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なぜロシアの盛んな金購入は、ルーブル下落を止めることはないのか

ロシア中銀は、今年金購入を続けています。しかし、この行為はルーブル通貨を防衛する役目を果たしていないようです。そして、市場の憶測とは異なり、ロシアは2015年もまた金の購入を続けることでしょう。

ここで、ブリオンボールトのリサーチ主任エィドリアン・アッシュは、今週、ルーブル暴落時には金準備を売却するのではないかという憶測が飛んでいた、ロシアの金準備の政策について解説しています。

ロシアの盛んな金購入とルーブルの暴落

ロシアは、既に150トンを金準備に積み増し、今年世界一の金購入国となっています。その結果、金準備保有高では世界5位へとランキングを上げています。現在はその金準備総量は1,170トン弱と、本日の価格で約447億ドル(5兆2358億円相当)の評価額となっています。これは、第1次世界大戦勃発直前にニコライ2世が1200トンへと保有高を高めた金準備に次ぐ水準です。

それにもかかわらず、ルーブルは暴落しました。中央銀行による金購入は、常に健全な通貨政策であると考える西欧の金を好む人々にとっては、都合の悪い事実でしょう。今週、ルーブルは対ドル70ルーブル近くまで下げています。通常は対ドル32ルーブルであるにもかかわらずです。

ロシアは金を盛んに購入し続けていました。それは、2005年後半にプーチン大統領が公に承認した、ロシア中銀が金準備を倍増させるという計画によるものでした。そして、その目標として外貨準備の評価額の10%と設定したのです。これは、1998年のロシアのルーブル危機以来見られていない高い水準でした。この政策は、プーチン大統領の経済と政治的戦略でした。金は、ロシアにおいては国力を世界に示す象徴でもあったのです。2005年以来、ロシアは金の最大の購入国の1つでした。特に2009年と2010年は。ロシアは、2010年5月のみで34トンの金を購入していたのです。

なぜロシアは金を購入し続けるのか。そして、なぜそれが金相場の下落を止めることはないのか。

プーチン大統領の政策のみが全てではありません。

中国の金準備高を超えたにもかかわらず、ロシアは2015年に金を購入し続けることでしょう。ロシアには、産出可能な多くの金が埋蔵されており、現在では世界第3位の産出量を誇り、その量は過去25年間で初めて米国を越えています。しかし、ウクライナ問題などから国際的な経済制裁を受けているために、ロシアの金鉱会社が市場で金を売却することができないことから、ロシア中銀がこの金を購入しているのです。

2014年の初頭からの9ヶ月間で、175トンの金が新たに産出され、114トンがロシア中銀で購入されています。

また、歴史的な前例もあります。それは、アパルトヘイトで25年前に国際的に経済制裁を受けていた南アフリカは、1990年から1992年に国内で産出された金を購入し、金準備を200トンへと倍増させました。ロシアが金購入を中断する唯一の理由は、経済制裁が緩和された時でしょう。そのため、ロシアによる金購入は2015年も継続すると予想できるでしょう。しかし、これによる金相場の上昇は期待すべきではありません。それは、ロシアは国内の供給分を購入しているにすぎないためです。

投資家がここから学ぶべきこと

投資家がここで学ぶことがあるとしたら、政府の金準備は、必ずしも強い通貨と経済の安定を保証しないということです。ロシアの世界5位の金準備高は、過去2週間にルーブルが暴落することを防ぐことはできませんでした。

もし、今後ルーブルが継続して下落するのであれば、金を売却してルーブルを防衛することをロシアは考慮するかもしれません。元米国連邦準備制度理事会議長のアラン・グリーンスパン氏は、金は究極の危機時のための通貨だと述べています。過去10年間のロシア政府の金の戦略によって、この貴金属はロシアの強さと安定の象徴ともなりました。今日のロシア中銀の大量な金準備による政治力は、その評価額よりもロシア政府にとっては価値のあるものでしょう。

もし、ロシアがこの金を売却することを決めた場合、ルーブル危機が、プーチン大統領率いるロシア政府にとって、究極の危機であることを示すこととなるでしょう。それは、世界での取引の全てがドル建てであることから、このドルの独裁から脱却すると宣言していたロシア政府のプライドを傷つけることになるでしょう。そして、プーチン大統領の強い指導者としてのイメー-じと自国での高い支持率を損なうことになるかもしれません。

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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