金市場ニュース

【金投資家インデックス】執拗な強気相場でもゴールドラッシュの気配はない

金価格が新記録更新の中、投資需要は一服していました。

世界有数の貴金属オンライン市場を提供するブリオンボールトのエイドリアン・アッシュによると、金の連日の史上最高値更新は多くの新規投資家を引きつけているものの、既存保有者による利益確定売りがその需要を相殺しているとのこと。さらに新規資金の流入も堅調ではあるが、金融危機やコロナ禍のときの急増には遠く及ばない状況であったとのことです。

8月のドル建て金価格は2025年に入って7度目の月間平均での最高値を記録しました。これを背景に、ブリオンボールトでの新規口座開設数は前年同月比77.4%増となり、創業から20年間の中で4番目に高い8月の数値となっていました。

しかし売却量を差し引いたネットの金の需要量は重量ベースではほぼゼロで、月間を通じて金を購入した個人投資家数は1月以来の少なさとなる5.3%減で、売却者数も6月以来の少なさとなる3.5%減にとどまっていました。

この結果、個人投資家の金の投資センチメントを示す「金投資家インデックス」は0.3ポイント低下の53.9と、過去7か月で最低を記録しました。

50を上回れば月間のネットの購入者数が月間のネットの売却者数を上回っていることを示すこの指数は、2024年3月に大規模な利益確定売りで過去最低の47.5を記録し、今年6月には4年ぶりの高水準の56.9に達していました。

金投資家インデックスとドル建て月間平均金価格 出典元 ブリオンボールト

2005年に設立され、顧客の9割が西欧と北米に在住するブリオンボールトでは、8月に利用者全体で売却が購入を5kg上回り、総保有量は44.0トンをわずかに下回る3か月ぶりの低水準となっていました。

もっとも、利益確定売りは新規需要を相殺をしていますが、そのペースは金価格の上昇ほどではないため、個人投資家の保有金評価額は過去最高を更新し続けています。

顧客がロンドン、ニューヨーク、シンガポール、トロント、チューリッヒのいずれかに保管するブリオンボールトでの金保有総額は、8月に48億ドル(36億ポンド、41億ユーロ、7,130億円)に達し、年初来で30.9%増加(ポンド建て+21.9%、ユーロ建て+16.8%、円建て+22.7%)。

新規口座開設数は7月比で6.7%増、12か月平均比で13.8%増となり、特に英国(+20.3%)、ドイツ(+16.5%)、スペイン(+16.5%)が牽引していました。

一方で米国の新規金投資は依然低調で、7月比14.3%減、12か月平均比27.4%減にとどまっていました。

米国投資家の関心の薄さは、金価格を押し上げる主要因のひとつがトランプ大統領の政策であることを考えると皮肉に見えるかもしれません。

しかし、トランプ氏の内政・外交・通商政策は、中央銀行やアジアの富裕層からの金流入を後押ししているものの、それは世界的な地政学体制の長期的かつ深刻な分断の一部にすぎないと言えるでしょう。

この不信感と不確実性が今後も金価格を支え、押し上げ続けることは避けがたいと考えます。西側の投資家が実質的に様子見を続けるとしても、です。

銀投資家インデックスと月間平均銀価格 出典元 ブリオンボールト

一方、銀投資は8月も全体としては静かな状況でした。工業用途需要が全体の割合として高い銀は前週、14年ぶりとなる40ドル超の高値(ポンド建てでは史上初のトロイオンス30ポンド超)を付けました。

金とは異なり、銀の月間のネット売却者数はネット購入者数よりも大きく減少し、それぞれ28.1%減、20.4%減となっていました。その結果、月間平均価格は2011年9月以来の高さを記録しつつも、銀投資家インデックスは、0.1ポイント上昇の51.7にとどまり、4月の価格の急落時に記録した4年ぶり高水準の58.3を大きく下回っていました。

重量ベースではネットの買い超しとなり、ブリオンボールトの利用者の銀保有量は5トン近く増加して1,157トンと3か月ぶりの高水準に達し、評価額は14億ドル(10億ポンド、12億ユーロ、2,120億円)と過去最高を更新していました。

金の執拗な強気相場は依然として「ゴールドラッシュ」とは程遠く、銀価格の急激な追い上げも個人投資家の本格的な流入にはまだつながっていません。

金・銀ともに、価格の史上最高値や数年ぶりの高値を背景に、新規需要は増加していますが、既存投資家による利益確定売りがそれを相殺している状況となっていた。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者であると共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

注意事項: ここで発信される全ての記事は、読者の投資判断に役立てるための情報です。しかし、実際の投資にあたっては、読者自身にてリスクを判断ください。ここで取り扱われる情報及びデータは、すでに他の諸事情により、過去のものとなっている場合があり、この情報を利用する際には、必ず他でも確証する必要があることを理解ください。Gold Newsの利用については、利用規約をご覧ください。

SNSで最新情報を入手

Facebook   TwitterYoutube

 

貴金属市場のファンダメンタルズ