ニュースレター(2025年10月24日)貴金属は調整の下げで急落
今週は日本に入っており、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)年次会議の関連イベントに参加をしていたために、ニュースレターの配信が遅れました。来週と再来週は日本で休暇をいただきますので、この間も発信が若干遅れる可能性があることをご理解ください。
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャート上の貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較して以下の通りです。

*貴金属価格は金曜日のLBMA価格。
**日本円価格はLBMA価格として発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。
- 金:ドル建て価格は8週ぶりの週間の下げ。下げ幅は6月27日までの週以来の大幅な下落。
- 銀:4週ぶりの週間の下げ。2023年12月22日までの週以来の大幅な下落。
- プラチナ:4週ぶりの週間の下落で、8月1日までの週以来の大幅な下落。
- パラジウム:2週ぶりの週間の下落で、8月8日までの週以来の大幅な下落。
貴金属市場の動向(週間)
今週貴金属相場は、大きく調整が入ることとなりました。この背景は下記のようになります。
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年初来の上昇、特に9月からの上昇ペースが大きかったための調整
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テクニカル指標上で買われすぎの状態であることが指摘されていたことからも、売りが売りを呼んだ
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米中貿易摩擦緩和
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ドルが多少強含んだこと
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インドの金購入が進むディーワーリーが月曜日に終わったこと
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ロンドンでの現物不足が、ニューヨークからロンドンへ銀が輸送されて解消され始めたこと
その後、トランプ政権がロシアへの追加経済制裁を木曜日に発表し、金曜日の米政府機関一部閉鎖のために遅延していた米消費者物価指数が予想を下回ったことなどがサポートとなり、貴金属相場は落ち着きを取り戻しつつあります。
なお、金価格は月曜日の取引時間中の現物価格としての最高値から水曜日の下値は、2013年以来の最大の下げ幅の8.6%、ロンドンの世界指標(金曜日のAM価格から水曜日のPM価格)では、コロナ危機下の2020年以来の最大の6.2%となっていました。
そこで、今週のチャートは、世界指標上での過去の3日間の急落時と、今回の急落時を比較したものをお届けしましょう。
ご覧のように、今回の急落は価格ベースでは、高値が高かったことからも大きく見えますが、%ベースでは過去のものと比較しても大きなものではないことがご覧いただけます。

今週の貴金属相場の動き(日次)
月曜日
金相場は前週金曜日の下げ幅を取り戻し、トロイオンスあたり 4,381ドル まで一時上昇した後4,360ドルまで若干戻していました。
この間、米中貿易摩擦懸念は後退していました。ベッセント米財務長官が金曜日に中国の何立峰副首相と「率直かつ詳細」に貿易問題を協議したと述べたほか、トランプ大統領も「中国との関係は良好に保てる」と発言したことが背景でした。これを受けて、米株価は上昇し、新高値を更新していました。
そのような中で金が上昇していたのは、「金を持たないリスク」を意識した買いが、下げ局面で入っていたことからでした。
実際、中国の金価格は同日、ロンドン価格に対して約 13ドルのプレミアム と、8月1日以来の高水準となり、需要の戻りが見られていました。
また、金ETF最大銘柄の SPDRゴールドシェア の残高は、木曜・金曜にそれぞれ12トン(1%)以上増加しており、根強い需要が確認されていました。
火曜日
金を含む貴金属価格はロンドン時間午後3時時点で大きく下落し、ドル建て金価格は1週間ぶりの安値、銀は2週間ぶりの安値をつけていました。
もっとも、貴金属は前日までに年初来の上昇率を以下のように大きく伸ばしていたことからも、今回はその過程での健全な調整局面とみられていました。
金(ドル建て) +62%(1979年以来の最大上昇)
銀(ドル建て) +79%(2010年以来の最大上昇)
プラチナ(ドル建て) +73%(2010年以来の最大上昇)
パラジウム(ドル建て) +60%(2009年以来の最大上昇)
同日の下落要因としては、ドルが1週間ぶりの高値をつけたこと、中国のGDPが予想を下回ったこと、さらに米中貿易摩擦の緩和観測など、複数の要因が一部では指摘されていました。
水曜日
金相場は、ロンドン時間早朝に4,004ドルと10月12日以来の低値まで急落後に、前日の下げ幅(2.9%)を一時的に取り戻したものの、昼過ぎに再び下落して、その下げ幅を削るという動きをしていました。
銀相場も同様に、前日の下げ幅(3.6%)を一部回復した後に再び下げ、トロイオンスあたり48.21ドルと2週間ぶりの安値となっていました。
前日の下げの背景には、ETFの動きが限定的だった一方で、コメックスの金先物・オプション取引高が4月以来の高水準となるなど、投機的ポジションの整理が進んだことがあったようでした。
一方、同日朝の上昇局面では、中国の金取引量が上海黄金交易所と上海先物取引所の両方で4月以来の高水準となり、人民元建て金価格がロンドン価格に対して14ドル高(8月1日以来の水準)となっていたことから、中国勢の買いが背景にあったと見られていました。
9月以降、貴金属価格は大きく上昇しており(ドル建て金価格は9月1日から10月20日までに+20%)、しばらくは調整局面が続くと見られていました。
木曜日
金相場は、火曜日・水曜日の下げ基調が一服し、4,054ドルと4,154ドルの間を小幅動いて若干上昇していました。
背景には、米国が前日、ウクライナ紛争の終結を目指してロシアの主要石油会社に対する制裁を発表したことなどが背景でした。これにより経済への懸念が強まり、株式市場が一時的に下落したことが金をサポートしていました。しかし、株の下げ幅が限定的だったため、金の上昇も抑えられていました。
なお、ロシアは世界のパラジウム産出量の約4割を占める最大の生産国、プラチナにおいては世界2位であることから、前日からパラジウムとプラチナが上昇に転じていました。これも金を含む他の貴金属市場の下支え要因となったようです。
金曜日
同日発表された米消費者物価指数(CPI)が予想を下回ったことを受け、米連邦準備制度理事会(FRB)による年内2回の利下げ観測が広がり、金相場は4,138ドルまで上昇し、今週の下げ幅を多少ながら削ることとなりました。
CPIのコア指数は前年同月比3.0%と、予想および前回(3.0%)を下回りました。
CMEのFedWatchツールによると、市場は年末の政策金利を3.6%程度と見込み、0.25%の利下げが2回実施される可能性を織り込んでいました。

その他の市場のニュ―ス
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コメックス(COMEX)のデータは、米政府期間が一部閉鎖されていることから発表されていないこと。コメックスの取引量においては、貴金属全般今週価格が急落する中で、プラチナを除き取引量が週後半に急減。金においては前週の2020年3月以来の高さから2週ぶりの低さへ下げ、銀も2020年2月初旬以来の高さから9月26日までの週以来の低さへ減少。プラチナは、若干増加して9月26日までの週以来の高さ、パラジウムは、10月3日までの週以来の低さへ減少。
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金ETFの最大銘柄であるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週0.3トン(0.03%)減で1046.93トンと、2022年7月1日以来の高さから10月16日以来の低さへ減少し、5週ぶりの減少。
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銀ETFの最大銘柄であるiShareシルバーの残高は、今週77.59トン(0.50%)減の15,419.81トンで、前週の2022年7月以来の高さから、10月8日以来の低さで、2週ぶりの週間の減少傾向。
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金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週82台前半ばで始まり、火曜日に価格が急落する中で85半ばと9月半ば以来の高さまで上昇後、金曜日に84台後半へ戻していたこと。2024年平均は84.75、2023年は83.27、5年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。
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金価格との差であるプラチナディスカウントは、今週2667ドルで始まり、水曜日に2698ドルと過去最高へ上昇後、金曜日に2468ドルまでと10月半ばの水準へ下げていたこと。2024年平均は1431ドル、2023年は975ドル、5年平均は968ドル。
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プラチナとパラジウムの価格差は、2月6日以降パラジウムがプラチナを上回る「プレミアム」が継続。今週は129ドルで始まり、金曜日196ドルと10月初旬以来の高さへ上げていたこと。2024年平均は28ドルのディスカウント。2023年は371ドル、2022年は戦争影響で1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
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上海黄金交易所(SGE)とロンドン価格の差は、先週金曜日に8月29日以来初めてプレミアムへ転換したものの、木曜日にディスカウントへ一日のみであるものの転換し、週間の平均は、前週の13.54ドルのディスカウントから、3.68ドルのプレミアムに転換して8月22日の週以来の高さとなっていたこと。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週も、米政府機関の一部閉鎖により、米国関連の経済データの発表は米消費者物価指数が遅延したものの金曜日に発表された以外は限られることとなりました。そこで、市場は米CPI に反応するとともに、引き続き米中貿易摩擦や米政権のロシアへの追加経済制裁のニュースに反応する展開となりました。
来週は水曜日に米連邦公開市場委員会(FOMC)、木曜日に日本銀行、欧州中央銀行の金融政策が発表され、市場は注目することとなります。
詳細は、主要経済指標(2025年10月27日~31日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2025年10月20日~24日)今週のの結果をまとめています。
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主要経済指標(2025年10月27日~31日)来週の予定をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。
ロンドン便り
今週は仕事のため日本に滞在しておりますので、英国からのニュースはお休みさせていただきます。
さて、今週末からロンドン貴金属市場協会(LBMA)の年次会議が京都で開催されます。それに先立ち、私はこの年次会議に関連して東京で行われたイベントに参加しましたので、その様子を簡単にご紹介いたします。
LBMAは毎年10月、世界各地の都市で年次会議を開催しています。昨年は米国マイアミで行われ、今年は日本・京都での開催となります。日本での開催は2008年以来です。
弊社からは、CEOのロバート・グリンとリサーチディレクターのエイドリアン・アッシュが毎年参加していますが、今年は日本開催ということもあり、私も彼らとともに、会議に先立って東京で開かれた以下のイベントに参加しました。
Women in PGMs ネットワーキングイベント
PGMsとはプラチナ・グループ・メタル(白金族金属)を意味します。この分野で活躍する女性たちが互いに支援し合い、ネットワークを通じてキャリアを高めることを目的としたグループがあり、定期的にこのようなネットワーキングイベントが開催されています。
今回はパレスホテル内のレストランで行われ、約30名が参加しました。
日本貴金属マーケット協会(JBMA)ネットワーキングイベント
JBMAは神田明神ホールにて、日本取引所グループ(JPX)およびBrinks Japanの協賛のもと、このイベントを開催しました。
これは今年の年次会議の実質的なキックオフイベントでもあり、約400名が参加する盛況な会となりました。
当日の様子については、JBMAが公開している写真を添付いたします。







