ニュースレター(10月28日)1273ドル 長期金利とドルが上げる中金相場はレンジ内、しかし再びトランプリスク浮上か
週間市場ウォッチ
今週金曜日のLBMA金価格のPM価格はトロイオンスあたり1273ドルと前週同価格から0.5%上げています。
週明け月曜日に金相場は、ロンドン昼過ぎにトロイオンスあたり10ドル弱上下した後に、緩やかに下げることとなりました。同日は米国Markit製造業PMIが予想を上回る一年ぶりの高水準となっており、これが要因の一つであった模様です。
また、同日行われた米国シカゴ連銀のエバンス総裁やセントルイス連銀のブラード総裁が、その発言の中で12月利上げを示唆するコメントが相次いでいたことも、下げの要因となった模様です。
翌火曜日金相場は、前日今年1月以来の高水準へと上げたドルインデックスが多少下げる中、緩やかに上昇することとなりました。これは、同日発表の主要経済指標の、米国消費者信頼感指数が予想と前回を下回り、3ヵ月ぶりに大台を下回る結果も要因であった模様です。
水曜日金相場は、ドルインデックスが高止まりする中、大きなニュースがない中、前日の上昇分を失う事となりました。
この間、米国債10年ものが1.798%と欧米の中長期金利の上昇が見られていました。また、同日はOPECでの減産合意に不透明感が広がりWTI原油先物価格が下落していたことも、金相場の下落の要因であった模様です。
木曜日金相場は、米国新規失業保険申請件数と耐久財受注が共に多少ながらも経済悪化を示唆することとなり、耐久財受注は3ヶ月ぶりのマイナスとなったことから、発表後上昇したものの、その後発表の中古住宅販売仮契約が2ヶ月ぶりにプラスとなる中、その上げ幅を失うなど狭いレンジながら神経質な動きをすることとなりました。
また、同日発表された英国第3四半期のGDPが予想を上回っていたことなどから、英国の長期金利が上げ、欧米の長期金利が上昇することとなりました。米10年債利回りは5が月ぶりの1.86%で、ドル円相場も7月29日以来の105円台まで上昇しました。
本日金曜日は、前日同様に欧米の長期金利が高止まりし、ドルインデックスも高い水準で推移する中、市場注目の米第3四半期GDPが予想の2.5%と前回の1.4%を上回る2.9%であったことから、一時的にトロイオンスあたり5ドルほど下げたものの、直近のサポートラインの1260ドルを割らなかったことで買い戻しが起きた模様で、ロンドン時間午後3時の段階では、その下げを取り戻し1284ドルを付けてることとなりました。
なおこの上げの背景には、FBIがクリントン氏のメール再調査との報道を受けて株価がダウ平均で120ドル下げたことからも、米大統領選のトランプリスクが浮上したことも要因であった模様です。
その他の市場のニュース
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中国の金の輸入が4ヶ月ぶりに増加していることをブルームバーグがレポートし、香港を介しての中国への輸入が9月に44.9トンと8月の41.9トンから増加し、スイスから中国への輸出が35.5トンと8月の19.9トンから増加しているとのことなどが伝えられたこと。しかし前年同月の香港を介しての中国への輸入は96.6トンであったことから、昨年の水準ではないとのこと。 -
リビアの中央銀行が、リビア大統領評議会議長からのリビアの財政難を補うための金準備の売却要請を、リビアの経済を守るための最後の手段を失うことになるとして、拒んだことが伝えられたこと。 -
英国の貴金属のリサーチ・コンサルタント会社のGFMSの最新のレポートで、世界の第3四半期の金需要が3四半期連続で下げ、年初からは30%減となったこと。 -
先週末に発表されたコメックス金先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に前週比11%減となり、3週間連続で減少し、今年3月1日以来の低いものとなっていたこと。 -
金のETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、先週木曜日までは4.8トン増加していたものの、先週金曜日に16.6トン大幅に減少し、今週もまた昨日までで10.9トン下げていること。
ブリオンボールトニュース
先週金曜日に、ロイターが英国投資家がBREXIT懸念から金保有を継続しているという記事をまとめ、ブリオンボールトのリサーチ主任のエィドリアン・アッシュのコメントを取り上げています。
この記事では、エィドリアンの「金現物を積極的に取引している英投資家が、EU離脱に伴う金融市場の見通しを懸念しているのは明白だ。(ポンド建ての)金価格が上昇を続けるとの期待がある」というコメントを紹介しています。
今週は、金の需要が高まるインドのヒンドゥー教の新年を祝うディーワーリーが近づく中、インド国内の金価格に変化が表れていること伝えるCNBCの記事で、ブリオンボールトのリサーチ主任エィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられました。
ここでエィドリアンは、「インドの金価格は世界の価格に今年初めて近づきつつある。この価格は、インド国内の需要が供給に追いついてきたことを示している。この大量な供給量は、インド政府の金輸出制限、密輸増加、輸入税の引き上げ、新たな金への税金などが要因であった。インドの金価格の上昇による世界のスポット価格への影響は限られているだろう。(この時期の需要増加のための)輸入は既に事前に行われているために十分な供給量がある。」と述べています。
今週の市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
ロンドン便り
今週の英国からのニュースは、昨日発表された日産自動車の英国投資継続がトップニュースで取り上げられていましたのでこれに関してお届けしましょう。
ご存知の通り、6月23日のEU離脱を決めた国民投票以来、これによる経済への悪影響が英国内でも懸念が高まっていました。特に、英国に工場を設置し投資を行っている日産自動車のような大企業が、英国に今後も留まる確証を得ることは、英国政府にとっては、重要なものであったようです。
そこで、英クラーク民間企業相は今月21日に、東京都内で記者団の取材に応じ、欧州連合(EU)離脱後も、英国に生産拠点があるトヨタ自動車や日産自動車などの日系メーカーの利益を守ると強調していました。
そして昨日は、EU離脱に反対を表明していた日産自動車が、英国工場での次期モデルの生産を決めたことを発表し、投資継続が確認されたことで、テレサ・メイ首相もインタビューで歓迎のコメントを述べるなど、政府にとってはありがたいニュースが届くこととなりました。
ただ、このニュースを受けて、政府が日産自動車への何らかの優遇措置を与えたのではないかという憶測が広がっており、政府と日産自動車は共に否定していますが、コービン野党党首は、もしそのようなことがあったのであれば政府は公表すべきと訴え、経済シンクタンクの英国経済問題研究所もその可能性を信じた上で、「政府は全ての企業にとって良い環境を作るべきで、特定企業に優遇措置を与えるべきではない」とコメントしています。
日産のカルロス・ゴーン社長は先月、英国のサンダーランド工場で投資を続けるため、離脱後にEU加盟国への輸出で新たな関税負担が生じた場合、英政府が損失を補償するべきだと主張していました。その後、首相官邸でミーティングを行った後に、大きく態度を変え今回の発表となっています。
昨日の日産自動車の発表では、「サンダーランド工場の競争力維持を公約する英政府の表明」を受けて決めたと説明しています。
この工場では7000人が雇用されており、この関連の雇用者数は35,000人を超える、イングランド北東部の主要企業です。そこで、昨年の生産台数は47万5000台と、その8割を130以上の国と地域に輸出していることからも、英国のEU離脱で輸出に関税が課された場合、競争力が低下することからも、日産自動車による投資が継続されるかが注目されていました。
今回のニュースは、英国政府にとっては歓迎すべきものですが、英国政府が日産自動車へ閉ざされた扉の向こうで特別に優遇措置を保証していたかどうかについては、今後同様に投資を継続する企業が続くのかなど、これからの関連ニュースに注目したいと思います。