ニュースレター(2025年9月26日)米インフレが想定内で金は史上最高値、銀、プラチナ、パラジウムも急騰
今週は休暇をいただいていましたので、ニュースレターのお届けが遅れました。来週からは通常通り金曜日にお送りします。
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャート上の貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較して以下の通りです。
**日本円価格はLBMA価格として発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。
金価格(ドル建て)は、LBMA金曜日価格で前週金曜日から上昇し、金曜日のLBMA価格としては5週連続で史上最高値を記録しました。銀価格は、LBMA価格で2011年4月以来初めて史上最高値を更新。プラチナは2013年4月以来の高値を更新。パラジウムも7月18日以来の高値をつけました。
貴金属市場の動向(週間)
今週は貴金属がすべて上昇しました。金は週前半にドル建てで最高値を更新し、銀はLBMA価格で史上最高値を、取引時間内の価格では2011年4月以来の高値を記録。プラチナはLBMA価格・取引時間内ともに2013年以来の高値を更新。パラジウムも7月半ば以来の高値をつけています。
その背景としては、
- 金は、トランプ政権の政策による経済への悪影響、つなぎ予算案が10月1日までに上院を通過せず政府機関の部分的閉鎖が懸念されていること、そして経済指標がインフレの高止まりを示唆しているものの、米連邦準備制度理事会(FRB)が引き続き利下げを行える水準にあると見られていること。
- 銀、プラチナ、パラジウムは、金に出遅れていたことに加え、金同様に米政策金利の引き下げ、中国がグリーンエネルギーへ力を入れることによる需要増期待。
こうした要因により、年初来の上げ幅が下記のように大きくなっています。本日はそのチャートをお届けします。
- 金(深緑)44.4%
- 銀(灰色)55.5%
- プラチナ(青)69.8%
- パラジウム(紫)40.3%
今週の貴金属相場の動き(日次)
月曜日
金相場は日本円を含む主要通貨建てで史上最高値を更新しました。
- ドル建て:3,748ドル/トロイオンス
- 円建て:17,807円/グラム
背景は「上げが上げを呼ぶ」展開でしたが、主な要因は以下の通りです。
- トランプ米大統領が19日、外国人高度技術者向け就労ビザ「H1B」に年10万ドルの手数料を課す大統領令に署名し、経済への懸念が高まったこと。
- 米上院が19日、下院を通過したばかりの「つなぎ予算案」を否決し、政府機関の一部閉鎖が懸念されたこと。
これらを背景にドル安が進み、貴金属相場を押し上げました。銀価格もドル建てで14年ぶりの高値、日本円を含む他通貨建てでも最高値を更新しました。
火曜日
金相場は同日も主要通貨建てで最高値を更新しました。
- ドル建て:3,791ドル/トロイオンス
- 円建て:17,999円/グラム
LBMA価格も3,784ドルと、年初から36回目の最高値更新となりました。
一方で、パウエルFRB議長が利下げに慎重な姿勢を示したことを受け、米株価は下落。ドルがやや強含んだことで、金相場はロンドン時間午後に一時3,753ドルまで下げる場面もありました。
しかし下げ局面では買いが続いていました。これは、トランプ政権下での財政悪化や関税によるインフレ圧力などから、「貴金属を保有しないリスク」が強く意識されていました。
水曜日
金相場は3営業日ぶりに下落し、トロイオンスあたり3,138ドルと、週明け月曜日につけた最高値水準まで下げました。
背景にはドル高と長期金利の上昇がありました。これは、パウエル議長が「利下げに慎重な姿勢を示す」発言をしたことを受けた動きです。さらに同日発表された米新築住宅販売件数が予想を上回る好結果となり、利下げ観測をやや後退させたことも影響しました。
週明けに最高値を2営業日連続で更新した後だけに、現在は若干調整局面に入っていました。
木曜日
金相場は、良好な米経済指標を受けて一時トロイオンスあたり3,722ドルまで下落したものの、その後は下げ幅を縮小し、3,749ドルで引けました。
米経済指標では、新規失業保険申請件数が21.8万件と予想(23.5万件)を下回り7月以来の低水準。さらに第2四半期GDP確定値は前期比年率3.8%増と、改定値(3.3%増)から上方修正されました。加えて耐久財受注も市場予想を上回りました。
これを受けてFRBの利下げ観測は後退し、年末の政策金利は3.7%とFOMC予想を上回る水準が見込まれました。その結果、ドル高・長期金利上昇となり、金相場の上値を抑える展開となりました。
一方で、工業用途需要が大きい銀・プラチナ・パラジウムは上昇。
背景には、中国がグリーンエネルギー推進を打ち出したことがあります。銀は太陽光発電、プラチナは水素エネルギー分野での需要が見込まれており、今後の需要増観測が広がりました。
金曜日
この日発表された、FRBがインフレ指標として重視する「個人消費支出(PCE)コア・デフレーター」は高止まりしているものの、市場予想と同水準でした。このためFRBによる利下げは予定通り実施されるとの見方から、金相場は一時トロイオンスあたり3,783ドルまで上昇。その後は3,760ドル前後まで下げて週を終えました。
米株価指数は3営業日ぶりに反発。ロンドン時間午後の金の軟調にはこの動きも影響したほか、高値での利益確定売りが出たと見られます。
一方、銀は急騰基調を維持し、46.63ドルと14年ぶりの高値を更新。プラチナも1,589ドルと12年ぶりの高値をつけました。さらに日本円建てのプラチナ価格は7,650円/グラムと2008年以来初めて史上最高値を更新。金に出遅れていた分、上昇が上昇を呼ぶ展開となっています。
その他の市場のニュ―ス
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コメックス(COMEX)の貴金属先物・オプションにおける資金運用業者のポジションは、9月16日までの週に発表されたデータ上では、翌日のFOMC後の発表を待つ中で、金が史上最高値、銀も上昇していた際に、金を除き全てのの貴金属でネットロングが増加していたこと。
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コメックス金の先物・オプションにおける資金運用業者のネットロングポジションは、3.6%減で499.16トンと2週連続で減少して2週ぶりの低さとなっていたこと。価格は前週比1.3%高のトロイオンスあたり3695ドルと史上最高値へ上昇し、建玉は2.3%増と5月20日以来の高さであったこと。
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銀のネットロングポジションは1.0%増の5,930トンと増加していたこと。価格は前週比2.4%高の42.24ドルと、2011年8月23日の週以来の高さ。建玉は6.9%増で7月22日の週以来の高さへ増加していたこと。
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プラチナのネットポジションは、5月20日からネットロングへ転じ、10.5%増の22.78トンと増加。価格は前週比1.5%高で1401ドルと、7月22日の週以来の高さ。建玉は6月24日の週以来の高さへ増加。
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パラジウムは2022年10月半ばからネットショートが継続。14.1%減で15.47トンと8月12日の週以来の低さ。価格は前週比4.7%高の1184ドルで、7月29日の週以来の高さ。建玉は8月19日の週以来の大きさ。
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金ETFの最大銘柄であるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに11.2トン(1.1%)増の1005.72トンと2022年8月1日以来の高さで、2週連続の週間の増加。
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銀ETFの最大銘柄であるiShareシルバーの残高は、今週木曜日までに156.7トン(1.0%)増の15,361.84トンと、2週連続の週間の上昇。
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金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週85台前半ばで始まり、金曜日83台前半ばと、2024年10月31日以来の低さまで下げて終えたこと。2024年平均は84.75、2023年は83.27、5年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。
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金価格との差であるプラチナディスカウントは、今週2298ドルで始まり、火曜日に2349ドルと5月初旬以来の高さまで上昇後に、金曜日2207ドルと今年9月8日以来の低さへ下げて終えていたこと。2024年平均は1431ドル、2023年は975ドル、5年平均は968ドル。
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プラチナとパラジウムの価格差は、2月6日以降パラジウムがプラチナを上回る「プレミアム」が継続。今週は258ドルと8月初旬以来の低さで始まり、金曜日は295ドルと8月後半以来の高さへ増加して終える傾向。2024年平均は28ドルのディスカウント。2023年は371ドル、2022年は戦争影響で1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
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上海黄金交易所(SGE)とロンドン価格の差は、週平均は前週の31.90ドルのディスカウントでコロナ危機下のロックダウン中の2020年10月以来の大幅なものから、29.88ドルのディスカウントとなっていたこと。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は金曜日のFRBがインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE)コア・デフレーターの発表を待つ中で、週前半に史上最高値を更新しました。
来週は米雇用関係データが発表され、火曜日の雇用動態調査(JOLT)求人件数、水曜日のADP雇用統計、金曜日の非農業部門雇用者数や失業率が重要となります。また、米つなぎ予算案が9月30日までに通過しない場合、政府機関の部分的閉鎖(シャットダウン)が始まる可能性があり、この関連ニュースも重要となります。
詳細は、主要経済指標(2025年9月29日~10月3日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2025年9月22日~26日)今週のの結果をまとめています。
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主要経済指標(2025年9月29日~10月3日)来週の予定をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。
ロンドン便り
今週は休暇をいただいていましたので、ロンドン便りはお休みさせていただきます。