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【金投資家インデックス】米大統領選を前に新規顧客数が倍増したものの米国の投資家は動かず

米国投資家は、世界的な金の新規投資の急増を見逃していました。
 
世界的に有数なオンラインの貴金属マーケットを提供しているブリオンボールトは、現在175カ国から10万人以上のユーザーから52億ドル(40億ポンド、48億ユーロ、7,940億円)の資産を保管しています。
 
しかし、米国からの新規購入は軟調で、先月は9月の数字から減少していました。
 
つまり、米国の選挙が金地金の安全資産としての需要に何らかの影響を与えているとすれば、それは先月、米国の有権者よりも欧州の個人投資家をはるかに脅かしていたようです。
 
米国投資家の間で金が安全資産としての魅力を失ったとは考えにくく、米国の貴金属に対する需要が比較的低調なのは、おそらく政治的二極化の深さを示していると考えます。有権者は分裂しており、反対意見を持つと議論をすることも会うことも無く、自分の選んだ候補者が勝利を収めると信じているようです。
 
金や銀に投資するのは共和党員だけで、民主党が大統領である際のみなのでしょうか。
 
ドル建て金相場は、先月4.0%上昇し2734ドルとなり、10月末の2790ドルで2024年の38番目のトレーディング中の最高値を更新しました。この記録は、2011年通年の記録と並び、1979年の54回という記録以来最多となっていました。
 
英国ポンドとユーロ建てでは、金は10月に14日間の新記録を樹立し、それぞれ8.0%増の2122ポンド、6.9%増の2517ユーロとなり、過去最多となっていました。
 
ブリオンボールトの新規投資家数は、12ヶ月平均で2倍(104.2%増)となり、9月の数字から49.9%増加し、英国、フランス、ドイツ、イタリアで急増し、ロシアがウクライナに侵攻した2022年3月以来の高さとなっていました。
 
英国の新規顧客数は、レイチェル・リーブス労働党初の予算への懸念がある中で、9月より41.6%増加し、12ヶ月前平均より116.2%増加し、2021年5月以来最も多くなりました。しかし、米大統領選が間近に迫っていたにもかかわらず、米国の新規顧客数は前年の12ヵ月平均を54.8%上回ったものの、9月の数字からは17.2%減少し、5月の13ヵ月ぶりの高水準を36.8%下回っていました。
 
フランスでは、初回地金購入者数は前月比123.5%増となり、12ヵ月平均を124.6%上回り、2020年8月以来の高水準となり、ドイツでは、初回地金購入者数は100.4%増、95.6%増となり、2022年4月以来の高水準となっていました。イタリアは前月比168.4%上昇し、12ヵ月平均を148.8%上回り、2022年3月以来の高水準となり、スペインは前月比58.6%上昇し、12ヵ月平均を112.3%上回り、2021年2月以来の高水準となっていました。
 
金投資家インデックスと金の月末価格 出典元 ブリオンボールト
 
先月、ブリオンボールトを利用して金地金の保有を開始もしくは追加した投資家の数は、2023年6月以来最も多く、9月より37.5%増加し、売却を選択した投資家の数は、4月以来最も多く9.3%増加していました。
 
金投資家インデックスは、ブリオンボールトの顧客の取引データを基に算出された過去15年間の金地金現物投資へのセンチメントを示す独自の指標であり、この指標は、9月の5ヶ月ぶりの低水準から1.6ポイント上昇し、53.6と6月以来の高い数値となっていました。
 
金投資家インデックスは、2020年3月にコロナ危機が発生した際に65.9という10年間の最高値を記録し、金が現在の価格高騰を始めた今年3月には47.5という史上最低値まで下落していました。これは、過去15年間で50.0を下回った3回目であり、この数値が50.0を割った際は、月間の購入量が売却量を上回ったネット購入者数よりもネット売却者数が多かったことを示しています。
 
金の記録的な強気相場は、明らかにこの価格上昇が続くことに賭ける投機トレーダーを引き寄せています。しかし、この新規購入者の急増を、買い逃しを恐れることだけが原因だとするのは、金現物市場においては間違いと言えるでしょう。
 
不確実性、ボラティリティ、地政学的リスクは高まっており、それは米国の選挙のせいだけではありません。金は他の資産クラスの損失を相殺するのに歴史的に有効であることが証明されており、その魅力は金の直近の史上最高値水準が継続しているネガティブ要因を克服し始めている。新たな金投資家にとって、逃した価格は重要ではない。今日の買い手にとって重要なのは、金が次の危機が起きたときにどのようにリスクを回避できるかということだ。
 
ブリオンボールトの顧客の金地金保有量(顧客がロンドン、ニューヨーク、シンガポール、トロント、チューリッヒから保管場所から選択)は、0.6%減少し、51ヶ月ぶりの低水準となる44.2トンとなっていました。
 
投資家による利益確定売りは14ヵ月連続となっていました。しかし、月間での購入量を差し引いたネットの売却量は271キログラムで、6ヵ月ぶりの記録となった9月からほぼ4分の1(23.2%)へと減少していました。また、10月にブリオンボールトの顧客の金地金保有評価額が4ヶ月連続で増加し、月末の金地金保有評価額の記録を更新し、3.3%増の38億ドル(ポンド建てでは7.4%増の30億ポンド、ユーロ建てでは6.2%増の35億ユーロ、日本円建てでは6.2%増の5920億円)となりっていました。
 
顧客の金保有量は、2023年8月の48.2トンを超える史上最高記録から8.4%減少している一方で、その価値は米ドル建てで29.0%増(英ポンド建てで26.9%増、ユーロ建てで28.8%増、日本円建てで34.8%増)と上昇しています。
 
銀投資家インデックスと月末銀価格のチャート 出典元 ブリオンボールト
 
9割が西ヨーロッパと北米の在住者であるブリオンボールトの顧客は、10月に16.4トンの銀地金を売却していました。
 
この前月比1.4%の減少は、夏に取り戻したブリオンボールトの顧客の銀地金保有量を消し去り、過去45ヶ月で最低の1,146トンとなっていました。しかし、投資家の銀地金保有量が、過去最高であった2022年10月の1,267トンから9.5%減少した一方で、その評価額は58.9%上昇し、過去最高の12億ドル(英国ポンドでは41.2%増の9億5,400万ポンド、ユーロでは45.1%増の11億ユーロ、日本円建てでは67.8%増の1889億円)となっていました。
 
銀の月間のネット購入者数は、9月の6ヶ月ぶりの低水準から66.4%急増し、一方、売却者数もまた17.6%増加し、5月以来の高水準となっっていました。
 
その結果、銀投資家インデックスは51.0となり、9月の4ヶ月ぶりの低水準から2.1ポイント上昇し、ネット購入者数がネット売却者数を上回った今年6回目を記録していました。
 
銀価格は、米ドル建てでは10月に8.1%上昇し、月半ばには34.86ドルと2012年11月以来の高値をつけていました。また、ユーロ建て銀価格は10.1%上昇し、トロイオンスあたり32.28ユーロでピークをつけ、2011年4月の史上最高記録以来の月末の最高値を記録していました。
 
2024年の貴金属価格の暴騰は、言い換えれば、利益確定売りが銀の動きを支配し続けていたことを意味していました。これとは対照的に、金は米国の選挙が近づくにつれ、新たな需要を強く見出していました。しかし、米国自体の投資需要は未だ低いものではあったといえるでしょう。

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチダイレクターとして、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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