金市場ニュース

ドイツがなぜドラギECB総裁を信じられないのか

欧州中央銀行(ECB)が、新たな国債購買い入れプログラムを行うことを発表しました。

「このプログラムの目的?それは、金融政策を正し、ユーロ圏の金融政策を再度統一させることです。」とドラギ欧州中央銀行総裁は、先週の欧州中央銀行の金融政策発表後の記者会見で答えています。

そして、過去4ヶ月で少なくとも2回目となりますが、ドイツの新聞Handelsblattは、エドヴァルド・ムンクの「叫び」の写真を一面に掲載しています。とブリオンボールトのリサーチ主任エィドリアン・アッシュは、一枚岩になれないユーロ圏の現状を解説しています。

今回は、この写真はメルケル首相のイラストと刷りかえられていませんでしたが、この見出しは、ドイツの苦悩と、前回同様の内容です。

「ドイツの人々は、ユーロ圏の債務危機を最も恐れています。」とこの新聞は述べています。世界でも最も保険を利用しているドイツの人々に、ドイツの保険会社が行ったアンケートによると、欧州債務危機を恐れると答えた人々は73%と、この債務危機が大きく見出しを飾った12ヶ月前を上回るものとなったとのことです。

実際、欧州債務危機を恐れる割合は、インフレを恐れる割合の63%を上回っていることが、このアンケート結果で明らかとなっています。これは、第一次世界大戦後にハイパーインフレーションを経験したドイツの人々にとっては、驚くべきものです。そして、この新聞は、「ドイツの人々の欧州債務危機を恐れる感情は、(先週行われた)欧州中央銀行の金融政策発表後、さらに高まったことでしょう。」としています。

欧州中央銀行で決定された内容は、ドイツの人々に眠れない夜を与えるものでしょう。現代どのような国々も、中央銀行の決定内容をここまで憂慮することはないでしょう。もしそうであれば、英国のイングランド銀行と米国のFRBは、既にその金融政策に異議を唱える人々によって襲撃されているはずです。しかし、ドイツにおいては、ein volk, ein opinion of monetary policy(一つの民族、金融政策に対する一つの意見)なのです。そして、この意見は、Sturm und Drang (シュトゥルム・ウント・ドラング-理性に対する感情の優越を主張する主義)でもあります。

ドイツの主要ニュース雑誌であるSternは、そのアンケート結果から、「大部分のドイツ人はイタリア人であるドラギECB総裁を信用していません。」としています。全てのドイツメディアにおけるアンケートによると、今週行われたドイツ連邦憲法裁判所がユーロ圏の債務問題を抱える国々を支援することを違憲と判断することを希望しています。しかし、そのような判断が下りないことも十分に理解しています。「金融市場は、Bundesbank (ドイツ中央銀行)の終焉を祝っている」とDie Welt紙は、「ドラギECB総裁が、厳しい規律を守るドイツの金融政策を打ち壊そうとしているのです。これは、ドイツの人々にとっては悪夢です。」と記しています。そして、タブロイド紙のBildは、「債務危機下にある国へ金額を記していない小切手を与えるようなものだ。ドラギ総裁は、ユーロを破壊しようとしているのだろうか?」としています。

ドイツの人々の先の質問への答えは、想像することができることでしょう。この一致した意見は、フランクフルトに置かれているECBの中で十分に理解されています。それは、冷戦時に西ベルリンが東ドイツの中に存在したように。まず、ドイツのBundesbank(中央銀行)総裁のイェンス・ワイトマン氏が、16の中央銀行の総裁が同意した、国債買い入れプログラムに「Nein (反対)」としたように。そして、2時間後には、ドイツの人々は声高に再び反対したのでした。

「私はドイツ人です。」と先週、ECBの記者会見で質問に立ったジャーナリストは、ウェブ上で世界に生中継で伝えられる中、「私は、貴方のこの試みは素晴らしいと考えます。」とドラギ総裁に語りかけ、「しかし貴方は十分に市場を理解しているはずです。」とし、次のように続けたのでした。

「4週間以内に、再びこの記者会見場に座っていることでしょう。私は、今回のコンディショナリティー(緊急支援の条件)が守られ、貴方がこのコンディショナリティーの基本を変更しないことを希望します。」

「コンディショナリティー」という、硬い、官僚的な専門用語が、このように使われたことはあったでしょうか。この言葉は、この日のドラギ総裁の記者会見で10回使われました。また、この記者会見で質問をした先のドイツのジャーナリストは、ドラギ総裁はこの言葉を非常に頻繁に使ったとそのレポートの中で述べ、彼自身の質問の中でも5回使っています。

そこで、このコンディショナリティーについては、後ほど再度述べることにしますが、今回のECBによる発表は、2つの注目すべき点があるためです。

  • ドイツ国債がドラギ総裁の管理下へ置かれること

これは、イタリアやスペインや他の国債のように。ただし、異なる利回りを持つものですが。「中央銀行が管理する金利による政策伝道メカニズムは、機能していません。」とドラギ総裁は述べ、ドイツ国債利回りがゼロ以下となっていることに対する質問に、「もし、国債市場が歪められているとしたら、全てにおいて歪められていると考えたほうが良いでしょう」と答えています。そのため、ユーロ圏の団結を再建するために、今回の発表の目的を、ドイツ国債の利回りが上がり、イタリアやスペインや他の国債の利回りが下がるものとしたのでした。

  • 不胎化について

人々の更なる紙幣の増刷に対する恐れに答えるためにも、ECBは新たな資金を経済に注入することをしないことを決定しました。これは、FRBやイングランド銀行や日本銀行が行ったものとは異なります。その代わり、利回りが高騰しているユーロ圏の国債購入は、ECBによって利回りが高騰していない国債を同額売却することで、完全に不胎化されることとなります。

それでは、どの国債が売られることとなるのでしょうか。ドラギ総裁は、「recreate singleness (ユーロ圏内の一枚岩を再建する)」というフレーズを繰り返しました。ドイツ国債を売ることが陰であり、スペイン国債を買うことが陽であるのかもしれません。不胎化はこれを要求するのです。

「この国債購入による介入は、ユーロ圏の価格安定を守る金融政策を脅かすものであるべきではありません。」とBundesbank(ドイツ中央銀行)のイェンス・ワイトマン総裁が、先週の金政策発表会の後に声明を出しています。この発表により、ドラギ総裁はあえて明らかにしませんでしたが、理事会で唯一反対票を入れたのが、ワイトマン総裁であったことが明らかになりました。しかし、この声明は、不思議なことにBundesbankのサイトに掲載されていません。

ワイトマン総裁は、ECB会合では、一貫して国債購入に反対し、「国債購入は条約が禁じた財政支援に当たる」と述べています。

「金融政策が、財政政策に従わなければならないリスクを持つこととなる。」

ワイトマン総裁はここまで踏み込んだのです。きっとバーナンキFRB議長とキングイングランド銀行総裁は、この言葉を聞き気まずい思いをしたことでしょう。しかし、ワイトマン総裁の理想とする賢明な世界において、独立した中央銀行は政局とは無縁でなければならないはずなのです。それでは、彼らがその責任と決定権を持つこととなるのではないでしょうか。ワイトマン総裁もドラギ総裁も、それを肯定しています。

「もし、この国債購入プログラムが、ユーロ圏諸国の改革を延期させるものである場合、政治指導者の危機解決能力がさらに信頼を失うこととなることでしょう。」とワイトマン総裁の声明は続いています。そして、コンディショナリティーへと再び戻ることとなります。これは、ブリュッセルの汎ヨーロッパ主義の政府によって設定された条件という意味です。ECBは、その国の国債を購入し、その後も国債を購入し続け、売却をしないためには、この支援条件にまず同意し、履行しなければならないとしています。

スーパーマリオ(イタリアのメディアが90年初頭に現ドラギ総裁のことを呼んだニックネーム)が率いる選挙で選ばれていないチームは、スープラ(ラテン語で最上という意味)・マリオとなる訳です。ドラギ総裁率いるこのチームは、ユーロ圏諸国を一枚岩とするという名目で、独立国家の財政を監視し、支援条件に従わない国の国債を売却することができるという、究極の力を持つこととなるのです。

個人投資家の間では、機関投資家やウェルスマネージャーが、政府による大規模な歳出に対して異議を唱える目的で、その国の国債を売却したことから、このような力を持つものを、Bond Vigilantes (国債自衛団)と呼んでいました。当然この行為から、その国の借り入れ費用は高くなり、債務に上限をつける役割をなしていたのです。しかし、この自衛団は、米国、英国、日本では、どうやらAWOL(軍事用語で無断外出)していたようです。しかし、同様のことを個人投資家がギリシャ、アイルランド、ポルトガルや他の国で行ってきているのです。

この国債自衛団は、確かに時として受け入れるのは困難な正義かもしれません。それは、ギリシャとスペインの人々に降りかかった災難がそれを物語ります。そのために、ECBが介入することとなったのです。ワイトマン総裁は、スープラ・マリオが、力不足のユーロ圏の国々が債務削減をしない場合に、この力を使うのかと尋ねています。しかし、史上最高値に近づいているユーロ建ての金価格を見る限りにおいては、多くの個人投資家は、ドラギ総裁率いるチームであるスープラ・マリオはこの力を使わないであろうと予測しているようです。そして、ドイツの反応を見る限りにおいては、ユーロ圏の唯一の最大規模の経済であり債権者であるドイツは、不胎化されない支援が、これらの債務難を抱えている国々になされるとも考えているようです。

********************

資産保護のために金の購入をお考えですか。ワールドゴールドカウンシルが、一般投資家への金・銀地金提供企業として推薦している、オンラインで世界有数のブリオンボールトでは、日本のお客様にも、低費用で金地金現物保管サービスを提供しています。

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチダイレクターとして、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。



弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

注意事項: ここで発信される全ての記事は、読者の投資判断に役立てるための情報です。しかし、実際の投資にあたっては、読者自身にてリスクを判断ください。ここで取り扱われる情報及びデータは、すでに他の諸事情により、過去のものとなっている場合があり、この情報を利用する際には、必ず他でも確証する必要があることを理解ください。Gold Newsの利用については、利用規約をご覧ください。

SNSで最新情報を入手

Facebook   TwitterYoutube

グーグルで優先する情報源として追加

 

 

貴金属市場のファンダメンタルズ