックは、このテスト飛行で頭一つ抜き出たこととなります。
米国では2011年にスペースシャトル計画が終了して以来、有人の宇宙戦の打ち上げが行われず、ロシアの宇宙船「ソユーズ」に国際宇宙ステーションへの飛行士の輸送を頼っていたことから、米国での有人宇宙飛行は7年ぶりとのこと。
ヴァージン・ギャラクテイックは、一人当たり25万円(約2800万円)で宇宙旅行提供を目指し、既に700人近い人々が予約をしているとのことです。
既にブランソン氏は開発費として1,476億万円を費やしたとも伝えられており、夢の実現に一歩近づく中で、2014年にはパイロット一人が死亡し一人が負傷する事故もあり、これまでの日々を振り返り「14年もの厳しい年月」と今回のテスト飛行成功後に感慨深く語ったとのことです。
常に新しいことに挑戦を続けるブランソン氏が宇宙旅行サービスを現実のものとする日は、彼が常に述べているように「数年単位でなく数カ月単位」の近さであるのかもしれません。