金の基礎知識

金先物

金先物について#

金先物とは、将来の金の取引内容(量や価格等)を取り決め、将来決済を行うというものです。つまり、取引時点では、取引全額を支払うこと、もしくは売却者はその金を受け渡す必要がないということです。

受渡日は、実際に支払い及び受渡がされる日のことです。例えば、購入者は支払いを行い、売却者は金の受渡を行う日です。これは、通常3ヶ月後です。

大部分の先物トレーダーは、この決済日までの期間を使い、投機機会を見つけます。ここでは、受渡日までに、すでに購入したものを全て売却、もしくは売却したものを全て購入します。これにより、この取引における損失もしくは利益のみを決済することとなります。そのため、この取引において、全てを即座に決済しなければならない形態の取引より、より大きなリスクを抱えますが、より多くの利益の可能性を持つ、多額の取引をすることができます。

金先物と証拠金#

受渡を将来へ延ばすに、証拠金を支払う必要があります。これは、金先物取引における重要な点です。証拠金は、受渡が一定の時期まで延ばされた場合に、価格が動くことにより取引が履行されないリスクを考慮し、必要とされるものです。

証拠金は一種の手付金であり、通常独立した中央の決済機関によって保管されます。そのため、金先物を取引する際、この証拠金の支払いを要求されます。その金額は、市場の状況にもよりますが、取引額の2%から20%です。

証拠金の追加支払い#

もし、金先物を購入し、金価格が下がってきた場合、追加証拠金の支払いが発生します。

購入者は、その反対売買をしない限りは、価格が下がった場合は、追加証拠金を支払わなければなりません。そのために、先物取引では当初の投資よりも多額の費用が発生することがあるのです。

金のレバレッジ#

先物がこのようにしてレバレッジ効果があることが理解できたことでしょう。これは、Gearingとも呼ばれます。

例えば、5000ドルを投資するとします。現物の取引においては、5000ドルの取引のみが可能です。しかし、先物取引であれば、100,000ドル相当の金を購入することができます。それは、この取引における証拠金が5%であった場合、その金額約5,000ドルであるからです。

もし、この金価格が10%上げた場合、現物取引においては500ドルの利益を得ます。しかし、先物取引の場合は、10,000ドルとなります。

しかし、これと逆もありうるのです。もし、金価格が10%下げた場合、現物取引においては500ドルの損失となりますが、金価格が再び上昇すれば、この投資は再び利益をもたらします。

それに対し、先物取引の場合は、当初の投資額の倍である10,000ドルの損失となります。実際、大部分の金先物をする投資家は、損失を抱えるようです。それは、中期においてその金価格の動きの傾向は上昇していても、一時的な価格の下げにより、損失を抱えるリスクを持っているためなのです。

取引所における金先物#

専門のトレーダーは、先物取引の特別な契約体系を作り上げ、他の専門トレーダーと直接取引を行います。これは、店頭取引(OTC)と呼ばれています。

しかし、一般投資家は、このような複雑な取引ではなく、通常先物市場で標準の金先物を取引します。先物市場で取引される標準の契約は、受渡日、契約の量、受渡の条件等がすでに決められています。そして、それぞれの投資金額に見合うように、これらの契約をいくつか購入します。

金融先物市場で、標準の契約を取引する際、下記の二つの大きな利点があります。

  • まず、店頭取引の先物より市場の流動性があります。そのため、この売買を希望する時に不特定多数の相手とすることが可能です。これは、店頭取引においては通常可能ではありません。
  • 次に、取引が履行することを保証する中央の決済機関があります。この中央決済機関は、証拠金計算、支払い請求、取引当事者から引き受けた証拠金保管を含む様々な業務を行います。

先物期日#

金先物は、日付が明記され、その明記された受渡される期日までに取引を終了します。

取引が終了した時点で、大部分の一般投資家は、反対売買を行っています。そして、限られた契約が、実際に現物の金の受渡を受けるために、意図的に残っています。

主な金融先物市場においては、このような受渡を行う契約は、比較的低い割合となっています。大部分は、金価格の動きによる利益を得る投機目的で取引を行っています。

取引が終了する数日前に反対売買を行うことで、その取引ポジションを整えます。先物取引を扱っているブローカーによっては、顧客が受渡日まで先物取引契約を保持するのを好まない場合もあります。グッド・デリバリー・バーである金地金を保管することができる専門保管場所を保有しない場合、この顧客にその取引ポジションを決済すること要求します。そして、このポジションを継続保有したいのであれば、さらに新規の先物に再投資することを勧めます。

このロールオーバーは、とても費用が高く設定されています。そのため、金先物のポジションが3ヶ月以上(ロールオーバー一回以上)である場合、金現物を購入したほうが、金先物を購入しロールオーバーするよりも安くなります。

金先物取引を始めるにあたり#

金先物取引を行うためには、ブローカーを見つける必要があります。先物ブローカーは、先物取引所の会員です。そのブローカーは、顧客が中央決済機関へ支払うべき証拠金を徴収するなど、この市場との仲介をします。

ブローカーへは、顧客が取引前に先物取引のリスク等を理解し、その詳細説明書類へ署名してもらうという説明義務が課されています。

先物取引を行う口座を設定するには、ブローカーが本人確認手続きをし、信用調査をするために、数日間を必要とします。

隠された費用について#

先物取引においては、取引時に証拠金のみが必要となるため、現物取引よりも費用が少ないと思われることがあるようです。しかし、これは正しくはありません。

先物価格の計算方法を理解することは重要です。

金スポット価格は、即座に決済するための価格です。そして、この価格は全世界での金取引時に参照されます。

金先物契約は、ほとんどの場合は、このスポット価格とは別の価格付けが行われます。この価格の差は、同様の金現物を現物市場で購入した場合の資金調達費用と似通っています。

金と通貨の両者は、貸し借りができることから、その価格の差は、数式上下記のように理解されています。

金先物のドルによる購入は、取り決められた金の量を購入するために、取り決められたドルの金額を支払うことを先へ延ばすというものです。そのために、この支払うべきドルの金額を受渡日まで預金することはできますが、まだ受け渡されていない金を預金することはできません。預金するドルでこの期間に1%を得ることができるのに対し、売却者の金は0.25%しか得られないため、スポット価格の0.75%を支払うことを考慮します。もし、この額が追加支払わなければ、売却者は現物の金を即座に売り、ドルを得た上で預金をし、0.75%を得ることでしょう。そのため、先物価格にはこの費用が常に含まれているのです。

ドル金利が金の貸し出し金利を上回る限り、先物金価格は、現物価格を上回ります。このようなケースを先物においては順鞘(Contango)の中にいると言います。それは、先物取引は、利益を上げるのが困難であるということです。そのため、順鞘が0に落ちるよりも早い率で金現物価格が上昇しない限り利益を得ることができません。

注:もし、ドルにおける金利が金を貸し出す率よりも下がった場合、先物価格は現物価格を下回ります。その場合、市場では逆鞘(backwardation)の中にいると言います。

ストップロス#

多くの先物ブローカーは、ストップロスサービスを提供しています。それは、保証ではなく最大限の努力をするというものです。これは、損失をある一定のレベルでとどめるサービスです。

理論上において、ストップロスは理解できるものです。しかし、このサービスを利用しても、実際には損失を伴わないものではありません。それは、これにより大きな損失を防ぐことは可能でも、長期にわたる小さな数多くの損失を防ぐものではないためです。

市場にあまり動きがない場合、市場の専門家は価格を動かし、市場に動きを作ります。その際、トレーダーは特に理由もなく価格を低く付けます。もし、ストップロスが市場になければ、ブローカは価格の動きに反応し、ストップロスの同意内容に基づき、投資家のポジションを決済することとなります。

つまりは、トレーダーの価格を下げる試みは、売却者を市場から追い出すこととなります。そのため、トレーダーはストップロスによって得た契約を、即座に価格を上げた上で市場に出し、購入サイドのストップロスと取引を行うことが可能かもしれません。そのため、市場に動きがない時には市場にボラティリティを作り出し、ストップロスを設定している投資家を市場から追い出し、利益を上げることが可能かもしれません。

また、ブローカーはこれによりコミッションを得ることも理解すべきです。また、ブローカーは、顧客のポジションを一方的に決済することができるため、そのリスクを制限できるという利点もあります。ブローカーは、一般的に、24時間証拠金を継続して請求するというリスクを持つよりも、ストップロスを好みます。

そのため、投資家のみが損失を負うことになります。こうして、投資家がストップロスによってそのポジションが決済されたことを知った時点では、市場は通常平常なものとなっており、損失のみを抱えることとなります。

また、このサービスを提供するブローカーが、その会社でも先物取引を行っている場合、この会社のディーラーがストップロスを引き起こすレベルの情報を得ることにより、利益を得ることも可能となります。これは、決してこのようなことが行われていると述べているのではありませんが、そのような利益相反する状況が存在しているということなのです。

投資家は、大きすぎるポジションを持たないことにより、ストップロスサービスを利用することを防ぐことができます。もし、投資額が比較的少なく、十分な証拠金が納められている場合、ストップロスは必要ないでしょう。そのため、ブローカーがそのサービスを勧めた場合も、断ることができるでしょう。

小さなポジションを持つという保守的な投資ストラテジィによって、莫大な損失を追うことを防ぐという目的を達成することができます。そして、ストップロスサービスを利用することによる、断続的な少額な損失も防ぐことができます。その代わり、短期間に大きな利益を出すこともできないでしょう。

金先物ロールオーバー#

長期間金先物を所有するということには、精神的なプレッシャーも大きなものがあります。

通常四半期毎の先物の契約が終了するに当たり、契約を継続したい投資家は、新しい期間の新規契約へロールオーバーをする必要があります。このロールオーバーは、大部分の投資家に精神的なストレスを与えます。

それは、ロールオーバーにおいては追加費用が発生し、先物契約期間には反対売買の機会が常にあるため、常に契約を終了する機会をうかがわなければならないためです。

厳しい現実の中、投資家が通常の価格の変動から損失がでた場合、多くの場合はその損失を受け入れ契約を終了します。その他の選択肢は、次の契約へロールオーバーし、短期で利益を上げることを試みるということです。しかし、四半期ごとに多くの投資家は、精神的なプレッシャーに耐え切れず、契約を終了し、二度とこの取引市場へは戻ってくることはないようです。

ロールオーバー費用#

それぞれの四半期に、先物投資家はブローカーから、新規契約へ割引された価格でロールオーバーをするかどうかの連絡を受けることでしょう。この価格は、先の先物価格の計算方法を理解している場合明らかですが、通常自由裁量で決められているため、必ずしも市場競争力のあるものではありません。

もし、金が一日0.003%(年間1.095%)で、資金が一日0.01%(年間3.65%)貸し出される場合、適当な次の四半期の先物価格は、90日を日々の金利の差である0.007%で掛け合わせたものであるべきでしょう。そのため、現物スポット価格に0.63%のプリミアムが乗せられた価格であるべきです。

受渡#

市場の専門会社は、時として受渡を行うことを目的としています。しかし、これは一般投資家には利用できない選択肢です。

大規模な先物取引会社は、おそらく短期の資金調達を4%、金の場合は1%で行うことが可能です。それに対し、一般投資家は、金を借りることはできず、資金は12-15%ほどとなり、保管場所やその他の必要な環境が整ったとしても、受渡は現実的なものではありません。

このアンバランスな状況に注意を向けるべきです。そのため、大規模な先物取引会社は、契約終了時に小規模な先物投資家にプレッシャーをかけることを可能とするのです。

不安定な市場#

先物市場は、自然な市場ではない構造を持ち合わせています。

通常の市場においては、価格の下げは買い手を引き付け、需要が上がり価格を上げます。また、価格の上げは、売り手を引き付け、供給が増え価格を下げます。こうして、比較的市場は安定しています。しかし、主要な先物市場は、低い証拠金(金の約2%)を課する為、これにおける明確なリスクを回避するために、会員会社は、損失を出している顧客のポジションを決済する権利を保有せざるをえません。

つまりは、短期間に急激に値を下げている市場は、売ることを強制されるため、さらに値が下落します。また、急激に値を上げている市場は、買うことを強制されるため、さらに値が上昇します。これは、長期間にわたっている場合、対応することが可能ですが、先物市場の危険な側面です。

1929年にはブローカーローンで同様なことが発生しました。このように、価格が下落している際に売却を強制されることにより、この金融危機は引き起こされたのでした。市場が平穏な場合、この構造は価格の変動を奨励しますが、市場が平穏ではない場合、構造的な破綻を引き起こす可能性も持ちます。

構造的な破綻のリスク#

金を購入するということは、究極的な自衛目的の投資です。多くの人々は、金を購入することにより、世界的な経済危機のような他の人々にとっては悲惨な状況下に、大きな利益を上げることを望んでいるのです。実際、多くの金の投資家は、世界で出回っている金融派生商品などの信用超過による金融危機を憂慮しているのです。

金先物へ投資することによる矛盾は、先物そのものが95%信用取引である派生商品であるということです。この商品市場には、多くの投機家が参加しています。金価格の急激な動きは、どこかで金融破綻を引き起こしているのです。

このような場合、決済機関と市場の両者ともが、取引当事者から必要な証拠金を得ることが不可能になるかもしれません。そのため、金の投資家は、帳簿上は大きな利益を出しているように見えますが、対する企業が破綻していることにより、その支払いが受けられない可能性が残るのです。

パニックを引き起こしているように聞こえるかもしれません。しかし、先物取引における全ての側面をも考慮に入れるべきだと考えます。商品先物市場が将来的に金融市場の中で大きな役割をし、ブローカーに市場競争力高い証拠金を課する健全な市場を作り上げることは明らかであるでしょう。しかし、この市場が魅力的であるためには、顧客にブローカーは、その恩恵を分け与える必要があります。それは、すでに支払われた証拠金で、複数の取引を可能とするといったものです。そのため、信用リスクが増加した先物市場は規模を拡張し、堅実に運営している市場は規模が縮小する傾向があります。

現在の先物市場では、リスクの高い取引に関しては警告が与えられているようです。しかし、これが今後も行われていくという保証は決してないのです。

金先物-その概要#

金先物市場で成功するのは容易いことではありません。このためには、太い神経を持ち、バランスの取れた意思決定ができる必要があります。一般投資家は、先物市場は、その専門家のためのものであることを認識するべきです。そして、大きな値動きを予測して、短期の投機機会を狙ったものが、順鞘(Contango)もしくはロールオーバー費用で失われる可能性も考慮すべきです。

投資家は、市場がその透明性を失うことが問題であることも理解すべきです。市場が、明確でなく、計算が複雑な費用を適用することができるようになると、先物市場において、専門家が有利な立場に立つこととなるのです。