金市場ニュース

金価格3000ドルまでの道のり

コメックス金価格が3000ドルを突破しました。それは投機家筋が予想していたように。
 
そして、ロンドン金地金現物もまた本日3000ドルを超えることとなりました。
 
市場とメディアは金が3000ドルを超えたことを大きく扱っています。それは、金相場が2008年に1000ドル、2020年に2000ドルへ達した時のようにです。
 
しかし、このような節目の水準に達した後に、金価格はこれまでの2回とも、上げ幅を削った後に、その水準まで戻し、それを維持するまでに時間を必要としました。
 
それは、金1000ドルは1年半。2000ドルは3年半というものでした。
 
3000ドルという水準自体は特別なものではありません。しかし、この節目の水準が市場を奮い立たせ、過去に2度ほど市場を動揺させたのです。それでは、また同じことが起こるのでしょうか?
 
金1000ドル
2008年3月、金は2週間にわたって995ドルに迫りましたが、米投資銀行ベアー・スターンズが破綻した月曜日の朝、ついに1000ドルを突破しました。
 
2008年にドル建て金価格が1000ドルへ達しその水準を維持できるまでの18か月 出典元 ブリオンボールト
 
 
しかし、FRBが金融政策を大きく転換する前に、金はわずか3日間のみ1000ドル強で取引されました。しかし、同年9月のリーマンブラザーズの破綻がドルを押し上げ、金を含むすべての市場から投機的なクレジットを吸い上げることなりました。
 
金価格は米ドル建てで大きく下落しました(その一方で、ドル建て以外の主要通貨建てにおいて最高値を更新しました)。その後、主要中央銀行が金融の量劇緩和とゼロ金利が世界株式の暴落を食い止めようと奮闘する中、金はその後18ヶ月間1000ドルを下回る水準で取引され、その後ついに1000ドルの水準を継続的に上回ることができたのです。
 
実際、ベアー・スターンズの破綻後に頂点に達した後、金価格は再びその水準に達するまで369取引日を要しました。そして、2009年9月最終日についに1000ドルの大台に乗せて、6年後に1045ドルまで下落はしていましたが、一度もこの価格水準を割らなかったのです。
 
金2000ドル
ITバブルの崩壊とその後の世界金融危機の間に7倍に跳ね上がったにもかかわらず、金は2011年のピークにおいても2000ドルには80ドル及びませんでした。
 
その後、コロナ危機が金価格を高騰させ、金は再びその水準に近づくのに9年を必要としました。
 
それは、ロックダウンが有用なものの価格を押し下げたからでした。それは、原油先物価格が一時マイナスとなったように。一方で、究極の安全資産である金は、富と価値を蓄える以外には、歴史的にはまったく役に立つものではありません。
 
そのためにも、金は2020年のコロナ禍では必要な資産であったのです。
 
2020年からの金が2000ドルを維持するまでのチャート 出典元 ブリオンボールト
 
2019年11月下旬に中国で新型コロナウィルスが検知されてから3割強上昇し、金は2020年8月上旬にトロイオンスあたり2000ドルに達しましたが、4取引日のみこの水準を維持しました。
 
ドル建てで、金はその後70ドルを失い、2008ドルに反発しました。
 
これは、ロシアが2022年2月から全面的なウクライナ侵攻を開始し、首都キエフに向かって突き進む中、この水準はわずか2営業日で達成されました。
 
そこから金が再び2000ドルを突破するまでにさらに266日取引日を要し、その水準をほぼ2週間維持した後、2023年春には米国のハイテクセクターの銀行が「ミニ危機」に見舞われる中、その水準を下回り、上回り、そして3度下回ることとなりました。
 
そして金はその年の5月に再び2000ドルを割り込みました。その後さらに132取引日を経て、11月に再び2000ドルを上回ることとなりました。
 
そして2024年のバレンタインデーに10ドル下回った後に、ついに2000ドルを維持できるようになったのです。
 
金3000ドル
ドル建ての金は昨年トロイオンス2100ドルで始まり、2025年には2600ドルで始まっています。
 
そのため、今年に入ってからの価格の上昇は劇的で、2024年の記録的なトロイオンスあたりのドル建て価格での上昇率のほとんどを10週間以内に繰り返しています。
 
さらに、ドナルド・トランプ氏が米国選挙で約束した政策的混乱をまさに実現させたため、金は2月に10回のドル建て価格の史上最高値を更新しました。これは、2011年9月の1ヶ月の最高値更新数に匹敵します。
 
このような市場の動きは、もちろん人々の意見を動かすものであり、銀行のアナリストは今、2025年の金価格の予測を、より強気な見方においては、3000ドルから3100ドルへと、より高く修正しています。
 
金地金の上昇の速さは、個人投資家も同じように思っていることを意味し、ブリオンボールトのユーザーによる新年の価格予想は、3070ドルとあまりにも実現可能であるように見えます。これは、アンケートが行われた際の2600ドルの時には、もっと遠い価格目標であるように思えたものです。
 
そして、3月中旬に、3000ドルの金地金価格は達成され、これは投機家が望んでいることであることがデータで見ることができます。
 
金の投機家は金のオプションを好み、もしそれが予想通りになった場合、コメックスの市場で賭けた1ドルが何ドルにもなることを期待し取引を行います。
 
現在、最も活発なコメックスのコントラクトは4月限です。そして、4月限コールの最も多い権利行使価格はトロイオンスあたり3000ドルです。
 
木曜日夜の時点で、この価格はコメックス金デリバティブのコールオプションの建玉の6.7%を占めており、次いで3050ドルが4.3%となっていました。
 
実際、4月限コールの5枚に2枚以上が3000ドル以上のストライクとなっています。一方、現在プットを保有している売り手は、3000ドル以上の建玉の半分以下でしかありません。
 
では、4月限の金先物がトロイオンスあたり3000ドルに到達し、上昇した今、今後はどうなるのでしょうか?
 
投機筋の最大の賭けは実を結び、満足気なトレーダーたちは間違いなくコールを決済し、利益を貯めたいと思うことでしょう。そして、1000ドルと2000ドルを超えた金の歴史が何らかの指針になるなら、金は少なくとも当初はこの水準を維持することが困難となるかもしれません。
 
しかし、2025年のトランプ大統領の世界では、これまでの歴史の常識が通用するのでしょうか?
 
金融界で最も愚かな言葉は常に「今回は状況が違う」と主張することです。しかし、今の金にとっては本当にそうであるのかもしれません。
 
第一に、金は全ての投資家の間で3000ドルを突破したのではなく、欧米の投資家の間で人気を取り戻したに過ぎません。第二に、投資資金が守ろうとしている危機は未だ始まったばかりなのです。
 
トランプ大統領の不確実性とその政策への懸念によって、米国株はわずか1カ月前の史上最高値から10%しか下落していません。トランプ氏の政権はこれから4年間続くのです。そして、5年単位で見れば、S&P500指数が値を下げたときは常に金が上昇しています。
 
もちろん、今回は違うかもしれません。しかし、もし米国の貿易戦争が、誰もが予想するように、経済成長を阻害しながら生活費を上昇させるのであれば、その結果生じるスタグフレーションは、金に投資するための完璧な動機付けとなることでしょう。
 
とりあえず、本日は3000ドルに達した金と、それが引き起こすアナリストの金価格予測の猛烈な上方修正に乾杯するとしましょう。

 

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチダイレクターとして、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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