金市場ニュース

なぜ中国が2023年の金価格をサポートするのか

それは、中国の中央銀行ではなく、中国の人々なのです。
 
このような話は、2009年初めの「 なぜ中国は金を買っているのか」というエピソードで思い出すかもしれません。
 
もしくは、2010年3月の「 中国が金を購入!
 
あるいは、2015年半ばの「 中国が金を買い、金の価格は下落」という記事でも。
 
2023年の新年、人民銀行は11月と12月に60トンを超える金を購入したことを明らかにしました。多くの識者が、中国政府は保有量を過少に報告していると推測していますが、それでも中国の公式金準備量(米国、ドイツ、イタリア、フランス、ロシアに次ぐ第6位の国家備蓄)は、大晦日までに2000トンを超えました。
 
しかし、中国の一般消費者は、 金の購入量が多く、China Gold Associationの数字では、過去2年半で2,000トン以上の金をジュエリー、コイン、小型の金塊の形で購入しており、過去10年間で人民銀行が現在保有しているとする量のほぼ5倍を購入しているのです。
 
これは、過去10年間に消費者に売られた金の5分の1に達し、2013年以来中国の消費者が積みました金の量はドル建てでこの国のGDPの0.33%であり、米国や英国の0.06%に比べ、非常に大きな数字であり、西側世界で最も金を購入するドイツの消費者が金に費やす年間GDPの0.16%の2倍以上となります。
 
中国の消費者の金需要と中国のGDPの推移 出典元 ブリオンボールと
先の2つの線は必ずしも同じ軌跡を取ってはいません。中国の消費者の需要は、2010年から2013年に、中国の経済成長を上回っています。これは、中国の共産党が中央銀行の膨大なドル準備高を分散させるために国民に 金購入を奨励し金のパニック的な購入後に、30年ぶりの金価格の急落を引き起こし、新たな記録的な大量の消費者購買に拍車をかけたのです。
 
その後数年間、中国の家庭用需要は必然的に後退し、西欧の投資マネージャーが継続して金を売却する中でそれを購入する買い手が中国やアジアに現れない中で、世界の金価格は2015年末にトロイオンスあたり1000ドル近くまで下落しました。
 
しかし、長期的には、2023年により重要なことですが、中国家庭の金に対する支出は、世界第二の経済大国の根本的な成長を示すために、増加傾向を続けています。そして、中国が10年前に金の最大消費国の位置を奪ったインドの金需要がディワリ祭でピークに達するように、中国の金購入は旧正月の連休中に繰り返し急増し、家族で現金を贈るのと同時に金投資も増加します。
 
新型コロナウィルスのパンデミックの第一波は2020年にそのパターンを破り、今週日曜日から始まる卯年の新年の金需要は、共産党がゼロコロナ政策をついに放棄したことに伴う大量感染で、上限が設定される可能性があります。しかし、消費者需要が短期的に金価格を上昇させることは通常ありませんが、経済再開と中国の現物金に対する深い文化的欲求は、2023年に金にとって追い風とまではいかないまでも、確かなサポートとなる可能性があります。
 
しかし、中国は直近で弱いGDP成長率を報告しています。
 
公式データ機関が今月発表した 2022年の経済成長率は、人民元ベースで3%となり、2020年のコロナの第一波による2.2%の減速を無視すれば、 1976年以来最も弱い成長率となります。
 
実際、昨年は世界第2位の経済大国である中国がドルベースで前年比マイナス成長となる四半期が2回ありました。しかし、中国黄金協会(China Gold Association)の今月発表された 最新のデータによると、中国の家庭による金購入額は2022年末に増加し、GDPに占める割合は0.36%を超え、2021年新年のパンデミック後の急増とそれ以前の2017年新年の増加(いずれも0.42%強を記録)以来最も力強い四半期になりました。
 
そのため、GDPの弱さが一般家計の金需要に不利に働いたかもしれないという事実は無く、その需要の強さをより際立たせるものとなっています。さらに、2022年の中国の米ドルベースのGDPデータを分析する場合、ドル高(為替市場で20年来の高値に急上昇)と、もちろん中国の「ゼロコロナ」のロックダウンがあったことを覚えていなければなりません。
 
中国のロックダウンは現在ようやく解除され、 2023年のGDPが急増するという予測に拍車がかかっています。しかし、長期的には、中国の消費者が過去10年間にGDPの0.33%という巨額の金を消費した際に、中国の家計が世界の他の多くの国々と比べてGDPのほんの一部しか収入として得ていないにもかかわらずであったことに注目することが重要でしょう。
 
欧米では、人々の所得は「通常、GDPの70-80%を占めています」が、中国においては 更に小さい割合の55%に過ぎないと北京大学光華管理学院の財務教授でカーネギー財団のシニアフェローである中国専門家のマイケル・ペティス氏は述べていました。
 
さらに、退職金や健康に対する社会保障のセーフティネットが弱いこともあり、中国の人々の所得はGDPに占める割合が低いにもかかわらず、 膨大な額の貯蓄をしています。2018年のデータではGDPの23%という巨額なもので、国際通貨基金の別の分析では世界平均よりも15ポイントほど高くなっているとのことです。。
 
中国政府は、少ない所得からの膨大な貯蓄やGDPに対する人々の所得の割合が改善されない限り、GDPの成長や社会の安定に問題となることを知っています。富の配分は難しいとペティス氏は述べています。しかし短期的には、高齢化と人口減少がGDPに与える影響よりも、分配を改善することの方が 重要であることは間違いないと続けています。
 
つまり、中国がゼロコロナの厳しい規制を終えて経済を再開することで、中国の金に対する大きな需要が、現在の世界的な価格高騰が収まった際に、底値を作る可能性が非常に高いと思われるのです。また、世界的に消費者の金需要が回復していることも見逃せないと考えます。
 
金価格とリサイクルを除いた世界の金需要の推移 出典元:ワールドゴールドカウンシル、LBMAのデータからブリオンボールとが作成
 
このように、金鉱業界のマーケティング団体であるワールドゴールドカウンシルのために貴金属専門コンサルタント会社のMetals Focusが作成した 金需要データ(まもなく2022年第4四半期が発表予定)は、リサイクルフロー(別名「スクラップ」)を差し引くと、昨年の世界の総金需要はコロナ禍前の水準へと回復したことを示しています。
 
しかし、2022年には、金の基本価格は米ドル建てでトロイオンスあたり500ドルも高くなり、世界の他の通貨建てでも非常に高くなっています。
 
これらのことは、今年の金価格の底値が形成されたことを確信させるものでしょうか。年初につけたトロイオンスあたり1900ドル、1770ユーロ、そして1580ポンド付近の英国ポンド建ての記録的な金価格の高騰を維持することができるのでしょうか。
 
それは確実ではありません。しかし一方で世界の金需要は、金価格が高騰する中でコロナ以前の水準へと戻っているのです。そして、ロックダウンから経済的に、そして社会的に解放された中国の消費者の金購入額と同国のGDP成長率との間の長期的な関連性が途絶える気配は見えないのです。

 

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチダイレクターとして、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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