ニュースレター(2025年10月17日)金と銀は最高値の更新を続けた後に調整の下げが入る
私は来週から3週間ほど日本に入ります。そこで、この間ニュースレターは簡易的なもの、そして、配信が多少遅れる可能性があることをご理解ください。
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャート上の貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較して以下の通りです。
*金は午後3時の弊社チャート価格、銀は午後12時、プラチナとパラジウムは午後2時の価格。
**日本円価格はLBMA価格が発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。
- 金:ドル建て価格は8週連続で金曜日の史上最高値を更新。その上げ幅は、経済停滞懸念で世界同時株安が起きていた2016年2月以来の高さ。
- 銀:4週連続の上昇で、前週の最高値を再更新。
- プラチナ:4週連続の週間の上昇で2013年2月以来の高値を3週連続で更新。
- パラジウム:2週連続で2023年5月以来の高値を更新。
貴金属市場の動向(週間)
今週の貴金属価格は、前週のトランプ米大統領による中国への追加関税コメントがきっかけとなり、ロンドンの世界指標ベースで金は5営業日連続、銀は8営業日連続で最高値を更新し急騰しました。
しかし、昨日米地銀が不正ローンによる信用損失を報告したことで、信用不安が意識され、株価が下げた中で貴金属が買われたものの、その後、株価が落ち着きを取り戻す中で、ロンドン時間の午後に大きく下落しました。
これは、年初来大きく上昇し、今週さらにそのペースを上げていたことからも、調整が入っていると見られます。
本日のLBMA価格での年初来の上げ幅は以下の通りです。金と銀の上げ幅は、1979年のオイルショック以来の高さとなっています。
・金:+63%
・銀:+86%
・プラチナ:+80%
・パラジウム:+69%
今週は、この年初来の急騰ペースを示すチャートをご覧いただきましょう。
今週の貴金属相場の動き(日次)
月曜日
金相場はトロイオンスあたり4,110ドル、銀は52.06ドルと、いずれも同日にそろって過去最高値を更新しました。
背景には、金曜日にトランプ大統領が、中国によるレアアース関連の貿易規制への対抗措置として、11月1日から中国製品に追加関税100%を課すと警告したことがあります。
さらに、ロンドン市場では銀現物の逼迫が過去に例を見ない高水準に達しており、それに伴う短期リースレートの高騰、銀先物価格が現物価格を下回る過去にない状況なども、価格急騰の一因となっていました。
火曜日
金相場は取引時間中にトロイオンスあたり4,179ドル、銀は53.60ドルと再び最高値を更新。
米国株式市場が大幅に下落した後、下げ幅を縮小したことに合わせて、金と銀も連動する形となりました。
株価下落の背景には、米中貿易摩擦の悪化懸念がありましたが、その後、米通商代表部のジェイミソン・グリア氏が「トランプ大統領は習近平国家主席と会談する予定だ」と発言したことで、懸念が和らぎました。
また、前週後半から高騰していた貴金属現物の1カ月リースレートは、同日やや落ち着きを見せていました。これは、ニューヨークからロンドンへ現物が輸送されているとの報道もあり、ロンドン市場での現物逼迫感が緩和される観測が広がったためです。
水曜日
金相場は同日も主要通貨建てで史上最高値を更新。
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米ドル建て:4,218ドル/トロイオンス
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日本円建て:20,527円/グラム
銀は、ロンドン現物価格(値決め時間)で、過去最高値を更新。
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米ドル建て:52.585ドル/トロイオンス
この上昇の背景には、前週金曜日の米中貿易摩擦再燃のほか、以下の要因があります。
- FRBの利下げ観測
- トランプ大統領による中銀への介入によるインフレ懸念
- 財政悪化
木曜日
金・銀価格は主要通貨建てで史上最高値を更新。プラチナとパラジウムも、それぞれ約11年ぶり・2年ぶりの高値となっています。LBMA価格のドル建て価格の最高値は下記の通り。
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金:4,261ドル/トロイオンス
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銀:53.050ドル/トロイオンス
背景には、先に触れた要因に加え、「貴金属を持たないリスク(FOMO:Fear of Missing Out)」の高まりも見られました。
また、NY時間にZions銀行やWestern Alliance銀行がそれぞれ不正ローンによる信用損失を報告。米地銀の信用不安が意識され、米株価が下げる中で、金の安全資産としての需要が高まっていました。
金曜日
本日金・銀相場は、取引時間中にほぼ最高値をつけ、その後上げ幅を削って推移しました。
- 金:4,377ドル/トロイオンス → 4,204ドル/トロイオンス
- 銀:54.47ドル/トロイオンス → 51.16ドル/トロイオンス
背景は、前日の米地銀への懸念で下げていた米株価が反転したことで、貴金属に調整の下げが入っている模様です。
なお、価格に敏感な中国の需要動向にも変化がみられつつあり、一時はロンドン金価格との差がトロイオンスあたり60ドル超のディスカウントとなり、コロナ危機以来の需要停滞を示唆していました。しかし、本日は8月末以来、初めてプレミアムに転換し、世界最大の金消費国・中国での金に対するセンチメントが改善していることを示していました。
その他の市場のニュ―ス
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コメックス(COMEX)のデータは、米政府期間が一部閉鎖されていることから発表されていないこと。コメックスの取引量においては、金は今週木曜日までに、前週の2020年3月以来の高さを引き続き若干上回り、銀も2020年2月初旬以来の高さへと急増し、プラチナは、前週の8月末以来の低さから増加し、パラジウムは、前週の5月後半以来の高さから若干減少していたこと。
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金ETFの最大銘柄であるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに17.5トン(1.7%)増で1034.62トンと、2022年7月1日以来の高さで、5週連続の増加傾向。
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銀ETFの最大銘柄であるiShareシルバーの残高は、今週木曜日までに21.15トン(0.14%)減の15,422.61トンで、週間の減少傾向。
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金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週79台半ばで始まり、本日は80台前半へ上昇して終える傾向。2024年平均は84.75、2023年は83.27、5年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。
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金価格との差であるプラチナディスカウントは、今週2419ドルで始まり、本日2672ドルと、記録に残るうえで最高値へ上昇して終える傾向。2024年平均は1431ドル、2023年は975ドル、5年平均は968ドル。
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プラチナとパラジウムの価格差は、2月6日以降パラジウムがプラチナを上回る「プレミアム」が継続。今週は193ドルとで始まり、本日87ドルと6月初旬以来の低さへ下げて終える傾向。2024年平均は28ドルのディスカウント。2023年は371ドル、2022年は戦争影響で1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
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上海黄金交易所(SGE)とロンドン価格の差は、本日8月29日以来初めてプレミアムへ転換して、週間の平均は、前週のコロナ危機以来のの高さの54.85ドルのディスカウントから、13.54ドルのディスカウントと、9月初旬以来の低さへ下げていた事。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週も、米政府機関の一部閉鎖により、米国関連の経済データの発表は限られることとなりました。そこで、市場は引き続き米中貿易摩擦や米連邦準備制度理事会の高官のコメント、さらに昨日米地銀が開示した潜在的損失のニュースに反応する展開となりました。
来週も、米関連の経済指標の発表は一部政府機関の閉鎖の影響で限定的になる見込みです。そこで、月曜日は中国のGDP、水曜日は英国の消費者物価指数、金曜日は主要国の製造業・サービス部門のPMIの発表などへ市場の注目することとなります。
詳細は、主要経済指標(2025年10月20日~24日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週銀価格が最高値をつけたことを伝える日本経済新聞の記事「銀価格45年ぶり最高値更新 歴史的品薄、群がる投機マネー」で、私のコメントが引用されました。
記事では、過去の急騰事例(ハント兄弟の買い占め、ウォーレン・バフェットの取引、レディットの「Silver Squeeze」)にも触れつつ、今回の上昇の一因としてロンドンの銀現物不足を挙げています。この不足が解消されれば、一時的な価格調整の可能性はあるとし、私のコメントが次のように引用されています。
「過去の買い占めで急騰した場面と異なり、既存の通貨への信認など複数の要因が絡み合って銀価格を押し上げている」と指摘。貴金属相場への追い風は続くと予想する。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標2025年10月13日~17日)今週のの結果をまとめています。
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主要経済指標(2025年10月20日~24日)来週の予定をまとめています。
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金・銀価格ディリーレポート(2025年10月13日)ロンドン銀市場「壊れる」、金は4,100ドル目前、米中レアアース関連貿易摩擦悪化
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。
ロンドン便り
今週英国では、イスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスに関する第一フェーズの停戦合意に基づく人質解放は行われたものの、その後の人質の遺体引き渡しの遅れなど、様々な問題が報じられています。
また、ウクライナ戦争に関しては、トランプ米大統領とプーチン露大統領の電話会談や、ブダペストでの両首脳の会談の可能性、本日ゼレンスキー・ウクライナ大統領のワシントン訪問などが大きく伝えられています。
英国内のニュースでは、英国政府の情報を中国政府あるいは中国のエージェントに提供した件に関わり告発された英国人男性二人の訴追が取り下げられたことや、バーミンガムでのサッカー試合において、イスラエルのマッカビ・テルアビブチームのサポーターが安全を保証できないとして地方政府により入場禁止となったことなどが報じられています。
そのような中、ロンドンで水曜日から行われている大相撲についても広く紹介されていますので、ここでお伝えしましょう。
ロンドン中心部のロイヤル・アルバート・ホールという伝統ある音楽会場で、1991年以来2度目となる大相撲トーナメントが5日間にわたり開催されています。
一般席の切符は270ポンド(約5万円強)ほどと決して安くはありませんが、約5400人収容の会場の切符は5日間すべて完売しており、その様子はBBCでも放送されるなど、日本古来のスポーツへの人気は高いようです。
出場力士は幕内上位力士を中心に約40名が参加しています。日々、多くのソーシャルメディアでは、著名力士がロンドン市内の日本文化発信施設・ジャパンハウスを訪問している様子や、若手力士がビートルズのアルバムのカバーにもなったアビーロード横断歩道でアルバムのようにポーズを取る姿などが伝えられ、大相撲を知らない英国の人々も親しみを感じているようです。
大相撲の伝統を知ってもらおうと、中継では相撲特有の儀式や文化的要素、仕切り、土俵入り、塩撒きなども丁寧に解説しており、基礎知識のない方でも楽しめる内容となっています。
文化交流はお互いの国を知り、理解するための重要な活動です。今回の遠征が日本と英国の関係をより強固にする助けとなることでしょう。