金/原油比価から見た原油下値90ドル試しの意味
丸紅経済研究所代表柴田明夫氏が、コモディティ専門情報サイトのcommodity-board.comで、原油価格と金価格を比較し、原油下値90ドルの意味について解説しています。この記事は国際エネルギー機関(IEA)が、先週23日に加盟国による戦略備蓄原油の放出が発表される前に掲載されたものです。
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ニューヨークWTI原油価格が、1バレル=90ドルの下値を試す展開にある(図表1)。WTIが90ドルを割ることになれば、2月後半以来、ほぼ4カ月ぶりの安値となる。これまで内戦が続くリビアの原油生産の落ち込み(欧州向け輸出停止)を映して115~120ドルで推移していた北海原油も、ここに来て 111ドル台まで値を下げている。原油の調整は本格化しつつあるといえよう。
背景には、1)ギリシャ債務問題の再燃⇒ユーロ安・ドル高、2)米国景気の回復力の弱さ⇒石油需要減退観測、3)OPEC総会(6/8)での加盟国間の亀裂⇒サウジアラビアの増産発表などがある。シカゴ穀物やニューヨークのコーヒー、砂糖などが調整色を強めていることも、原油価格の足を引っ張っている要因である。
一方、投機マネーのリスク回避指向から金相場は確りしている。ニューヨーク金は、5月2日に史上最高値の1オンス=1575ドルを付けた後、5月前半に 1470ドル台まで売られたものの、後半には大きく買い戻され1500ドルの大台を維持している。ただ、原油が90ドルを割り込むことがあれば、金は再び 1500ドルを割り込む可能性が高い。
図表2は、金/原油比価をみたものである。同比価は、2009年後半~2011年前半まで 14~16倍の間で推移してきた。この間、金は800ドル台前半から1500ドルを突破するまでほぼ一貫して上昇。こうしたなか金と原油には、1)原油が 急騰し、同比価が14倍の下限に近付くと、相対的割安感から金が買われ同比価は上昇、2)金がさらに上昇し、あるいは原油が急落し、同比価が16倍の上限 に近付くと、割高感から金が売られ同比価は低下する、といった関係がみられた。
この文脈で見れば、原油が90ドルを割り込んだ場合、同比価は16倍を大きく突破することになり、原油に対する割高感から金は売られることになろう。仮に、原油が89ドルまで下げた場合、同比価が16倍では金は 1424ドル(89×16)、15倍では1335ドル(89×15)となる。何れにせよ、現行の1500ドルからは大幅な調整が入ることになる。もちろん 原油価格が90ドル台で踏みとどまれば、金も1500ドルの大台を維持し、1600ドルの史上最高値に向けた足場を形成することになる。
問題は、原油が90ドルを割った場合、下値を何処にみるかである。この点、筆者は、下値は浅く、原油は短期間で90ドル台を回復する可能性が高いとみている。理由は、リビア内戦の長期化懸念とOPEC加盟国間の内部亀裂が鮮明になっていることである。
6月8日に開催されたOPEC定例総会では、大方の生産枠引き上げ観測に反して、日量2485万バレル(イラクを除く11カ国)の現行生産枠が据え置かれた。その際、3カ月後に改めて原油価格の動向を見て、増産に踏み切るかどうかが検討される。これを受け、原油は102ドルまで上昇した。しかし、サウジアラビアが単独増産の意向を示すと原油は94ドル台まで急落した。
ちなみに現行のOPEC生産枠は、2009年1月より2年半の長きにわたり維持されてきた。2008年9月15日のリーマン・ショックによる原油価格の急落に対処するため、OPECは同年9月、10月、12月と3回の総会で累 計日量420万バレルの減産を表明し、2009年1月より実施してきた。原油に下値不安がある時は、OPEC内部の結束も固かった。しかし、原油が100 ドル台になると、世界の石油需要が減少やカナダのタールサンドやベネズエラのオリノコタールなど、非在来型石油の開発が進むことを恐れたサウジアラビアが、増産による需給緩和を促す一方、イラン、ベネズエラ、アルジェリアなど増産余力にない国は増産に反対という穏健派と強硬派の対立の構図となっている。 強硬派は、世界の石油在庫が高水準にあり、原油の供給は十分との認識だ。
OPECの生産実績と生産余力を比較すると、5月時点でOPEC の生産量は日量2632万バレルで、生産枠(同2485万バレル)を150万バレルほど超過している。今回サウジが主張したのは、この部分の生産枠増加の 追認と思われる。ただ、リビア内戦の長期化によりリビアの生産余力は失われ、OPECの生産余力も日量439万バレルまで縮小し、心理的に安心とされる同400万バレルに近付いている。こうした中、サウジがさらに増産をすれば、却って市場はOPECの生産余力の低下を懸念することになり、サウジの思惑に反して原油が大きく買われることになろう。
(図表1)
(資料)NYMEX金、原油より筆者作成
(図表2)
(資料)NYMEX金、原油より筆者作成
(図表3)
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