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【金投資家インデックス】危機的状況に陥った英国とイタリアが金投資需要増加を牽引

個人投資家が危機対応をしたことで金・銀の保有量が史上最高値へ
 
政治と金融市場の混乱が、欧米の投資家の金と銀の購入需要の回復に拍車をかけていました。
 
これは、二桁のインフレによる可処分所得の減少の中で、英国とイタリアからの新規顧客数が急増したことに起因していました。
 
先月、英国とイタリアでは、政権交代とその政策への懸念から金融市場において混乱が起きていました。そのような中での新規顧客の急増は、世界の10万人を超えるブリオンボールトの顧客が保有し、保管されている金と銀の総量を増加させ、新らたな記録を更新することとなりました。
 
先月末の段階でブリオンボールトにおいて、34億ドル(4,930億円)相当の金、銀、プラチナ、パラジウムを保管されています。ちなみに、ブリオンボールトの顧客の9割は北米と西ヨーロッパに在住しています。
 
先月口座を開設し、資金を入金した新規顧客数は、8月の1年ぶりの低水準から、ロシアがウクライナへ侵攻後ウクライナ危機が発生していた3月以来最も高い水準となり、これまでの12ヶ月平均から23.7%増加していました。
 
これを国別で見ると、新規顧客数が過去12ヶ月平均から56.6%増となった英国が牽引し、イタリアも41.6%増と続いていました。
 
イタリアにおいては、極右政党である「イタリアの同胞(FDI)」が率いる右派連合が同国の総選挙で勝利し、イタリア国債利回りが他のユーロ圏の国債と比べて急騰し、イタリア株価が2年ぶりの安値に近い水準まで下落していたことも要因となっていました。
 
一方、9月最終週に、クワシー・クワーテング新財務相は財源無き減税及びエネルギー法案を含む小型補正予算を発表し、国や家庭の借入コストが急騰したために、英国ポンドは対ドルで史上最安値まで急落していました。
 
そのため、地金現物への新たな興味は、英国やイタリア等の政治と金融市場のストレスが大きくなっていた国の人々によって牽引されていました。個人投資家の間では、究極の安全資産としての金の魅力が、生活費による可処分所得の中でも認識され、価格のボラティリティが高まりからも、より活発に取引をする既存の顧客の間で利益確定が行われていましたが、新規顧客による貴金属への興味は高まっていました。
 
金投資インデックスと米国ドル、英国ポンド、ユーロ建ての月間平均金価格の推移 出典元 ブリオンボールト
 
 
金は世界的な金利上昇や数十年ぶりのドル高の影響を受けないわけではありませんが、2022年には株式、債券、暗号を上回るパフォーマンスを見せています。
 
それでも、米ドル建て金価格は9月に4.7%下落し、トロイオンスあたり1683ドルで30ヶ月ぶりの低い月間平均をつけていました。
 
ユーロ建て金金価格も2.3%下落し、トロイオンスあたり1702ユーロと、春先にロシアがウクライナに侵攻した際に記録した2月以来の月間平均の安値となっていました。
 
一方、英国ポンド建ての金価格は1.1%上昇し、2022年の月間平均価格の最高値を更新し、一時はポンドの下落により現物地金価格は史上最高値である1580ポンドに達し、2020年8月の月間平均価格1500ポンドまでに1%弱と堅調な動きを見せていました。
 
9月にブリオンボールトで金地金の売却を上回る購入をしたネット購入者数は、前月から37.5%増となり、ネット売却者数は20.0%増となっていました。
 
その結果、金投資家インデックスは9月に1.9ポイント上昇し55.9と、13ヶ月ぶりの高水準となった7月下げていた8月の下げ幅の70%を取り戻していました。
 
金投資家インデックスと月間平均ドル建て価格の推移 出典元 LBMAとブリオンボールト
 
この数値は、ネット購入者数がネット売却者数と完全に一致する場合に50.0となります。2020年3月にコロナ危機が発生した際は、65.9と高値をつけていました。
 
重量ベースでも金需要は増加しており、ロンドン、ニューヨーク、シンガポール、トロント、チューリッヒで、顧客が選択した場所で保管されている金地金の総量が前月比50キログラム増加し、3ヶ月連続で増加して47.8トンと、多くの国の中央銀行が保有する金準備を上回る水準となっていました。
 
銀投資家インデックスとドル建て月間平均銀価格の推移 出典元 LBMAとブリオンボールト
 
金と同様に、ブリオンボールトにおける銀の需要も、9月には重量ベースで前月比増加し、ロンドン、シンガポール、トロント、チューリッヒで保管されている銀地金の総量が2ヶ月連続で増加して、8.0トン増の1261トンと、史上最高値を更新していました。
 
ブリオンボールトの銀地金ネット購入者数は、8月に比べ4.5%増加したものの、ネット売却者数は45.6%増加し、この6年間で最も急な前月比の増加率となっていました。
 
これは、ウクライナ危機が発生して価格が25ドル以上に上昇したことで利益確定売りが急増し、顧客の銀保有重量が11ヶ月ぶりの低水準となった3月以来の低水準となりました。
 
9月の銀価格は米国ドル建てで前月比4.6%下落していましたが、月末の価格ベースでは6.0%上昇し、月末にはトロイオンスあたり2ドル下落していた8月の下げ幅の半分を取り戻していました。
 
銀は、10月にさらに1.5ドル上昇し、7週間ぶりの高値となるトロイオンスあたり20.50ドルを超えています。
 
銀価格は、金価格を上回るボラティリティを維持しており、2022年に工業用途で記録的な需要が見込まれていることからも、ブリオンボールトの活発な取引をする顧客は、高値で買い、値を下げたことで再購入するという取引を続けています。

 

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチダイレクターとして、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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